なぜ「サンダース現象」は勢いが衰えないのか――現地からの「生の声」を聞く【アメリカ大統領選】

若者から高い支持を受ける「サンダース現象」は、いつまで続くのか。
Democratic presidential candidate Bernie Sanders pauses during his speech as the crowd cheers during a rally in Albuquerque, N.M., on Friday, May 20, 2016. (AP Photo/Susan Montoya Bryan)
Democratic presidential candidate Bernie Sanders pauses during his speech as the crowd cheers during a rally in Albuquerque, N.M., on Friday, May 20, 2016. (AP Photo/Susan Montoya Bryan)
ASSOCIATED PRESS

「さあ、政治革命を起こそう」

2016年アメリカ大統領選挙の民主党予備選でバーニー・サンダース氏はこう謳い、最後まで食い下がっている。大票田のニューヨーク州やフロリダ州などでヒラリー・クリントン氏に敗れ、彼女に優勢を許しているものの、7月の党全国大会まで戦い続ける方針だ。

マンハッタンの街を歩いていると、サンダース氏を支援するバッジをつけている人や手弁当でチラシやポスターを無料配布する人がよく見かけられた。

若者から高い支持を受ける「サンダース現象」は、いつまで続くのか。彼を一躍有力候補にまで押し上げた原動力は、一体、何なのか。ニューヨーク予備選からちょうど1カ月。サンダース氏の出身地であるニューヨーク市で草の根の活動を続ける支持者に話を聞いた。そこから見えてきたのは、貧富の格差を生んだ社会システムへの若者らの不満と変革への期待だった。

教師のジョニー・クエンさん(26)は、反戦や公立大学の無償化、国民皆保険などの分野で「彼の政策すべてを支持する」と話した。アーティストのジャスティン・ネリーさん(42)は、サンダース氏を応援する手作りのパネルを見せながら、「彼は、自分の信じることをただ訴え、若者たちから大きな反響を得ている」と評した。

国際政治学を専門とする中山俊宏教授は、「若者の不満がサンダース支持に結びついている」と分析した。

アーティストのジャスティン・ネリーさん

ニューヨーク市ブルックリン在住のアーティスト。2015年、ノーベル平和賞にノミネートした長崎の被爆者、谷口稜曄さんの人生を綴った「Good Life in Hell」(館林愛・共著)をアメリカで出版した。廃材などを見つけ、標語をペイントして街に置いたり無料配布して、サンダース氏の支援活動を続けている。

「今までとは違った形で支持を表現している」

注1 映画「マルコムX」など人種差別をテーマにした作品で有名なスパイク・リー監督もマンハッタンの路上でネリーさんの作品を撮影し、公式Instagram(officialspikelee)に投稿した。パネルには、「Take it personal(個人の問題として考えてください)」と書かれている。

パネルには、サンダース氏の似顔絵を挟むように「RIGHTEOUS BERN(正義感あるサンダース)」と書かれている。ジャスティンさんのInstagram(jn33ly)、Face Book(Signs4Sanders)より

マンハッタンの繁華街に掛けられた手作りパネルには、「BE THE BERN(燃え尽きよ)」と書かれている。ジャスティンさんのInstagram(jn33ly)、Face Book(Signs4Sanders)より

教師のジョニー・クエンさん

ニューヨーク市ブルックリン在住の小学校教師、ライター。 私立の学校で5歳から18歳に正規職員として体育を教えるほか、16歳から18歳のチームのバスケットコーチを務める。教育に関心があり、これまで2冊の児童向けオーディオブックを発売。YouTubeで公開した作品が話題となる 。サンダース氏の演説動画を繰り返し見て、ネットで情報をシェアするなど支援を続けている。

「企業のためではない唯一の候補者」

注1 シェールガス・フラッキング:シェールガスの採掘手段=水圧破砕法のこと。人体や環境に悪影響を及ぼしかねないとしてニューヨーク州では、同法を2014年末から禁止している。

注2 ヒラリー・クリントン氏の経歴を憂慮:クリントン氏は、1990年代、大型スーパーチェーン、ウォルマートの取締役会の委員をしていた。これまで大企業やウォール街から大口献金を受けていることについて批判する声がある。

慶應義塾大学総合政策学部 中山俊宏教授

専門は現代アメリカ政治・外交、日米関係、国際政治。今回の大統領選について、新聞、雑誌、テレビなどマスコミ各社に多数登場し、解説。今月も渡米し、政府要人に会うなどアメリカ政治に精通している。博士(国際政治学)。慶應義塾大学総合政策学部教授、日本国際問題研究所客員研究員。著書「アメリカン・イデオロギー」、「介入するアメリカ―理念国家の世界観」。

「サンダース現象は民主党が左傾化している象徴」

他候補と比較しながら、「サンダース現象」について分析した。

貧富の格差の拡大、ワーキング・プアの増加と米国と同じような状況下の日本は、この夏、国政選挙を控えている。これまで、政治不信が政治不参加につながっている国内で、サンダース氏のような若者らの不満を吸収する新たな政治家は、現れるのだろうか。(前田真里)

マンハッタンの地下鉄でサンダース氏を支持するバッジをつけた男性(写真:Hiro Tanaka)

マンハッタンの繁華街でチラシ配り(写真:Hiro Tanaka)各個人の活動に支えられながら、サンダース氏は、1口2ドル70セントの個人献金を中心に選挙戦を展開している。

貧困層が住むニューヨーク市サウスブロンクスでのサンダース氏の集会。公民権運動や反戦運動に身を投じてきたサンダース氏を支持するアフリカ系やヒスパニック系の多くの若者が参加した。(写真:Eliana Alvarez)

前田真里

長崎県生まれ。長崎文化放送で事件・事故、原爆などを取材。2008年からフリーに。朝日ニュースターや、日経CNBCのニュース番組を担当。東日本大震災後、東電や保安院の会見をUstreamで配信した。2012年から2016年3月までニューヨーク在住。LGBTや若者の政治活動、新しいメディアについてのテーマを扱い、アメリカ、日本国内で取材活動を行う。

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