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「たまにはいいかな?」と、ちょっと奮発して買った上質な牛肉。ふるさと納税でゲットしたブランド牛肉……。もしもあなたが、自宅でとっておきのお肉を食べるなら、ぜったいに調理で失敗したくはないはずだ。
そんなときのために、素人でも美味しく焼ける、ビーフステーキの焼き方をご紹介しよう。今回は宮崎牛専門店「大淀河畔みやちく」を訪れ、ここでシェフを務めるお肉のプロフェッショナル、鈴木芳直さんに美味しく焼けるコツを教えてもらった。
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宮崎牛専門店「大淀河畔みやちく」の鈴木芳直シェフ
意外とちょっとしたポイントをおさえておけば、プロ顔負けの美味しいステーキが食べられることがわかった。
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鈴木シェフが焼く美味しそうな宮崎牛。ジューシーな肉汁にうっとり
1. 冷蔵庫から出したら時間を置かずにすぐに焼こう
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ドドン!これは霜降りが美しい「宮崎牛」のステーキ肉だ。
宮崎牛は5年に一度開催される和牛コンテスト「全国和牛能力共進会」で2連続日本一を獲得している銘品だ。こんな立派なお肉を“焼き”で失敗するわけにはいかない。改めて気を引き締めよう。
鈴木シェフによると、生のお肉の場合、冷蔵庫から取り出して焼くまでの時間は短いほど良いそうだ。
“常温に戻してから”という焼き方もある一方で、和牛のように霜降りの多いものは、常温に戻さずに手早く焼くのがいい。常温に置くと肉の上質な脂身が溶けて、旨みを逃がしてしまうからだ。
2. 塩・こしょうは多めがよし
お肉の美味しさは焼く前から勝負が始まる。焼く前の下ごしらえといえば、筋切りと味付けだ。
筋切りはなぜ必要なのか? もし筋切りをしないまま焼いてしまうと、肉本体が反って焼きムラがでてしまうから。焼く前に必ず、身と白い牛脂部分の間にある筋に切れ目を入れるか、牛脂ごと筋を切り落としてしまおう。切り落とした牛脂は、焼くときに油代わりに使うからとっておこう。
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次に、塩・こしょうで下味をつける。ポイントは、塩とこしょうを“思ったよりも多め”に振ってしっかりとした味付けを意識すること。
霜降りのお肉は、焼いているうちに脂で表面の塩・こしょうが流れてしまうため、多めに味付けするのがいいそうだ。ここまでの作業は、時間をかけずに手早く行おう。
3. お肉は1枚ずつ丁寧に焼こう
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たとえば2枚のお肉を焼く場合、フライパンぎゅうぎゅうに2枚並べていないだろうか? 鈴木シェフによると、それはNG。
高温が保たれたフライパンの真ん中にお肉を置くことで、焼きムラのない状態で焼くことができる。だからたとえ2人分(2枚)のお肉を焼く場合でも、ラクしようとせずに、1枚ずつ丁寧に焼こう。
「2人で同時に熱々を食べたい」、そう思う人もいるかもしれないが、それよりもお肉が美味しく焼けることを優先するべきだ。
4. 強火で肉汁を閉じ込めよ
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焼くときに重要なのが火力だ。焼き始めは強火であることがポイントとなる。今回、鈴木シェフには、普通のカセットコンロと、どこの家庭にもあるフライパンを用意して実践してもらった。
フライパンに、下ごしらえで切り落とした牛脂を入れ、少し馴染ませたら一度牛脂を取り出しておく。お肉を置いた瞬間、フライパンの温度が下がってしまうから、フライパンから白い煙が出て「ちょっと熱しすぎたかな?」と思うくらいまで、しっかり熱しよう。
強火でしっかり焼き色をつけて、旨味のつまった肉汁をしっかり閉じ込めるのがポイントだ。
5. 焼きすぎ注意! 裏返したらすぐに火を止めよう
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お肉を裏返したあとは、早めに火を止めて余熱で焼き上げよう。
鈴木シェフのアドバイスによると、家庭のフライパンでは早めに火を止め、アルミホイルで軽く蓋をして余熱で仕上げると失敗がないそうだ。
6.フランベはしなくていいぞ
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鈴木シェフが披露してくれたフランベは見事だった。しかし、味に大きな差はないため、しなくてもよいそうだ。「香り付けのためのフランベですが、お肉の味が劇的に変わるわけではありません。お店では、お客さんの目の前でフランベをして、楽しんでいただいています」。
