共和党のリンジー・グラハム共和党上院議員(サウスカロライナ州)はユーモアがあり、その多彩なコメントで知られているが、2016年6月、大統領候補ドナルド・トランプ氏の選挙運動について、ある印象的な言葉を発した。
当時のトランプ氏は、明らかに自殺行為となりうる新たな言動を見せたばかりだった。メキシコ系アメリカ人の裁判官が、トランプ氏の「一攫千金」セミナーに関する訴訟で客観的に判決を下せるのか、と疑問視する発言を大っぴらにしたのだった。トランプ氏が不法移民に非常に批判的なのは衆知の通りだ。
やはり共和党のポール・ライアン下院議長(ウィスコンシン州)の考える通り、それは典型的な人種差別だった。しかし共和党員の中で、批判をものともせずに発言しているのはグラハム氏だけだ。グラハム氏は「出口ランプを探しているなら、多分これがそうだね」と言った。
誰もそのランプで降りなかった。しかしちょうど4カ月経った今、グラハム氏の先見の明は議論の余地がなさそうだ。
10月7日夜、2005年にトランプ氏が語ったとされる内容の動画が公開された。その動画の中でトランプ氏は、既婚女性とセックスしたこと、肉体関係を迫る時には富と名声がモノを言うこと、同意もなしに女性器をつかむような行為などについて喋っている。下品な行為だ。福音派グループの支持をどういうわけか保っている大統領候補としてのみならず、一般社会の目から見ても下品な行為だ。
選挙に立候補しているほぼ全ての共和党員が直ちにトランプ氏を非難した。共和党全国委員会のレインス・プリバス委員長は、どんな女性もそのような言葉で虐待を受けるべきではない、と発言した。ライアン氏は10月8日のウィスコンシンでのイベントに、トランプ氏と共に登場することになっていたが、トランプ氏は参加しないように言い渡した。
しかし、こうした物議の渦中にあって、支持表明を撤回したのはほんの一握りの幹部だけだった。それは主にユタ州の政治家で、ゲーリー・ハーバート現州知事(共和党)、ジェイソン・シャフェツ議員(共和党)、そしてジョン・ハンツマン前州知事ら。長年にわたる反トランプ論者たちにとって、他の共和党員が煮え切らない態度を取ることは、共和党が耐え続けてきた一連の屈辱を上塗りするものだった、と長年の共和党支持者は語る。
「問題は、トランプをどこまで続けさせるか、ということです」とケイティ・パッカード氏は言う。彼女はミット・ロムニー氏の選挙戦で副マネージャーを務めた。「トランプを支持するのなら、これを認めることになります」。
ジョン・ウィーバー氏はもう一人の反トランプ派で、オハイオ州知事のジョン・ケーシック氏の筆頭ブレーンだが、「共和党は昨今の大失態を好機ととらえて方針転換するべきだ」と言う。「正しいことをするには、今ならまだできるのです。でもまさに、今すぐでなければいけません」とウィーバー氏は語る。「今すぐやらなければ、生涯にわたって恥を引きずっていくことになります」。
しかし共和党の他の議員たちにとって、今この時点でトランプ氏を見捨てれば、共和党が多少なりともモラル上救われるというのは無理な話だ。ランプを降りるのが可能な日々はすでに過ぎてしまっている。
共和党には、投票用紙上のトランプの名前を別の名前と取り替えるという限られた選択肢が、ひょっとするとあるかもしれない。共和党の重鎮たちは、トランプ氏が本当に辞退することを望んでいる。しかし、事態がどう転んでも、共和党はトランプ氏の爪痕を消すことはできない。少なくとも今しばらくは。
グラハム氏が共和党の仲間に船から飛び降りるよう促した時点でさえ、どう考えても「みそぎ」はありえなかった。どちらにせよ、このグラハム氏が訴えた時には、トランプ氏はすでにメキシコの移民たちを強姦犯と呼び、イスラム教徒のアメリカ入国を全面的に禁止する法案を提案し、女嫌いとしても有名になっていた。もしその時点でランプを降りていたら、それ以前の問題言動が大統領候補に不適格とみられなかったと取られても仕方がない。
グラハム氏のコメント以降も、ほとんど同じことが続いている。トランプ氏は戦死遺族に公の場で喧嘩を売った(戦死した兵士の母親が、信仰上の理由で話をすることを禁じられたということを疑問視した)。また、明らかに反ユダヤ的な画像をリツイートした。現大統領を過激派組織「イスラム国」(IS)の創設者呼ばわりし、銃愛好家たちにヒラリー・クリントン排斥を示唆したり、ミス・ユニバースの優勝者をデブ呼ばわりし、さらにその後で彼女はやっぱりデブだと言って自己弁護したりした。18年間、連邦所得税を払わなかったらしいと露呈し、オバマ大統領の国籍疑惑を焚きつけた挙句、やっと形式ばかりの疑惑否定を行った。
以前の選挙戦なら、これらの問題言動はそれぞれ致命的なものとなっていただろう。しかし、トランプ氏が何か1つ、政治上の才能を垣間見せると、難局からさらに前進するのがトランプ氏の手腕だということになる。たとえ前進してまた次の難局に踏み込んでしまっても、だ。選ばれた共和党員たちが支持表明を取り下げなかったことで、その共和党員たちはこのトランプ氏の振る舞いを日常化させ、党のイメージとして浸透させたことになる。トランプ氏のホットマイク事件をいかに嫌悪しているか訴えてまわる姿は、痛々しいまでに空虚に響いた。
マイク・ペンスが昏睡状態から目覚めて、ドナルド・トランプの副大統領候補となっていることに気づいた。
なんと恐ろしくドラマチック
トランプ氏がロジャー・アイルス氏を登用して選挙運動を手伝わせたのは、トランプ氏が「セクハラ野郎」という言葉を使ったのを世間が知るずっと前のことだった。このフォックス・ニュースの元局長アイルス氏は、現在彼自身のセクハラ問題の渦中にある。しかし、10月8日に討論会の準備でアイルス氏がトランプ氏と密談することに異を唱える共和党員はほとんどいないだろう。
また腐臭がする? 別に新しいことではない。もう嗅覚が麻痺しているのだろう。
ハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。