アメリカ大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏は8月31日、メキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領と首都メキシコシティーで会談した同じ日にアメリカ・アリゾナ州フェニックスで自らの移民政策について演説した。
ペニャニエト大統領との対談では、メキシコの不法移民に対する強硬姿勢は影を潜め、「国境の壁の費用については話していない」「メキシコ人は友人だ」などと、メキシコに配慮する発言が目立った。
しかし、アメリカに戻って支援者たちを前にすると、「不法移民にはいっさい容赦しない」と、強硬な主張を繰り返した。
トランプ氏は演説で、ペニャニエト大統領と不法に薬物や資金、銃、不法移民が国境を超える問題を解決することで同意し、トランプ政権になった暁には両国で新たな関係を構築し、対話を重ねることを希望したと主張した。
しかし、移民政策については一切妥協していないと述べ、
1. 南部の国境に壁を築く
2. 不法移民のキャッチ・アンド・リリース(罰を課さずに放免する)をやめ、厳罰に処して国外退去させる
3. 外国人犯罪者を厳罰に処す
4. 「サンクチュアリ・シティ(聖域都市)」(シカゴ、ニューヨーク、サンフランシスコなど不法移民にも公共サービスを提供する条例を定めている都市)への送金を停止する
5. 憲法違反の大統領命令を撤回し、移民に関する法律すべてを強化する
6. 十分な移民審査が行われていない場所はすべてビザの発給を停止する
7. 不法移民の強制送還を命じた時は、受け入れ拒否の国も含め、必ず外国に戻す
8. 生体認証機能をもった出入国管理システムを完備させる
9. 不法移民を解雇し、自国民に利益をもたらす
10. 合法移民の制度を改め、アメリカ国民とその労働者に最善の利益を提供する
という、10項目の政策を掲げた。
演説の中でトランプ氏は、「不法移民が密入国して隠れていても、合法移民になる日は来ない。そんなことはさせない。そんな時代は終わったんだ」と述べ、「私が大統領になった第1日目、最初の1時間で不法移民は一掃される」と強気な発言を繰り返した。
また、ペニャニエト大統領との対談では壁の建設に関して「話していない。後日改めて話し合うことになる」と言葉を濁していたにも関わらず、移民政策の演説では「不法移民たちが足を踏み入れられない美しい壁を築く。費用はメキシコが払う。100%だ」と、態度を一変させた。
このようにトランプ氏は移民政策について、これまでの中で最も詳細に説明した。ところが翌日の9月1日になると、自らの発言をごまかすような発言を繰り返した。
9月1日朝、保守系ラジオ番組に出演したトランプ氏は、司会者のローラ・イングラハム氏に対し、不法移民の合法的な滞在を認めるのではないかと思われるような発言をした。
「政策を柔軟にするとは、どの点をですか?」、とイングラハム氏が質問した。
「ええ、柔軟にするというのは」と、トランプ氏は切り出し、移民政策を「極めて人道的な方法で」実行し、ギャングのメンバーや麻薬の密売人、犯罪者をまず最初に国外退去させると繰り返した。
「この国には、住んではいけない人がたくさんいます。そういう人は追い出します」と、トランプ氏は語った。「そして、すべてが落ち着いたら後日決断を下します。ある程度の柔軟な政策を、これから目にすると思います」
厳格な法律を執行し、不法移民の合法滞在資格を否定し、不法移民の国外退去を約束する演説から24時間も経たないうちにこんな発言をするなんて、とても図々しい。しかしそれがまた、トランプ氏のやり方だ。トランプ氏は移民政策の詳細に触れないまま1年以上過激な発言を繰り返した。政策の空白部分は、トランプ氏の支持者がどうしたいのか、トランプ氏の方向性も含めて考えてくれるだろうと放っておいたのだ。
この問題から得られる最大の教訓はこうだ。トランプ氏の「柔軟になる」という言葉は特に意味を持たない。「人道的」とか「公平」という言葉も、この文脈では同じく意味を持たない。そのような言葉は主観的で、人によって感じ方が大きく異なり、思いのままに印象操作する、トランプ氏の発言の大きな特徴だ。
厳密に言えば、トランプ氏が9月1日朝に発言した内容は、8月31日夜に発言した内容の一部が反映されている。トランプ氏の中心テーマから外れた、何げないコメントにすぎない。トランプ氏は番組で主に法律の執行について発言した。犯罪者、国にとっての脅威なる人間、あるいはビザが切れて不法滞在している人に関連する内容が大部分だが、はっきり明言したのは、すべての人が常に国外退去する可能性があると、ということだけだ。
さらに番組の終盤でトランプ氏は、この先今とは異なる移民政策をとるかもしれない、ということを少しだけ認めた。
「数年で、我々はあらゆる法律の執行や国外退去の目標を成し遂げ、万里の長城の建設を含む不法移民の問題を完全に解決する」と、トランプ氏は演説で述べ、アメリカは合法的に滞在する人々は適切な利益を得られるようになる発言した。
「この政策は、不法移民は過去の記憶となり、不法移民がもはやアメリカには存在しないような環境に限り実施される。その時点での新しい状況に基づいて、選択可能な幅広いオプションを検討できるような環境だ」と、トランプ氏は述べた。
9月1日に「移民政策のすべてが落ち着いたら後日決断を下す」とトランプ氏が発言していたのは、このことだ。移民政策を柔軟にすることではない。演説の大部分からは、トランプ氏が可能な限り多くの不法移民を退去させるつもりだと明らかになった。そして不法移民たちは再入国が保証されていないにも関わらず、まず母国に帰国しない限りは、誰も「恩赦」や合法滞在を認められないと断言している。
トランプ政権が数年の任期を経て、権限を失った後の移民たちにとって、アメリカに残る不法移民とは一体誰を意味するのか? そして誰がトランプ大統領の柔軟な政策を体験するのだろう?
トランプ氏の筋書き通りなら、ほとんど誰も残らないだろう。
ハフポストUS版編注:ドナルド・トランプ氏は世界に16億人いるイスラム教徒をアメリカから締め出すと繰り返し発言してきた、嘘ばかりつき、極度に外国人を嫌い、人種差別主義者、ミソジニスト(女性蔑視の人たち)、バーサー(オバマ大統領の出生地はアメリカではないと主張する人たち)として知られる人物である。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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