フランベはお店でのパフォーマンスの一環でもあるようだが、家庭のキッチンで炎を上げるのは危険。味に大差がないならしないほうがいいだろう。
7. 洗い物の量を気にしちゃダメ
プロに盛り付けのポイントを訪ねると「余白を多めにとること」との回答。鈴木シェフのアドバイスはこうだ。「大きなお皿は洗い物が面倒だという人もいるかもしれませんが、面倒がらずに準備しましょう。もしご家庭にあるなら、黒いお皿はお肉の赤みを引き立てるのでおすすめです」
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大皿を用意してもらっていたのだが、お肉が大きすぎたため余白が少なくなってしまった
黒いお皿がない家庭もあると思うが、なるべく大きなお皿を用意するほうがよいだろう。とっておきのお肉を食べるなら、洗い物の苦労も惜しまずに。
8. とにかくお肉に集中せよ
「みやちく」では、しいたけ、ピーマンなどの焼き野菜をお肉に添えていた。家庭でもそうした添え物を用意したほうが彩り鮮やかでいいだろう。ただし添え物は、お肉を焼く前に用意しておく必要がある。焼きたてをいただくために、お肉を焼くのは一番最後だ。
「添え物はなんでもいいんです。用意するのが億劫なら、買ってきたお惣菜でもいいんですよ。添え物に気を取られてしまうより、とにかくお肉を焼くことに集中してもらいたいです」
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肉汁の旨味を逃さず、美味しく焼けた!
9. 調味料と薬味はたくさん用意しよう
ソースや、塩、わさび醤油など、ステーキに合う調味料はさまざまだ。「みやちく」では、独自のステーキしょうゆ、しょうゆ、塩、わさび、柚子こしょうに加え、薬味に大根おろしとガーリックフライを用意していた。
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「お肉は味を変えながら楽しむほうが、最後まで美味しくいただけます。私のおすすめは塩わさびです」。
家庭でこれほど用意する必要はないけれど、なるべくたくさん用意して味の変化を楽しもう。
10. 肉の選び方は、霜降りの模様がカギ
お肉の選び方にコツはあるのだろうか? 鈴木シェフによると、“霜降りの模様”に味と食感のヒントがあるそうだ。下の2枚の写真を比べて見よう。
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Aのように霜降りの白い部分が繋がっている場合、肉の甘さやコクが際立ち、とろけるようなやわらかい食感を楽しめる。Aの写真は、日本食肉格付協会が定める4等級以上を基準に設けている宮崎牛だ。
Bのように、霜降りの白い部分が繋がっておらず、独立している場合、やや硬くてしっかりとした歯ごたえを感じられる。そして“お肉らしい”味わいを楽しめる。
好みや気分に応じて、お肉を選ぶときの参考にしよう。
今回ハフィントンポストの取材で使用したお肉は、甘く芳醇な香りと、とろける霜降りの旨味が特徴の宮崎牛のステーキ肉。
宮崎牛は、自然豊かな宮崎県内の牧場で生まれ育った黒毛和牛で、日本食肉格付協会が定める基準の4等級以上のもの。5年に一度開催される和牛の品評会「全国和牛能力共進会」で2連続日本一を獲得している銘品だ。大相撲優勝力士に、宮崎県知事賞として「宮崎牛1頭分」を毎場所贈呈している。
実は、宮崎で生まれた子牛が、県外へ出荷・飼育され、近江牛や松阪牛などの有名ブランド牛にもなっていることは、知る人ぞ知るところである。
(おまけ)おつまみやごはんのお供に、もう1品
ここで鈴木シェフが教えてくれた、おまけの1品をご紹介しよう。
下ごしらえのときに筋ごと切り落とした牛脂を細かくカットして、熱したフライパンで炒めるだけ。じっくり炒めていると、脂がどんどん溶け出し、とんかつを揚げているときのように、しゅわしゅわといい音がしてくる。
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塩・こしょう・しょうゆで味付けしてさらに炒めると、コロコロ状の美味しいおつまみが完成。濃いめに味付けすれば、野菜と一緒に炒めても、そのままごはんの上にのせても美味しい一品だ。
宮崎牛のような上質な和牛は筋も脂も美味しいから、捨ててしまうのはもったいない。ぜひ試してみて。
まとめ
鈴木シェフが教えてくれたこれらのアドバイスを参考にすれば、とっておきのお肉を美味しく焼くことができるだろう。
・和牛を焼くときは常温に戻さない
・下味と筋切りはしっかり
・はじめは強火で、裏返したらすぐに火をとめる
・とにかくお肉に集中!
・美味しいお肉は牛脂もうまい!
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(撮影:中山幸二)
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