ドゥテルテ大統領の容赦ない麻薬撲滅戦争 超法規的殺人の急増でフィリピンの路上に死体が転がる

「フィリピンは現在極めて危機的な状態にあります」
Philippine President Rodrigo Duterte arrives at the ASEAN Summit family photo in Vientiane, Laos September 7, 2016. REUTERS/Jorge Silva
Philippine President Rodrigo Duterte arrives at the ASEAN Summit family photo in Vientiane, Laos September 7, 2016. REUTERS/Jorge Silva
Jorge Silva / Reuters

【閲覧注意】この記事にはフィリピンで最近起きた殺害画像が含まれます。

麻薬密売の容疑をかけられ、自警団に処刑された容疑者の遺体。2016年8月9日フィリピンのマニラ首都圏マカティ市の路上。

フィリピンの警察と自警団はフィリピン国内でここ数カ月のあいだに2000人以上を射殺した。新大統領ロドリゴ・ドゥテルテの容赦ない麻薬撲滅戦争は日に日にエスカレートしている。麻薬の売人や使用の疑いをかけられた人が殺害され、血まみれの遺体は路上に放置され、街を恐怖のどん底に陥れている。

射殺事件が急増したのは、ドゥテルテ大統領が過激な手法で国内の麻薬取引を撲滅するという選挙公約を実行に移したためだ。その公約を掲げ、ドゥテルテ氏は5月の大統領選挙で圧勝した。2010年以降、犯罪件数が2倍以上になったと報告されているフィリピンでは、多くの有権者がドゥテルテ氏独特のの安易なポピュリズム、そして厳しい制裁で国内の社会的、政治的問題が手っ取り早く解決すると評価した。

しかし複数の人権団体は数年前から、ドゥテルテ氏が前職のダバオ市長時代に自警団「デス・スクワッド」を支持していたとして彼を非難し、極めてひどい人権無視に反対している。ドゥテルテ氏が選挙での公約を実行に移し、暴力的な取り締まりが始まるという批評家の懸念は正しかったようだ。自警団と警察は、基本的に司法手続きを経ずに人を殺害することが認められている。

【参考記事】

「フィリピンは現在極めて危機的な状態にあります」と、人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」アジア支局長代理フェリム・カイン氏はハフポストUS版に語った。

「警察が麻薬の取引や使用の疑いがある人を殺害する事件は急増しています。同時に、正体不明の自警団が犯罪容疑者と根拠なく断定した人を殺害する事件も恐ろしいほど増えています」

薬物依存の疑いがあり自警団に処刑された遺体を調べる殺人課の刑事。遺体は両手を縛られ、頭をテープでぐるぐる巻きにされていた。2016年7月27日フィリピンマニラの路上。

■ 急増する警察と自警団による殺害事件

2016年の初めから5月9日の大統領選挙までに、警察は麻薬撲滅作戦で39人を殺害した。しかし「フィリピン・デイリー・インクワイアラー」紙の追跡調査によると、大統領選以降、正体不明の複数の自警団と警察が殺害したのは、少なくとも693人だという。

フィリピンで殺害された人の多くは歩道や排水路に放置され、遺体の近くには麻薬取引に関わっていたと書かれたボール紙が落ちている。路上で射殺され、このような紙をそばに置かれ、時には手を縛られたり頭をテープでぐるぐる巻きにされた市民の写真を地元メディアが報道するというのが、この麻薬撲滅戦争で欠かせないものとなった。

麻薬密売の疑いがあり自警団に処刑された遺体を調べる警察とメディア。2016年7月31日、フィリピンマニラの橋の下。

マニラでジェニリン・オライレスさんが夫マイケル・シアロンさんの遺体を抱く写真はフィリピン国内のメディアで大きな反響を呼んだ。オライレスさんはシアロンさんの死後、政府を強く非難した。シアロンさんは三輪タクシーの運転手で、人を傷つけたことはないと擁護した。

ドゥテルテ氏は物議を醸した写真について議会で反論した。オライレスさんを「キリストの死体を抱く聖母マリアのように報じている」と、メディアをからかった。

フィリピンマニラの大通りで射殺された夫マイケル・シアロンさんの遺体を抱くジェニリン・オライレスさん。2016年7月23日。

■ 高まる麻薬撲滅戦争への批判

死者が増えるにつれて、ドゥテルテ氏のやり方に国内外の人権団体から批判が高まっている。8月初めに数百もの市民団体が国連薬物犯罪事務所(UNODC)に手紙を送って対応を求め、取り締まりを批判する声明を出してほしいと嘆願した。

フィリピンの上院委員会は8月下旬に殺害に関する調査を開始した。

長年フィリピンと同盟関係にあるアメリカも殺害に関して懸念を表明した。しかし8月上旬にフィリピンのアメリカ大使フィリップ・ゴールドバーグ氏を「ゲイ」「クソ野郎」と侮辱した上、9月5日のASEAN首脳会議でもオバマ大統領を「くそったれ」と罵り、予定されていた首脳会談は中止になった。また、12日の演説で「アメリカ軍は出て行け」と発言するなど、ドゥテルテ氏はアメリカの怒りを煽り続けている。

【参考記事】

批判が高まっているにもかかわらず、ドゥテルテ氏は繰り返し殺害を推奨している。大統領に就任する直前の6月、彼は一般市民にまで、もし手段があるなら麻薬取引に関わった人物を処刑するよう働きかけた。

「私たち、警察を遠慮なく呼んでほしい。もし銃を持っているなら自分の手で撃ってもかまわない。私が支持する」とドゥテルテ氏は6月5日の集会で語った。また、殺害すれば勲章を授けると付け加えた。

警察の作戦で射殺され家の外に横たわる麻薬密売容疑者の遺体。2016年8月10日、フィリピンマニラのスラム街。

ドゥテルテ氏以外にも、麻薬撲滅戦争を支持している高官はいる。7月、フィリピンの検事総長が麻薬撲滅作戦で殺害された犯罪者の数は「十分ではない」と発言した。

「大統領や政府高官は、警告を発したり緊急捜査を求めてこのようなことがなぜ起きるのかを調べるのではなく、警察や正体不明の自警団の暗殺者にこのような行動に出るよう推奨しています」とカイン氏は語る。

カイン氏によると、殺害のターゲットにされるのは社会の片隅に置かれ、貧しく狙われやすい人だという。

「こういう人たちは路上で麻薬を売る、または使用していると言われています。彼らは麻薬を輸出入するような大物の売人ではなく、フィリピンの街の路上で麻薬を供給しているという観点からすると、大きな違いがあるのです」とカイン氏は語る。

2016年7月21日に撮影された写真。マニラにあるケソン市刑務所の野外バスケットボール場で眠る受刑者たち

■ 囚人で溢れかえる刑務所

超法規的殺人の急増に加え、麻薬取締の恐怖からこれまで数千人が自首している。フィリピン当局によると、60万人もが自首してきたが、大多数はまだ収監されていないという。

それでも逮捕者は増え、ドゥテルテ大統領の政策によってすでに満員のフィリピンの刑務所がさらに囚人で溢れかえることになる。マニラにあるケソン市刑務所の写真には、施設の床に所狭しと並ぶ囚人たちが写っている。この施設は800人収容できるよう設計されているが、現在3800人が収監されている。囚人たちは順番に地面で眠るという。

刑務所内の環境はたいてい劣悪なものだ。複数の人権団体は、多くの刑務所が受刑者に適切なケアをせず、伝染病が蔓延しやすいと指摘している。

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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