ガザ地区で起業支援コンテスト 主催の上川路文哉さん「悲惨な状況だが、人々に希望を与えたい」

パレスチナ自治区ガザの若者の起業を支援するため日本人らが主催したビジネスコンテストが8月、ガザで行われた。主催者の一人の会社員、上川路文哉さんにハフポストが聞いた。
Fumiya kamikawaji

イスラエルに境界を封鎖されて「天井のない監獄」とも呼ばれるパレスチナ自治区ガザ。このガザの若者の起業を支援するため、日本人の若者らが主催したビジネスコンテスト「ガザ・アントレプレナー・チャレンジ 2016」が8月10~11日、ガザ南部ハンユニスで開かれた。書類選考を通過した起業家10チームがそれぞれのアイデアを競い合った。

主催したのは日本の会社員、上川路文哉さん(35)ら。大学時代からパレスチナ問題に取り組んできた上川路さんは、ガザの人々の無力感が年々強まっていることを心配し、「自分の力で稼げば自信が持てる」との思いから企画した。日本の教育支援NPO「e-Education」創設者で、バングラデシュで高校生の教育支援などをしてきた税所篤快さんと準備をしてきた。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の協力も得た。

コンテストでは、ガザの10~30代の若者を対象に「身近な生活改善につながり、公共性の高い」ビジネスのアイデアを募った。審査員には、上川路さんや一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一さん、UNRWA保健局長の清田明宏さん、社会的投資会社「ARUN」代表の功能聡子さんら、産官学、NGOなど日本とパレスチナ人の20人が務めた。

審査の結果、「戦闘で破壊された建物の再建に不足する建築資材を灰からつくる技術」を提案した「Green Cake」が優勝し、「停電が続く中、大量の電力を使わずに荷物を運べる昇降機」を提案した「Sketch Engineering」が準優勝となった。この2チームに賞金5千ドル(約50万円)ずつが贈られることになった

ビジネスコンテストの様子。上川路さん(左)と一橋大の米倉教授(左から2番目)ら

ガザはイスラエル軍との度重なる戦闘で荒廃し、世界最悪レベルの失業率にあえいでいる。時事ドットコムはつぎのように伝えている。

パレスチナ中央統計局によると、イスラエルによる境界封鎖で「天井のない監獄」とも呼ばれるガザの失業率は、約42%(6月末時点)と世界最悪水準。特に30歳未満の若者は約58%と深刻だ。大学を卒業しても職がなく、度重なるイスラエルとの戦闘の影響もあり、多くの若者は希望を失いつつある。

 

若者に自分で生きる力を=日本人主催でビジネスコンテスト-ガザ:時事ドットコムより 2016/08/12 14:40)

コンテストを終えた上川路さんはハフポスト日本版に対し、「熱気あふれるビジコンを通し希望を貰ったのはむしろ私たちでした。『Green Cake』『 Sketch Engineering』という有望な優勝・準優勝チームを得て、ようやくスタートラインに経ったところです。現地のインキュベーターや国連のサポートを得つつ、ガザの若いアイデアと日本の知恵・リソースを有機的に結び付けていくべく、全力を尽くしていきます」と語った。

■「ガザはよくなっている気配がない」

ハフポスト日本版は、上川路さんにプロジェクトへの思いやきっかけなどを聞いた。

――プロジェクトを始めたきっかけはなんですか。

直接的なきっかけは、2014年夏の50日間にわたるガザ侵攻(「2014年ガザ紛争」)です。民間企業で働く自分が出来る貢献は何かと思いあぐねていたところ、UNRWAの清田さんや一橋大学の米倉教授、e-Educationの税所さんと昨年出会い、一気に具体化しました。ガザは失業率が高いので、起業家養成のためのビジネスコンテストが開けないかという話でした。税所さんとは一緒に現場に行きましたが、ガザでは若者の失業率が高い一方で学歴は高く、ニーズは相当あるとみました。UNRWAの協力を得て、プロジェクトを2月から進めてきました。

ヨルダン川西岸(パレスチナ自治区)では海外経験のある人が増えるなどして国際化が進み、人々の間ではICTセクターを中心に「俺たちの国をどうにかしようぜ」というトレンドが広がっています。ガザにもその流れは波及しており、乗っかれそうだと感じました。ただ、ガザではビジネスを起こしていく必要がある一方、インキュベーターの数がまだまだ足りません。

