自民党が、教育現場で政治的中立性を逸脱する教諭の事例がなかったかを把握する実態調査への協力を、ホームページ上で募っていたと、7月9日に共同通信などが報じた。これに対しインターネット上では「自民党は密告を呼びかけるのか」と批判が相次いでいる。
■自民党の木原稔・衆院議員がTwitterで呼びかけ
自民党の文部科学部会長である木原稔衆院議員は7日、Twitterで「18歳の高校生が特定のイデオロギーに染まった結論に導かれることを危惧してます」と投稿。18歳選挙権の導入を踏まえ、政治的中立性を逸脱した教員を自民党のホームページを通して報告するよう呼びかけた。
木原議員のツイートには、自民党の「学校教育における政治的中立性についての実態調査」へのリンクが貼られていた。
■「密告の呼びかけ」と批判の調査、どんな内容だった?
自民党「学校教育における政治的中立性についての実態調査」
当初、このページの説明文には、以下のような文言が記されていた。
党文部科学部会では学校教育における政治的中立性の徹底的な確保等を求める提言を取りまとめ、不偏不党の教育を求めているところですが、教育現場の中には「教育の政治的中立はありえない」、あるいは「子供たちを戦場に送るな」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実です。
学校現場における主権者教育が重要な意味を持つ中、偏向した教育が行われることで、生徒の多面的多角的な視点を失わせてしまう恐れがあり、高校等で行われる模擬投票等で意図的に政治色の強い偏向教育を行うことで、特定のイデオロギーに染まった結論が導き出されることをわが党は危惧しております。
そこで、この度、学校教育における政治的中立性についての実態調査を実施することといたしました。皆さまのご協力をお願いいたします。
この調査への自民党の呼びかけに対し、インターネット上では「密告社会の到来ですかね。」「自民党本部にまともなリーガルマインドを持った方はいないのか」といった批判が相次いだ。
その後、自民党はホームページの説明文を2度修正したと思われる。最初の修正後には、以下のような文言になっていた。
党文部科学部会では学校教育における政治的中立性の徹底的な確保等を求める提言を取りまとめ、不偏不党の教育を求めているところですが、教育現場の中には「教育の政治的中立はありえない」、あるいは「安保関連法は廃止にすべき」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実です。(以下略)
「子供たちを戦場に送るな」の部分が「安保関連法は廃止にすべき」に差し替えられていた。また、9日17時10分現在では、以下のような文言になっていた。
党文部科学部会では学校教育における政治的中立性の徹底的な確保等を求める提言を取りまとめ、不偏不党の教育を求めているところですが、教育現場の中には「教育の政治的中立はありえない」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実です。(以下略)
「安保関連法は廃止にすべき」との言葉が、いつの間にか削除されたようだ。
■渡辺輝人弁護士「ほとんど法律上の根拠が無い」
労働問題に詳しい渡辺輝人弁護士は「公務員ですら、業務外での政治活動をむやみと規制すること自体が憲法違反となる最高裁判決が出ている」とした上で、「自民党のいうような『子供たちを戦場に送るな』という類の学校の先生の発言を捉えた『学校教育における政治的中立性』の議論にはほとんど法律上の根拠が無いのです」と、Yahoo!ニュース個人で批判。
文言が修正されたことについても、渡辺弁護士は、「言葉をどんなに修正しても、教員の自由かつ適法な発言を禁圧するものであることに変わりはない」「教育の場や、報道の場での『中立』や『公平』は、多様な意見を紹介し、ぶつけ合う中で初めて達成される」と苦言を呈している。
ハフポスト日本版は自民党本部に取材を申し込んだが、「担当者は不在です」との回答だった。