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「育休も介護休業も取れない」ダイバーシティ実現に立ちはだかる"働き方の大きな壁"とは

ダイバーシティを現場で実践できるかどうかは管理職にかかっている。

あなたは、もし部下が「育休を取りたい」と言ってきたら、どのような言葉をかけるだろうか。

大手食品会社に営業として勤めている男性Aさん(39)は、企業内労働組合の活動もしている。会社側はダイバーシティに関する制度を充実させており、労働組合側も同調してはいるが、昨年、Aさんに第1子が誕生した際には、育児休業を取得するとは言い出せなかったという。当然、その負担は同じくフルタイムで共働きをしている妻が背負うことになる。結局、妻が一方的に育休を取得せざるを得ない現状に嘆きながらも、職場の雰囲気や会社の評価などを考えると、やはり制度は利用できなかったとAさんは諦め顔で話す。

制度の充実に比べると、それを活用できる風土が伴っていない。おそらく共働きも増える中で、同じような経験をした男性も多いのではないだろうか。

■ダイバーシティ支援制度がある企業でも、“進んでいる”と実感している人は約半分

*上記の棒グラフをスイッチすると、「ダイバーシティ推進制度・施策を実施している企業」「実施していない企業」のどちらにおいても「進んでいない」と感じている人が多いことがわかる

「ダイバーシティに関する潜在意識調査」(P&G調べ)によると、全体の約66%の人が「自分の勤務先では何かしらの制度・施策がある」と認識しているが、そのうち約半数の人が、「自分の勤務先は、ダイバーシティへの理解や取り組みが進んでいない」と回答している。その最大の理由としては、「ダイバーシティが企業文化として根付いていない」(42.6% 複数回答)が挙げられた。企業にダイバーシティを支援する制度が導入されていても、社内の風土が追いついていないために、活用できていないという実態が浮き彫りになっている。

■ダイバーシティ支援「制度はあるのに使えない」なぜ?

なぜ、会社でオフィシャルに認められているはずの制度を活用できないのだろうか。

ダイバーシティ支援に取り組む企業の中には、企業のブランディングやCSR(企業の社会的責任)活動の一環という考え方もまだまだ根深く、そういう企業は制度を導入するまでで満足してしまうことも少なくない。制度に魂が込められない最大の理由は、経営トップからのメッセージが弱いということだ。つまり、福利厚生施策として余力でダイバーシティを推進していこうという意図が見え透いてしまうと、制度を利用する環境はついてきてはくれない。経営戦略として企業の中心的な柱とならない限り、ダイバーシティが前進することはない。

例えば、ワーク・ライフ・バランスひとつを取っても、これが「女性のための制度」という誤ったメッセージが放たれた瞬間に、男性の心には二度と響いてこない。大げさかもしれないが、それほど男性側を振り向かせるのは難しいということだ。しかし、「仕事は続けたい。けど、家事も育児もこなさなければならない」という女性のジレンマが、もはや限界にあることに男性たちは気づかなければならない。今こそ、女性のためだけでなく、働き方が多様化する新たな時代に転換させるために必要な要素として、「ダイバーシティ」と向き合うことが求められている。

■現場レベルで進まないのは、○○が変わらないから

なぜ、現場レベルでダイバーシティの取り組みが進まないのだろうか。大きな要因は、まだまだ企業の体質が男性の長時間労働を前提にしてしまっていることにある。結局20代~30代の男性社員の意識が高くても、管理職の意識が低いと、そちらに従わざるを得なくなる。特に、大企業になると組織がお役所化し、前例主義に陥ってしまいがちだが、改革の一歩目は前例がなくて当然のこと。その前例を変えるための肝は、経営トップからの強いメッセージと、その意志を汲んだ管理職の決断力にある。

■ダイバーシティを実践する要となる管理職を変えるためには

管理職は、日々の業務において最も多くの社員と直接的に関わるポジションであり、社員一人ひとりにダイバーシティを浸透させ、企業文化として根付かせることができるという点で、企業の要といえる。ではどうしたら管理職を動かすことができるのか。ダイバーシティを福利厚生施策などに位置付けるのではなく、企業の経営戦略の柱として据えられるかどうかが勝負であろう。多様な人材が活かされる職場とは、その管理職のマネジメント力が発揮できているということだ。

子育て世代に対しては男女問わず子育てがしやすい環境となっているのか、継続雇用で働く人であればその経験をどう職場に活かすのか、そして、障がいのある人であれば現時点で持ち得る能力をどう職場に最大限活用できるのか――など、様々な人材に応じた対応が求められることになる。管理職になってからの研修ももちろん必要だが、これから管理職になろうとする人たちに対しては、通常業務の中で常にダイバーシティの意識を持たせるとともに、それを自分事として落とし込む作業、言い換えれば、「インクルージョン」(包括)する能力を醸成させることによって、管理職としてのマネジメント力を自然と培うことができるのではないかと考える。

つまり、ダイバーシティの考え方とともに、それをさらに活かすためのインクルージョンの意識も必要ということになる。

■「ダイバーシティ&インクルージョン」が経営戦略として活きる

こうした「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の施策に積極的に取り組んでいるのが、P&Gだ。同社では、1999年にダイバーシティ担当を社内に配置し、2004年には「ダイバーシティ・ネットワーク」を発足。さらに、2008年には「ダイバーシティ&インクルージョン」へと発展させ、後で紹介する社外啓発組織「ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」を今年3月に立ち上げている。

