オバマ大統領が大統領権限で進めていた移民制度改革「DAPA」(米国籍や合法的な滞在資格がある子供を持つ不法移民の強制送還を免除する政策)について、テキサス州など26の州政府が違憲だとしてオバマ政権を提訴していた。これについて連邦最高裁判所は6月23日、判事の意見が4対4の同数となったことから、結論を下せなかった。そのため、DAPAを無効とした連邦高等裁判所の判断が維持されることになった。これにより移民制度改革は事実上阻止された。
オバマ大統領が2014年11月に発表したDAPAは、アメリカ国籍を持つ子供や、合法的に滞在している子供を持つ不法移民に対し、強制送還を一時的に猶予して労働資格を与えるというものだ。
最高裁の声明は「判事の意見は同数に分かれ、承認された」と一文だけ記された。しかし、どの判事がどのように投票したかについては公表していない。これは判事の意見が、それぞれのイデオロギーによって激しく対立したことを示している。
意見が真っ二つに分裂したことで、移民制度改革を事実上阻止した連邦高裁の判決が有効となった。これは「大統領権限で進めた政策が憲法違反かどうか」を示す判例が確定したことも意味する。
オバマ大統領は、結論を下せない最高裁に失望を表明した。結論が出なかったのは、2016年2月13日に死去したアントニン・スカリア判事の後任として指名した穏健派のメリック・ガーランド判事を、共和党が多数を占める上院が承認しなかったことが原因だと非難した。
オバマ大統領はホワイトハウスの記者会見で「(上院は)私が最高裁判事に指名したメリック・ガーランド氏を承認しなかった。これは、共和党の怠慢が招いた結果だ」と述べ、共和党の抵抗は持続可能な戦略ではないし、確実な回答が求められる問題を進捗させる力が失われると述べた。
記者会見でオバマ大統領は、今回の「結論を下さない」という判断が名目上のものであり、いかなる法的拘束力もなく、自身の職務の上で価値のあるものではないと述べた。
「最高裁が全ての意見を公表するのであれば、真剣に検討する」「今回の判断については従わなければならないが、しかし、これらの問題を討議する上で価値のある声明でもなければ、本案の審理でもない」とオバマ大統領は述べた。
テキサス州のケン・パクスト司法長官は、――おそらく権限の範囲の問題からと思われるが――最高裁の判断に控えめに賞賛した。
パクスト長官は声明で、「今日の判断は、我々が当初から訴えてきた立場に則ったものだ。一個人が、たとえそれが大統領であっても、独断で法を変えることは許されない」「これは大統領権限拡大を大きく後退させるものであり、権力と法の支配の分離を訴える人たちにとっての勝利だ」と述べた。
2014年11月、オバマ大統領が移民制度改革の大統領令を発表すると、テキサス州を始め共和党の州知事の一部が反発。2015年2月16日には、テキサス州連邦地裁が執行の差し止め命令を出した。連邦高裁も差し止め命令を維持したため、オバマ政権が最高裁に上告していた。
いわばこれは、合衆国とテキサス州の対決だ。連邦議会の移民対策が不十分な中、大統領権限の限界を試すものだった。オバマ大統領は歴代の大統領たちのように強制送還に怯えず、この国に住みたいと望む数百万の不法移民を助けるための権力を持つと証明するチャンスだった。
司法側はこの問題の審理を受理した当初、オバマ政権とそれに対抗する26の州に「強制送還免除計画が憲法に違反するか否か」を説明するよう求め、大統領に警告を送った。
今までこの問題を扱う下級裁判所はなく、保守派が多数を占める最高裁はこの対決を「憲法論議に変えてしまおう」という姿勢をとった。オバマ大統領が任期最後の年に「権力分立についてメッセージを送るのではないか」という憶測があったからだ。
しかし、スカリア判事の予期せぬ死で状況は一変。力の弱くなった最高裁側は、後任をめぐって民主党のオバマ大統領と共和党が多数を占める上院が対立する中、この問題を取り扱わなければならなくなった。
司法側は口頭弁論で憲法解釈を避け、その代わりに移民法にある"合法的滞在"の意味や、"当事者適格"といった、より法律論的な問題に焦点を当てた。また、被害を訴え、議会が行政に幅広い裁量権を与えた政策について告訴する権利がテキサス州にあるのかどうかも争点になった。
移民制度改革の項目を発表したとき、オバマ大統領は自身の権限を拠り所にしていた。しかしこの政策がスタートする前に、テキサス州を筆頭とする複数の州が連邦政府を提訴した。「同じような考えの判事に訴訟を審理してもらい、政権に不利な判決を出させる意図があった」と法律の専門家は見ている。
この訴訟の担当となったアンドリュー・ハンセン判事はジョージ・W・ブッシュ前大統領が任命した人物で、まさしくその通りに行動し、さらなる行動に打って出た。ハンセン判事は、オバマ大統領の政策を阻止する全国的な差し止め命令を出しただけでなく、倫理面で政権に全面的に不利な判決を出した。これにより、司法省ならびに何千人もの不法滞在者が苦境に立たされることになった。
共和党のポール・ライアン下院議長は、今回の判断にさらなる意味を付け加えようとしており、「これが議会の立法権限の裏付けとなるものだ」と述べている。
「本日、憲法第1条にお墨付きが与えられました」「最高裁の判断は、移民政策に対する大統領権限を無効とするものです。憲法に書かれていることは明白です。大統領には法律を制定する権限はありません。それは議会のみに許されているのです。権力の分立を取り戻す戦いの中で、また1つ大きな勝利を収めました」とライアン議長は述べた。
下院と移民の母親3人のグループも訴訟に加わり、オバマ大統領の移民政策が自分たちの利益にどのように影響するかをめぐり、それぞれが支持する陣営を支援した。
最高裁はどちらにも明確な決定を示さなかったが、これにより大統領選や、さらには裁判所の立ち位置をめぐる争いが激しさを増すことになる。
オバマ氏も詳細は承知している。
「今、国としてどのような方向に進むのかという岐路に立っている。子供たちに何を教えていくのか、議会やホワイトハウスでどのように国民の意見を反映させていくのかという選択をしなくてはならない」
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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