人種や国籍などの差別をあおる言動として社会問題になっている「ヘイトスピーチ」の対策法案が、6月1日までの今国会で成立の可能性が出てきた。
法案を審議していた参院法務委員会は4月27日、与党案を修正することで与野党が大筋合意した。時事通信は、共産党にも賛同を呼びかけ、改めて委員長提案として提出し、大型連休明けに参議院通過を目指すと伝えている。
与党案については、ヘイトスピーチの対象の定義を巡って、様々な問題点がNGOなどから指摘されていた。
2013年5月19日、東京・新大久保のヘイトスピーチのデモ
法案は、2015年5月に野党側が「人種差別撤廃施策推進法案」を参院に提出して、審議が始まった。対象を人種差別と幅広くとらえ、「人種等を理由とする不当な差別的取り扱い」や「侮辱、嫌がらせその他の差別的言動」を禁止するという、罰則なしの基本原則のほか、国や地方自治体が取り組むべき情報提供や啓発活動などの施策を定めていた。
しかし、委員会で多数を握る自民党は「政治的主張に人種的な内容が含まれる時がある」「表現行為を萎縮させ、表現の自由を害する」と難色を示し、審議は進まなかった。
その間に大阪市が2016年1月、ヘイトスピーチ対処条例を成立させた。「差別対策に後ろ向き」とみられるのを恐れた自民、公明両党は4月8日、野党案の対案として、対象をヘイトスピーチに事実上限定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消推進法案」を参議院に共同提出した。
■「本邦外出身者」「居住要件」が問題に
与党案で問題視されたのは、対象を「本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの」としていることだった。
弁護士や法学者らでつくる「外国人人権法連絡会」や「ヒューマンライツナウ」などのNGOは共同で4月19日に声明を出し、以下のように懸念した。
外国出身者、なかでも「適法に居住するもの」に保護の対象を限定しており、非正規滞在者への差別的言動にお墨付を与える点は、人種差別撤廃条約に違反する。
社会学者の明戸隆浩氏は、条件を在日外国人に事実上限定することで、アイヌや沖縄、被差別部落出身者らが保護の対象から抜け落ちる恐れを指摘している。
「アイヌに対するヘイトスピーチについて国は問題視していない」という誤ったメッセージを送ることになりうる。
■与党案の条文修正は限定的に
与党案はヘイトスピーチの定義を「生命、身体、自由、名誉または財産に危害を加える旨を告知する」「地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動」としていたが、「『ゴキブリ』などの侮辱的な表現が該当しない恐れがあるとする野党側の主張を入れ、「著しく侮辱」する言動に対象を加えた。
一方で「本邦外出身者」「適法に居住する」の修正には応じず、「『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りだ」と、付帯決議をすることで折り合ったという。
日本は1995年に人種差別撤廃条約に加入したが、国連人種差別撤廃委員会からは、差別禁止の国内法整備などを2014年に勧告されるなど、対応の遅れを国際社会から指摘されていた。
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