こうした取り組みの成果は数字をみれば納得できる。すでに女性の管理職(課長級以上)の割合が32%(総合職の女性割合は4割)に達し、日本法人における社員の国籍も18カ国にのぼる。まさにダイバーシティを実践しているからこその数字であろう。

P&G ヒューマン・リソーシズ アソシエイト・ディレクター 臼田美樹さん

そんなP&Gの人事を担当する、ヒューマン・リソーシズ アソシエイト・ディレクターの臼田さんにお話を伺った。同社では、「ダイバーシティ&インクルージョン」を重要な経営戦略のひとつとして位置付けており、それによって一人ひとりの社員の能力が最大限に活かされ、イノベーションが生まれ、事業の成功や会社の業績にもいい影響を与えるのだという。しかし、今でこそダイバーシティ先進企業の同社でも、ここに至るまでには長い道のりがあったと臼田さんは語る。

「25年ほど前にはすでに数名の女性管理職がいて、社内に『ウーマンズ・ネットワーク』が発足するなど、当初は女性にフォーカスした取り組みがきっかけでした。しかし、途中から『女性だけ』ではダメだと気づいたんです。女性が働き方を変えるためには、男女関係なく周りにいるみんなが変わらなければいけない。もし誰かが職場で居心地の悪さを感じているとしたら、その人は自身の能力を十分に発揮できておらず、それは組織としては人材を活かしきれていないということなんですよね」

■多様な働き方を社会全体に浸透させるために

長い年月をかけ、試行錯誤を重ね、「ダイバーシティ&インクルージョン」を実現してきたP&G。取り組む上でのポイントとは一体何なのだろうか。

「多様性を尊重する企業『文化』、多様な人材・働き方を支える『制度』、そして多様な社員が活躍するための『スキル』の3本柱を同時に進めることが重要です。その中でも、文化と制度だけではなく、社員が日ごろの業務でダイバーシティ&インクルージョンを実践するスキルがあることがポイントです。スキルを身につけることで、文化や制度をより早く根付かせることにつながります」

社内におけるダイバーシティの取り組みが進むに伴い、その意識やエネルギーが社外へも向けられるようになるのもうなずける。それが、今年3月に発足した「ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」だ。同プロジェクトは、これまでP&Gが長年培ってきたダイバーシティ&インクルージョンに関する知見やノウハウについて、研修プログラムとして〝無償″で提供しようというものだ。現在までに、人材育成に関する協定を結んでいる神戸市役所などで、試験的に実施している。このプロジェクトの狙いについて伺った。

「結局、自社だけでダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいても社会への広がりは限定的です。たとえば、共働きの夫婦のうち当社の社員が特別休暇を取得できても、他の会社に勤めるその配偶者が制度を活用できなかったら、家族単位で見た時に負担をなくすことはできません。こうした動きを社会全体に広げていくためには、これまで当社が培ってきたものを思い切ってオープンにしていく必要性を感じました。ダイバーシティ&インクルージョンが日本社会の中で醸成し、多様な働き方が実現し、社会全体に定着していくことに少しでも貢献できたらと思っています。同時に、このプロジェクトを通じて他企業と多くの関わりを持つことにより、P&G社内のダイバーシティ推進もこれまで以上に進化していきたいと考えています」

■もしも、みんなの働き方が尊重される、そんな社会が実現したら

「ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」のプログラムでは、価値観チェックシートなどを用いて、自分と相手の価値観の違いを明らかにすることで、価値観や考え方などが一人ひとり異なることを再認識し、その違いを認め合うことから始めるという。自分と考え方が違う相手を否定するのではなく、認め合うことから始める。「それは、上司・部下の関係でも同様です」と臼田さん。

特に、職場内の関係の中では、どうしても自分本位になってしまいがちだ。例えば、同僚が育休を取ると、どうしても「その分、自分に業務が回ってくるじゃないか!」と思わずにはいられない。しかし、自分も育休を取るかもしれないし、親の介護で休まなくてはならないかもしれないし、自分自身が病気になって休業するかもしれない……まず、相手のことを慮ることから始めるだけでも、職場の風土は変わっていくはずだ。

多様な人材が職場内にいればこそ、様々な事情が当然生じることにもなる。ダイバーシティ&インクルージョンの意識が深まれば深まるほど、そうした事情をポジティブに解決していくことでみんなの働き方が尊重され、職場内のチームワークは向上する。そして、柔軟な働き方が認められるようになれば、介護や子育てなどに限らず、誰もが効率よく働ける職場が実現することにもなる。

これまでは、「男性だけ×長時間労働=画一的な制度」が主流だった日本でも、ダイバーシティ化が進んで行く環境下では、「多様な人材×誰もが働きやすい労働=多様で柔軟な制度」がどうしても必要になる。それを実現するためには、初めのうちは労力もコストもかかるし、長い年月の中で根付いてきた企業風土を変えていくことには、大きな壁が立ちはだかるかもしれない。それでも、多くの企業がダイバーシティ&インクルージョンを経営戦略の柱として据えることで、少子化が進行する日本社会における大きな問題と企業の経営課題を、同時に解決していく力を持ち得るのではないかと期待せずにはいられない。

(執筆:労働・子育てジャーナリスト/NPO法人グリーンパパプロジェクト代表理事 吉田大樹

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