イギリスが6月23日の国民投票の結果EU離脱を決定して以来、移民流入の制限を優先して、EUの単一市場へのアクセスを断念する離脱「ハード・ブレグジット」に傾くのではないかという警戒感が高まっている。
「私たちは完全に独立した主権国家になる。各国の議会や裁判所の判断を覆せる超国家機関を持つ政治統合の一部ではなくなる。食品成分表示から移民の管理まで、政策決定の自由を取り戻す」
メイ首相は内相時代、強硬な移民政策を主張していたことで知られていたが、首相就任後は単一市場へのアクセスを確保する穏健的なEU離脱「ソフト・ブレグジット」路線をとるとみられていた。
2日のメイ首相の発言を受けて、4日のロンドン外国為替市場でポンドが急落、一時1ポンド1.2764ドルをつけ、1985年以来31年ぶりの安値となった。
ハード・ブレグジットになれば、イギリス財務省は1年ごとに660億ポンド(約8.4兆円)を失うことになるという試算を、イギリスのタイムズ紙が報じた。これは2016年の社会保障費1387億ポンド(約17.6兆円)のおよそ半分に相当する。
タイムズ紙が入手した内閣委員会の資料によると、単一市場から離れ、世界貿易機関(WTO)のルールに従うことになれば、EUに残留した場合と比べ、国内総生産(GDP)が大きく落ち込むという。
暗雲取り巻くEU離脱の恐怖
この資料には、国民投票キャンペーン中にジョージ・オズボーン前財相が発表した、EUを離脱した場合のリスクを試算した報告書についても言及している。報告書は、「最悪の場合、EU離脱後2年間でGDPは3.6〜6%下がり、ポンドは12〜15%下落する。離脱して15年後には、GDPは5.4〜9.5%下がる。間をとっても7.5%であり、政府の歳入は450億ポンド(約5.7兆円)減る」というものだ。
オズボーン氏は、この報告で大きな批判を受けたが、計算は間違っていないと主張したという。
また、次のようにも記されている。「公共部門の収益への実際の影響は、EUへの支出がなくなり、現在のEUからの収益もゼロになると考えると、経済規模が小さくなることで、15年間で毎年380〜660億ポンド(約4.8〜8.4兆円)を失う可能性がある」
この資料に対し、ブレグジット(EU離脱)派は「この試算は非現実的で、単一市場から離れることを悪く見せる印象操作だ」と語っている。
残留派は「ソフト・ブレグジット」を推し進め、イギリスを単一市場に残そうとした。PA通信によると、残留派は、この資料がEUから離脱した場合の「恐ろしいほどのダメージ」を示しているという。
EU残留派の団体「オープン・ブリテン」の中心メンバーである保守党のアナ・ソーブリー議員は、次のように語った。「ハード・ブレグジットは、明らかに恐ろしいほどのダメージを与えます。税収が減れば、学校や病院への支出が減り、貿易と投資が縮小すれば、事業と雇用が危険にさらされるのです」
「これだけ危険なものなのですから、EU離脱交渉は原則に立って進めなければならないのです」。
「イギリスはEUを離脱しますが、繁栄を守り、リスクを軽減するような方法で離脱しなければなりません。政府は今すぐ『WTOという選択肢は交渉のテーブルにはない』ことをはっきりさせるべきです」
シティ・インデックスの研究所所長キャスリーン・ブルックス氏は、「ハード・ブレグジットに関する政治的発言がポンドの暴落を引き起こし、投機的な売りの動きが発生した」と語った。
アメリカ商品先物取引委員会(CTFC)のデータによると、FX参加者が11日、こぞってポンド売りに出たことを示している。「フラッシュ・クラッシュ」(瞬間暴落)は$1.20で下げ止まった。
香港上海銀行(HSBC)は2016年末にはポンドが対ユーロでパリティ(等価)になると予想している。通貨レートが1:1になるということだ。休日の旅行客にとっては悪い知らせだが、輸出業者には追い風になる。
メイ首相は大きなプレッシャーを感じている。EU離脱の手続きを定めた(リスボン条約)第50条を発動させるために、イギリス王室の特権が使用できるか法的な問題があるからだ。
デイヴィッド・デイヴィス欧州連合離脱担当大臣は議員に対し、政府は「憲法上、そして法的な前例に従う」と語り、議会はイギリスが欧州連合と新しい関係を築く条約を決議した。
ティム・ファロン自由民主党党首は、「資料には、単一市場から離れれば経済が破綻する可能性があることが書かれている」と語った。
「これはまさに、ハード・ブレグジットが完全な経済を破壊させる行為になるという証明だ。自由民主党は、イギリスが単一市場の一員であるために立ち上がる。無謀で統一性がなく、配慮もない保守党政権がイギリス経済を破壊するのを黙って見てはいられません」
政府の報道官は次のように語った。「イギリスにとって最高の結果を望んでいる。それはきちんと準備したことを進めるという意味だ。イギリスの企業に単一市場で貿易、運営するための最大限の自由を与えることだ。 そして、イギリス国民が独自に移民の管理について決定できるようにしなければならない」
ハフポストUK版より翻訳・加筆しました。
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