韓国の国会議員選挙(一院制、定数300)は4月13日に投開票される。強大な権限を持つ大統領を直接選挙する韓国で、国会議員の選挙の投票率は高いとは言えないが、5年の任期の残りが2年を切った朴槿恵大統領の政権運営、そして2017年末の大統領選挙の行方を占う重要な国政選挙だ。
日本と同様、高齢者の投票率が高い「シルバーデモクラシー」の韓国で、与野党は若年層へもアピールを狙ってきたが、その試みは今回、大きく後退した。その状況をまとめた。
前回2012年の国会議員選挙では、60歳以上の投票率が68.6%に及んだ。20代前半の45.4%、20代後半の37.9%と比べても突出して高い。全有権者に占める投票割合でも、60歳以上は26.1%と、20代以下(14.1%)を圧倒する。2012年の大統領選挙で当選した朴槿恵氏は、主に父・朴正熙元大統領の時代を懐かしむ人々の支持を受け、僅差の勝利をものにした。
一方で青年層(15~29歳)の失業率は2016年2月で12.5%と悪化の一途をたどっており、2015年に新規採用された青年層も、うち64%が非正規雇用だ。若年層向けのアピールや政策の強化を期待して、前回の選挙では与野党が、20代から30代の候補を比例代表に擁立した。日本と違って選挙区との重複立候補がなく、比例の定数も300人中54人と少ないが、与党・セヌリ党は、フィリピン出身の李ジャスミン氏ら3人が当選した。
野党・民主統合党(現・共に民主党)は2012年、30代前半までの候補者を公募した。選考過程をショーアップして若者にアピールしようとの戦略に、382人が殺到した。書類審査やネットでの公開オーディションで党内選考し、当時30歳だった金光珍氏(キム・グァンジン、男性)と、当時34歳のチャン・ハナ氏(女性)が、比例代表10位と13位で当選した。
金氏は南西部の地方都市・順天(スンチョン)で、奨学金を受給しながら大学院まで通った経歴を持つ。決してエリートではないが、当選後は党の最高委員にも任命され、国会議員の年金を廃止する法律を共同発議して実現させたり、軍が組織的に大統領選挙に不正介入した疑惑を暴露したりするなど、国会で一定の存在感を発揮した。
金光珍議員
しかし、韓国の国会議員選挙に「現職優先」の慣例はない。与野党とも、現職であれ新顔であれ、一部の例外を除いて選挙区ごとに予備選に回るのが原則だ。「共に民主党」の金氏とチャン氏は、ともに選挙区への転出を図ったが、予備選で落選して党の公認を得られなかった。ハフポスト韓国版のブログで金氏は「差別禁止法の必要性を訴えたら、LGBT(性的少数者)の差別禁止に反対するキリスト教団体から組織的なネガティブキャンペーンを受けた」と、悔しさをあらわにした。
2016年の国会議員選挙で、「共に民主党」は、「青年枠」の公募を継続したが、1人100万ウォン(約9万5000円)の応募料を課したことなどもあって応募者は27人に激減。選ばれた候補者の名簿順位も最高で16位と、当落ギリギリの順位まで下げられた。セヌリ党は44人の比例名簿に、30代以下は1人しかいない。「共に民主党」から分かれた安哲秀氏率いる野党第2党「国民の党」は、7位に29歳の女性デザイナーを一本釣りで擁立したが、父親が元国会議員という経歴が批判の的にもなっている。比例代表の定数が今回から47に減らされたこともあり、「若者枠」の当選はますます厳しくなっている。
若年層の投票率を劇的に上げるには至らず、期待したほどアピールしなかったことに加え、「若者代表で国会に出たのに、若者が抱える問題ではなく、自分の関心分野ばかりを追いかけていては、『若者枠』の制度の趣旨にも反するし、若者のための政治が後退する可能性もある」(仁川大のイ・ジュンハン教授が中央日報に語った言葉)という批判もある。
「HELL朝鮮」という言葉が流行し「若者に希望はない。移民するしかない」といった絶望感があふれる韓国。日本を上回る少子化が進行する韓国で、若年層の訴えはどこまで政策に反映されるのか。韓国での試みは、日本でも参考になる部分が多い。