――地元の受け止めはどう感じていますか。

アラブ人のメンタリティーは「良い意味でおせっかい」です。盛り上がりや熱気を感じます。パレスチナとしては、日本の知恵やネットワーク、カネが入るのは大歓迎です。

ガザでは持続可能な無理のない仕組みが必要です。私たちは人々に希望を与えたいですし、女性に希望を与えるプロジェクトにしたいという気持ちがあります。女性をマジョリティーにしたいです。

――コンテストのあとは、どう開発に続けていくのですか。

イベントを開くだけでなく、持続可能な仕組みづくりをしたいです。ガザでは、力を持て余している人がたくさんいるので、彼らが尊厳をもって自活できるようにしたいのです。ガザでは人々の7、8割が補助金に頼っていて、男性は仕事がなくてやることがない人が多く、嫁さんに何か買ってあげることもできません。子供に小遣いもあげられません。一方、家事を担うのは奥さんで、補助金をもらいに行くのも奥さん。配給を国連らからもらうのも女性です。男は立場がないんです。

私がやりたいのは、ガザの人たちが自らおカネを生み出して生活を豊かにすることです。生きる術を持つ人を増やすこと。そういう貢献です。補助金とビジネスでもらうカネの額が同じでも、自分で稼げば自信が持てるし周りもインスパイアされます。

――現地は今、どんな状況でしょうか。

2014年夏のイスラエルから大規模な侵攻では、イスラエル兵は危険にさらされることなくリモートからドローンやミサイルなどでピンポイント攻撃をしたので、パレスチナ側は手も足も出ません。それにもかかわらず、止められないと分かっていながら、死に場所を選ぶために家に残った男性も多かったと聞いています。

この侵攻ではGDPの約15%が失われたほか、かろうじてガザの地下経済を支えていたエジプトとのトンネルも徹底的に破壊されました。それ以降は「Status Quo(現状のまま)」で良くなっている気配はありません。象徴的な出来事として、最近は自殺のニュースが多くなっています。イスラム教は自殺を禁止しているのですが、絶望感からそういった選択肢を取らざる得ない状況まで追い込まれているようです。

【ことば】2014年ガザ紛争

イスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの間で2014年7月から約50日間続いた戦闘。ガザ側の死者が2251人(市民1462人)、イスラエル側の死者は73人(市民6人)と過去最悪。イスラエルは07年から「テロ対策」としてガザとの間で人と物の出入りを規制する封鎖政策を開始。以来、人口約180万人のガザ地区は「天井のない監獄」とも呼ばれる。両者は08年から、今回の停戦までに計3回の大規模戦闘を繰り返している。

 

ガザ停戦2年:進まぬ復興 国際支援実施は4割 - 毎日新聞より 2016/08/30 21:47)

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――もともと、どうしてパレスチナ問題に興味を持ったのですか。

学生時代の2003年に、「日本・イスラエル・パレスチナ学生会議」と立ち上げました。2001年に9・11のアメリカ同時多発テロがあった時は大学1年生でしたが、当時、面白そうなことやってみたいと思ってNGOピースボートに顔を出したり、パレスチナ人と一緒にイスラエル大使館前で抗議運動に参加したりしていました。

最初は面白さと好奇心でしたが、イスラエル人の留学生に「パレスチナに対してどうして酷いことするのか」と問い掛けると、反論されました。「甥っ子が死んだり、友達がけがをしたりしたので、セキュリティーのため対応が必要だ」と言うんです。一方、パレスチナ人と話すと「それはおかしいよ」と説得されます。その時、お互いが直接話をした方がいいと思ったことから学生会議を立上げ、以後10年以上、直接間接に同地域に関わってきました。

――プロジェクトの課題はなんですか。

持続可能性と発展性です。今回はクラウドファンディングサイト「レディーフォー」で呼びかけ、目標の250万円に到達することができましたが、毎回寄付に頼り続けることは現実的ではないと思っています。今後は、プロジェクトを持続可能なものにするためにも何らかの法人化を行うとともに、将来を見据え、経済的リターンと社会的リターンの両方を追いかける社会的投資のプラットフォームを整えていきたいです。モデルが一度できれば、ほかの地域への横への展開も視野に入ってきます。ガザは悲惨な状況ですが、元気のいい人を集めて前に進めていきたいです。

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