治安部隊の前で国旗を両手に持って抗議するデモ参加者
深刻な経済危機が続く南米ベネズエラの首都カラカスで、ニコラス・マドゥロ大統領の罷免を問う国民投票の実施を求めて大規模デモが起きた。
8月以降、カラカスでは幻滅した何万人ものベネズエラ国民がデモ行進をしている。選挙管理委員会に早急に国民投票を実現させ、ニコラス・マドゥロ大統領が政権にとどまるべきかどうかを国民に決めさせようとする反政府派のキャンペーンの一つでもある。
現在ベネズエラは、過去200年の間でも類を見ない最悪の不景気にあり、犯罪率が急上昇し、生活必需品の不足が深刻化している。
「ベネズエラはすでに崩壊している。経済的、社会的、政治的危機に直面している」と、ベネズエラの人権擁護活動家リリアン・ティントリ氏は言う。夫のレオポルド・ロペズ氏は強硬派の反政府リーダーでもある。ハフポスト・メキシコ版によると、2015年にロペズ氏は抗議運動で「暴動を扇動した罪」により投獄されている。
「最悪なのは、薬品も食料も手に入らないことです」と、ティントリ氏は北西部の都市バリナスからの電話で語った。現在ティントリ氏は、バリナスからカラカスへ向けて非暴力のデモ行進を先導している。
他のベネズエラの活動家たちと共に、ティントリ氏は3月以来大統領解任の国民投票を要求してきたが、国の選挙管理委員会は度々延期を繰り返している。事態を先送りさせることが与党にとって最も都合が良いからだ。投票を2017年1月まで遅らせることができれば、仮にマドゥロ大統領の罷免が成立しても、代行として副大統領が任期いっぱいの2019年末まで大統領の座にとどまる権利を得て、権力が維持できるからだ。
野党が望む早期の国民投票が実現すれば、体制を一新する好機となる。世論調査では圧倒的多数の国民がマドゥロ大統領の退任に票を投じることになる。
学生の抗議グループは「解任」の言葉を含む横断幕を掲げ、2016年8月24日、ニコラス・マドゥロ ベネズエラ大統領政権を糾弾するためにカラカスに集結した。
「政府と国政の仕組みの変革を求めています。新しい人材を、そして、国民から尊敬され何よりも民主的なリーダーを、私たちは求めています」と、ティントリ氏は語った。
ニコラス・マドゥロ政権は、世界各国から人道的な援助を求めようとしない。危機に直面していることを認めていないからだ。
「ラ・サリーダ」と名付けられたマドゥロ退陣を求める抗議運動は、政治腐敗、国の安全保障、経済不振の立て直しに失敗した現政権を批判する声が次第に高まって始まった。
商品がほとんどないスーパーマーケットに入るために1マイルもの列を作って待ち、停電を我慢し、国民が日々の生活のやりくりに四苦八苦している今、マドゥロ氏の支持率は下降の一途をたどっている。
「4人家族を食べさせるには最低賃金は16ドル(約1650円)が必要だ」と、ティントリ氏は説明する。
ロペズ氏やその他の政治犯を弁護する仕事に加えて、ティントリ氏は政府に対し、人道援助の窓口を開いて医療品などの国際的な支援を受け入れ、必要としている国民に支給するよう要求している。しかし、彼女の努力にも政府は聞く耳を持たない。
腎臓移植患者のナターシャ・スアレスさんは、2016年6月29日ベネズエラのカラカスにある薬局の外で抗議運動に参加し、「私の健康はゲームではない」と書いたプラカードを掲げる。
「マドゥロ政権は人道的な援助を求めようとしない。危機に直面していることを認めていないからだ」と、ティントリ氏は語る。政府が非常事態を宣言しようとしないから、他国の支援組織からの物資が入ってこない。
9月1日の大規模デモは国民の怒りを公に示すことを目的としている。世論調査会社「DatinCorp 」のマネージャーであるヘスス・セギアス氏はベネズエラのラジオ局RCMのインタビューで、カラカスの人口の34%にあたる125万8000人がデモ行進に参加すると語った。アマゾン川流域の州に居住する先住民族の住民代表も国会議事堂へ出向き、不満を表明し、マドゥロ大統領の退陣を要求する。
政府によるこれまでのデモ鎮圧により、近年は反対派が一般大衆を先導することが難しくなっている。2014年には、強硬路線の反政府リーダーであるロペズ氏、アントニオ・レデツマ氏、マリア・コリナ・マチャド氏の呼びかけによる抗議運動が警察の反撃にあい、43人が死亡している。
ロペズ氏は死者の出た抗議運動を招集・参加した罪で14年の懲役に服している。ティントリ氏によると、執拗な肉体的心理的虐待を受けながらも、ロペズ氏は獄中で耐えていると言う。
「レオポルドは忍耐強い人です。頑張っていますよ」と、ティントリ氏は語った。「レオポルドは『リリアン、彼らは僕を靴箱の中に封じ込めることはできても、僕は決して彼らに屈しないし、自分の自由のために妥協したりしない。僕の自由は、ベネズエラの自由なのだから』と言っています」
ロペズ氏の投獄以来、ティントリ氏はアメリカのジョセフ・バイデン副大統領、メキシコのクラウディア・ルイス=マシュー外務大臣、スペインのマリアノ・ラホイ首相といった国際社会の要人と面会し、夫や他の政治犯たちの釈放に向けて支援を求めている。
人権団体アムネスティー・インターナショナルはロペズ氏を「良心の囚人」と認め、即時釈放を求めている。同団体の調査担当カロライナ・ヒメネス米大陸副長官は8月初旬、「レオポルド・ロペズ氏は、ベネズエラ政府に異議を唱える者全てを対象とした、卑劣な『魔女狩り』の犠牲者だ」と述べた。
「容易なことではありませんでした」と、2人の子供をもつティントリ氏は言った。「レオポルドと他の人たちを支え、世界中にベネズエラがどんなことになっているのかを伝えなければなりません」
「治安の悪さ、今の政府、土地や会社の強奪のために亡命や強制立ち退きを強いられ、離れ離れになった多くの家族がいます」と、ティントリ氏は続けた。「こうした家族たちが全員、そして私の家族も、また会える日が間もなくやって来るのだという思いを、日々の慰めにしています」
ハフポスト・メキシコ版の英訳より翻訳・加筆しました。9月1日にローンチしたハフポスト・メキシコ版はこちら
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