「銃で性器を撃ちぬく。これは性欲ではなくテロだ」ムクウェゲ医師、コンゴのレイプ被害を語る

アフリカ中部のコンゴ民主共和国で兵士らからレイプを受けた被害者4万人以上を治療してきた婦人科医のムクウェゲさんが、ハフポスト日本版のインタビューに応じた。

紛争が続くアフリカ中部のコンゴ民主共和国で兵士らからレイプを受けた被害者4万人以上を治療し、2016年のノーベル平和賞の候補にも挙げられた婦人科医のデニ・ムクウェゲさん(61)が10月上旬に来日し、ハフポスト日本版のインタビューに応じた。ムクウェゲさんは絶えない性暴力について「銃で性器を撃ちぬくというような行為は性行為ではない。女性を破壊する行為でテロリズム」と語った。

インタビューに答えるムクウェゲ医師=東京都港区
インタビューに答えるムクウェゲ医師=東京都港区

デニ・ムクウェゲ(Denis Mukwege) 1955年生まれ。1999年にコンゴ東部のブカブにパンジー病院を設立し、4万人以上の性暴力被害者の治療に尽力してきた。また、性暴力の加害者が処罰されないことを問題視し、法律相談所を開設するなど、法の支配の確立にも力を入れてきた。

同時に、コンゴ東部での紛争と性暴力の関係について、国連本部をはじめとする世界各地で演説し、女性の人権尊重を訴え、国連人権賞(2008年)、ヒラリー・クリントン賞(14年)、人権擁護などに貢献した人物や団体に贈られる「サハロフ賞」(14年)などを受賞。16年5月のタイム誌では「最も影響力のある100人」に選ばれた。

コンゴでは1996年に紛争が勃発。97年に反政府勢力が独裁を続けていたモブツ大統領から政権を奪取したが、翌年に新たな反政府勢力が武力闘争を始めた。2002年末に和平合意が成立したが、現在も戦闘が続く。兵士らは住民を支配する手段として日常的にレイプを繰り返している。

鉱山を資金源とする各武装勢力は組織的に女性に激しい性暴力を加え、被害者だけではなく、鉱山周辺の住民に恐怖を与え、強制移住させているという。ムクウェゲ氏は、携帯電話などに使われる希少金属タンタルなど「紛争鉱物」が性暴力被害につながっていると訴えている。

紛争鉱物 紛争地域で産出される鉱物を使用することで現地の武装勢力の資金調達につながり、紛争に加担すると危惧される鉱物。米国はコンゴなどで採掘されるタンタル、タングステン、スズ、金の4種類を指定し、使用状況の公表を上場企業に義務づけている。日本国内の法規制はない。タンタルはパソコンや携帯電話などのコンデンサー(蓄電器)に使われる。

 

コンゴ:「レイプが兵器」実情知って 実録映画公開 - 毎日新聞より 2016/10/08 12:31)

ムクウェゲさんの活動を描いたドキュメンタリー映画「女を修理する男」が、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)主催の「第11回UNHCR難民映画祭」で上映される。上映は東京で15日、大阪で23日。このほか、各地で上映が予定されている

ムクウェゲさんとの一問一答は次の通り。

――コンゴでは性暴力が深刻な状況だと聞きます。特に酷いものはどんな状況でしょうか。

一人ひとりの女性にとってレイプはそれぞれ深刻です。レイプが精神的に将来の生活に与える影響は計り知れないからです。「ただのレイプ」と受け取られることがありますが、レイプはその人の生活だけでなく将来も壊します。そして、ときには二世代にわたって破壊するのです。

レイプされて性器が腹腔に達するまで完全に切り開かれた12カ月の赤ちゃんを見たときには、特にショックを受けました。この何の罪もない赤子にどうしてこのようなことが起きるのか、理解に苦しみました。最悪です。肉体と精神への影響を見るまでに18年ぐらいはかかるでしょう。この子の将来はどうなるのでしょうか。

ある女性は7人の男にレイプされた挙句、性器を銃で撃たれて膀胱と直腸を破壊されました。病院には死ぬために来たような状態でしたが治療によって助かり、いまは病院で看護師として働いています。

レイプそのものがすでに酷いことですが、さらに銃で性器を撃ちぬくというような行為をもはや何と呼んだらいいかも分かりません。性器が火傷を負ったり棒が突き刺されたりする事例などをたくさん見てきました。これらは性行為でも性的欲求によるものでもありません。女性を破壊する行為で、テロリズムと言えます。なぜなら、このような事件を目撃した市民たち皆がトラウマを抱え、「ここにはいられない。逃げ出さなくては」と思うからです。このような恐怖や女性に対するテロリズムは、コミュニティを破壊する目的で行われます。

例えば、10人の男に同時にレイプされた女性が妊娠して、出産します。誰が父親なのか分かりません。子供を育てたいと思ったとしても、父親が誰かさえ分からないというトラウマがあります。あるいは、レイプでエイズに感染することもあります。感染すれば生涯続きますし、子供も感染するかもしれません。

――あなたの映画を見て、性的テロリズムの惨さが分かりました。同時に、映画では回復していく女性たちの力強さも印象的でした。女性たちから学んだことはなんですか?

