新垣隆、佐村河内氏との再タッグを否定「ひたすら逃げ回っている」
音楽家・佐村河内守氏のゴーストライターであることを告白し世間を騒がせた、ピアニストで作曲家の新垣隆。あれから約2年、まさかのバラエティ番組やCMに出演するなど、騒動当初からは想像も出来なかった多角的な活躍を見せている。そんな新垣が、改めて騒動を振り返りながら佐村河内への想いを明かしてくれた。
◆自分のスタンスが佐村河内さんとの騒動を招いてしまった
――2年を振り返り、今のご心境は?
【新垣隆】 そのときは、“一刻も早く止めないといけない”と思っていましたので、それ以降のことはまったく考えていませんでした。それによって大きな騒動になり、本来の音楽活動とは違うベクトルで名前が広がってしまったわけですが……。しかし、クラシックの音楽家仲間や多くの方の助けがあり、こうしてアルバムを出せるに至ったことは、感謝の気持ちしかありません。
――いろいろな人と仕事をされていますが、もし佐村河内守さんと再び仕事するような機会があったら?
【新垣】 佐村河内さんですか? 私は、彼からはひたすら逃げ回っているところなので(苦笑)。
――この2年間、幅広く活動されていますが、最も変わった部分はどこですか?
【新垣】 ああいった形で広く顔が知られるようになりましたので、今のこういう仕事の形は、以前にはまったくなかったものでした。音楽の仕事の幅も、とても広がりました。一番の変化は、取り巻く環境でしょうね。
――騒動後は、バラエティ番組やCMなどのテレビ出演が増え、音楽家とはまた違った活動も話題を集めましたね。ネットでは、仕事を選んだ方がいいというコメントもあったりしましたが。
【新垣】 音楽仲間からも、賛否の意見がありました。面白がってくれる人もいれば、“何をやっているんだ?”とお叱りを受けることも。でも基本的には、みなさん応援してくださっていました。テレビ出演などのオファーは、あくまでも世間をお騒がせした自分に対してで、世間を騒がせた責任が自分にはありますので、オファーをむげに断ることはできませんでした。そもそも私は、仕事を選んだことはありませんので、そのスタンスが佐村河内さんとの騒動を招いてしまったとも言えるわけですが(苦笑)。とにかく1つひとつのオファーを真摯に受け止めて、全力を尽くすことが自分の責任ではないか、と。
――ある種の贖罪的な意味も?
【新垣】 ああいう形で世間を騒がせた人間ですから。そういう人間が、テレビに出て下さいと言われたときに、「自分は音楽家なので出ません」と言っていいものなのか? 私には、わかりませんでした。もちろん、テレビに出て下さいと言われることに対して「なんで?」という気持ちでした。「なんでこういう依頼が来てしまうんだろう?」と。でも、来た以上は、受けないわけにはいかない、と。騒動を起こしたことに対する後ろめたさが、いびつな形で表に出てしまったのかもしれません。1つ出てしまえば、あとはもう断る理由がありませんので。
◆憧れのアーティストと仕事が出来たのは、ある意味で佐村河内さんのおかげ
――最近では、坂本冬美さんとのコラボレーションや、アイドルグループ・青山 聖ハチャメチャハイスクールのプロデュースといった、他のアーティストと関わるお仕事も増えていますね。
【新垣】 以前ならあり得なかったことです。ある意味で、佐村河内さんのおかげとも言えるわけですが……。これまでCMソングのアレンジなどを手掛けたことはありましたが、作曲やプロデュースというのは、ほとんどやったことがありませんでした。自分にとって初めての経験でしたので、本当に勉強になりました。特に坂本冬美さんは、細野晴臣さんと忌野清志郎さんと組んだHISというユニット活動をしていて、ファンでした。その坂本さんと一緒にお仕事ができて、うれしかったです。
――新垣さんのデビューアルバムは『新生』というタイトルですが、ご自身が新しく生まれ変わったという意味合いでしょうか?
【新垣】 騒動以降、音楽の仕事の質は変わらずとも、私を取り巻く環境はだいぶ変わりました。それは多くの方との関わりがあったということです。たとえば昨年は、30ヶ所くらいでコンサートを開いたのですが、その都度たくさんの方が来てくださいました。そういったことは、騒動以前にはなかったことです。私がテレビに出て、私の音楽というものに興味を持ってくださった方が増え、そしてコンサートに足を運んで音楽を聴いてくださって……。私の音楽を多くの方と共有してもらい、そうして生まれたのがこの作品です。
――こうしたクラシック音楽、坂本冬美さんやメチャハイとのコラボなど、どれも新垣隆さんというひとりの人間が関わる上で、根底に一貫したものがあるのでしょうね。
【新垣】 根底にある一貫したものは、音楽家として自分自身の表現をするということです。ただそれは、自分ひとりで表現することは叶わないので、様々な人を介して行うわけですが、それが坂本さんやメチャハイ、クラシックの音楽家だったということ。結果として聴こえてくる音楽は、コラボする相手の表現の形にはなっていますが、自分では1つだと思っています。みなさん、私のことを見て「なんだこいつ?」「うさんくさい」などと、思われているでしょう。それは仕方のないことですが、私は音楽家ですのでCDを出したり、コンサートを開いたりというのは日常なわけで。決して突然おかしなことを始めたわけではありません。様々なアウトプットをフックにして、私自身の音楽というものにも目を向けていただけたらうれしいです。
(文:榑林史章)
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