8月29日は「焼肉の日」だ。「8(やき)2(に)9(く)」の語呂合わせと、夏バテの気味の人に焼き肉でスタミナをつけてもらおうと、1993年に全国焼肉協会が定めた。タン、カルビ、タン塩…網の上でジュウジュウと音を立てながら香ばしい匂いで食欲をそそる「焼肉」だが、その歴史は戦後史と重なっている。
■「焼肉」の名は、朝鮮半島の南北対立が背景?
「焼肉」という名称の背景には諸説あるが、『日本焼肉物語』(宮塚利雄著)によると「焼肉」の名が広まったのは1960年代の後半だったという。それまで焼肉は「朝鮮料理」と呼ばれていたようだ。これが「焼肉」となったのは、朝鮮半島における南北のイデオロギー対立の影響があったという。一体どういうことだろうか。
朝鮮戦争(ソウルで市街戦を戦う国連軍兵士 韓国・ソウル、1950年)
焼肉のルーツとされる朝鮮半島だが、戦後は南北に分断され、1950年からは朝鮮戦争が始まり戦場となった。この頃の日本では、焼肉や冷麺などを出す店舗は「朝鮮料理」を名乗る店が多かったようだが、1965年の日韓国交正常化を機に「韓国料理」という呼称が増えていったという。
やがて、現在の焼肉を意味する「朝鮮料理」について、在日朝鮮人は「朝鮮料理」、在日韓国人は「韓国料理」と主張するようになった。この混乱を収拾するべく、「政治的な対立の妥協の産物」として用いられたのが、「プルコギ」を直訳した「焼肉」という語だったようだ。「プル」は火、「コギ」は肉を意味する。
1968年には「エバラ焼肉のたれ」(しょうゆ味)が登場。家庭で気軽に肉を焼いて食べる文化が根付いていった。なお、同じ年には日清食品が「出前一丁」、大塚食品工業が「ボンカレー」の販売を開始している。折しも日本は、高度経済成長期の真っ只中。忙しく生きる人々は手間をかけず、家庭で手軽に色々な料理が楽しみたい…そんなことを求めた時代だった。
焼き肉のたれ「黄金の味」(エバラ食品工業)の新CMに起用された観月ありささん 2012年撮影
焼肉文化の隆盛には、1980年代に登場した「無煙ロースター」の貢献も大きいようだ。肉を焼いた時に出るモクモクと出る煙を排煙することで、服や髪につく臭いが気になる女性客を引き寄せ、焼肉店のイメージを一新させた。こうして焼肉は、日本の食文化の一部として着実に根付いていった。
煙の充満を防ぐ「無煙ロースター」
■食べ過ぎにご注意を…
焼肉をめぐる歴史を知り、焼肉を食べたくなった人もいるかもしれない。夏バテを防ぐのに、焼肉はとても効果的だ。だが、スタミナたっぷりな焼肉は高カロリーで脂質も多い。内臓は比較的低カロリーだがコレステロールが多い。食べ過ぎには注意が必要だ。
また、新鮮な肉だからといって生食や半生で食べると食中毒リスクが高まるので注意が必要だ。東京都福祉保健局では、肉中の色が完全に変わるまで充分に加熱するよう呼びかけている。加熱の目安は「中心部温度75℃で1分以上」としている 。
お肉と野菜をバランスよく食べることで、厳しい残暑を乗り切ろう。
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