人間を信じることを学びました。そしてそれは、私自身を大いに助けてくれます。女性たちが私の病院にくるとき、ほとんどの場合は性器にとても酷い傷を負っています。私でさえも、彼女は二度と立ち上がれず回復は不可能だ、という印象を受けることがあります。普通の生活を再建する手立てが全く見えないのです。しかし、ともかく女性たちは本当に強いことを学んだと言いたいです。私の周りで目にするのは、トラウマになるような出来事を経験したにもかかわらず、レイプによって完全に破壊された社会のなかで再び歩み始めている多くの女性たちの姿です。

レイプは武器として使われています。コミュニティに対するテロリズムです。例えば、夫婦の関係は、妻が夫の前で犯されたことによって破壊されます。レイプで生まれた子供がいたとしたら、同じ家族の別の子供たちは、自分たちの父親を殺した犯人の子とは一緒に暮らしたくないということもあるでしょう。社会機構が破壊されたら、コミュニティが立ち上がるために助け合おうと、社会にどう伝えることができるでしょうか。とても難しいことです。

映画「女を修理する男」より
映画「女を修理する男」より

――おぞましい性暴力の被害にあった女性たちの手術に日々あたるのは、精神的にも肉体的にも大変だと思います。いまの活動を続けるための原動力は何ですか?

やはり、女性たちの強さです。酷い状況を経験してもなお微笑んでいるのを見るたびに、自分の小ささを感じます。毎朝、例えば、手術をした女性が「ドクター、見に来て!きちんと排尿ができるようになりました」と自信に満ちた表情で話しかけてくれます。これほど大きい報酬はありません。その一つ一つが、私が前に進む原動力です。

――世界各地の人道危機により、「難民問題」が注目されています。日本にもシリアやコンゴ民主共和国などから難民が逃れてきていますが、日本は非常に厳しい政策をとっており、難民をほとんど受け入れていません。世間の「無関心」がその消極的な政策をつくっていると思いますが、「無関心」を乗り越えるために、日本の人へどんなメッセージを送りたいですか?

情報を与えなくてはなりません。十分に情報が届いていないなかで、人々をただ「無関心」だと責めることはできません。これはメディアの役割です。

訪れた多くの国でコンゴ人と会いましたが、この人たちは皆、コンゴでは非常に有用な人材です。コンゴがもし平和になれば、彼らはコンゴで多くのことができると思います。しかし、ナイフで殺し合いが起き、女性たちがこんな扱いを受けているような国へどうして帰れますか。皆さんは何が起きているのかを知るべきで、私たちはそのためのキャンペーンをする責任があります。

ヨーロッパでは今日、「難民はいらない」ということばかりが言われていますが、なぜ国を去らないといけないのでしょうか?すべてをやり直さなければいけない外国に逃れるのは賢い選択ではありません。難民となることは楽しいことではありません。

コンゴの普通の人たちは鉱物のために戦ったりはしていません。私の母は携帯電話の使い方を知りませんし、村の多くの人たちは電化製品の使い方を知りません。しかし、彼らは、国外の人たちがこれらの製品を得るために命を懸けているのです。まずはこうした情報を与え、次に、こうした不条理と闘うべきです。消費者である人々が、自分たちが消費しているものが、どこからきていてどのように作られたものなのかを意識するよう、目を覚ませと私たちは言わないといけません。

コンゴで人間らしさを実現するには、それしかありません。「私たちは日本で平和に暮らしています。私たちには関係がない」といっても、身に危険が迫ったとき、国を逃れようとする難民は日本を目指すかもしれません。世界中から難民が押し寄せたら、大変なことです。 自分たちだけで平和を得ることはできません。すべての人々にとって平和がなくては、真の平和にはならないのです。

インタビューに答えるムクウェゲ医師=東京都港区
インタビューに答えるムクウェゲ医師=東京都港区

――ところで、コンゴ民主共和国の大統領選が年末に行われる予定ですが、延期されるという報道もあります。コンゴの政治状況についてどう見ているか、また日本の人々は何を知るべきでしょうか?

現在の経済的な紛争(鉱物紛争)に内戦が加わる可能性があり、日本の支援や声を必要としています。カビラ大統領はすでに2期やっており、憲法上3選は認められていません。しかし、彼はすべてのことを先延ばししようとしています。9月下旬には、その憲法改正に反対し、選挙を求めてデモをした50から100人が殺されました。

いま私たちが必要としているのは、このような独裁は許されないという後押しです。現在起きている経済的な紛争に加えて、内戦が起きれば、コンゴからのたくさんの難民が、あなたの国のドアをたたくことになります。ルワンダ、ウガンダ、ブルンジなどでも同様の独裁が起きています。大統領は紛争の種を作っているようなもので、その種が難民流出を生み出しています。これは許されてはいけません。日本の人たちには、大統領に対して反対の声をあげているコンゴ人たちを応援してほしいと思います。

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