朴槿恵大統領の男性関係に言及した産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長のコラムが、名誉毀損にあたるとして韓国で起訴された事件は、ソウル中央地裁が12月17日、無罪判決を下した。
18日付の韓国メディアは、親与党の保守系メディア、反与党の進歩系メディアを問わず「(名誉毀損の)国際的な流れに照らしても妥当」(ハンギョレ)、「政府と検察は過剰対応したとの指摘を逃れられなくなった」(中央日報)と、起訴にいたるまでの司法当局や、不処罰の意思を示さず裁判を続行させた朴大統領の対応を批判した。
■「言論の自由が持つ意味を再考せよ」
産経新聞がインターネットで配信した加藤氏の記事は、2014年4月のセウォル号沈没事故の当日、朴大統領が7時間にわたって消息不明だったとする情報をもとに、朴大統領が男性と会っていたという噂について報じていた。
今回の法廷では、判決前に外交省から「日韓関係のために善処を求める」とする異例の要請文が読み上げられた。進歩系のハンギョレは社説で「今回の事件がどれほど日韓関係の発展にデリケートな懸案だったかを熟考する必要がある。実際に日本政府は、この問題を民主主義の価値に関わる事案ととらえ、首脳会談を含む外交ルートで持続的に問題を提起した」と指摘した。
韓国では、朴氏ら親与党系の市民団体が、大統領や与党を批判する記事に名誉毀損容疑での刑事告発を相次いで起こしている。保守系の中央日報の社説、そうした現状を背景に「政府公職者に関わる報道について、訴訟と検察の起訴が乱発する場合、言論の自由と批判機能は萎縮する。今からでも政府と検察は、言論の自由が持つ意味を再考しなければならない」と述べた。
■「三流メディアを英雄にした悲劇的な事件」
今回の判決は、携帯電話の通信記録などから、朴大統領が男性と会っていた事実はないとして「内容は虚偽だった」と認定。個人としての朴大統領の「社会的評価を深刻に低下させた」として、名誉毀損も認めた。ただ、コラムの目的が「被告人(加藤氏)がメディア人として、韓国の政治状況を本国に伝えるためのもの」だったとして、誹謗目的は認めなかった。このため、罪を構成する▽虚偽性▽名誉毀損▽誹謗目的の3要件のうち、1要件が欠けたとして、無罪とした。
検察が無理やり起訴したことで外交的事件となり、事態を深刻化させたとの批判も根強い。
18日付の朝鮮日報のコラム「万物相」は、「予想通り、虚偽報道自体より、加藤氏の処罰の是非と日韓の対立ばかりが話題になった」として「得るものはなく、損害ばかり莫大な『バカ起訴』」と断じた。
朴大統領は青瓦台にいて、加藤氏がスキャンダルの当事者とした人物も、別の人と会っていたことが確認された。しかし日本政界と右翼メディアは、彼を自由言論の闘士と持ち上げた。反韓感情をあおるのにこの上ない素材だった。
(中略)産経は加藤記者が事実無根と判明したのに、訂正報道はおろか、謝罪の一言もなかった。ネットの記事も削除せず公開し続けている。紙面を通じ「韓国は言論弾圧国」との主張を繰り返した。朝日新聞が32年前の慰安婦についての記事を裏付ける証拠がないとして取り消すと「誤報への真摯な謝罪がない」と批判した産経だが、自らの誤報には目をつむった。記者にとって誤報は致命的にもかかわらず、羞恥心すらない。
進歩系の京郷新聞のユ・シンホ外交専門記者は、コラムで「今回の裁判は記事の内容の真偽が争点ではなく、名誉毀損罪を問うもの」「無理やり起訴し、国内外的な波紋を招いた過剰対応に大きな責任がある」と指摘する一方、「三流メディアを英雄にした悲劇的な事件」と自嘲した。
加藤前支局長の記事は悪意的で低レベルで、日韓関係に何の足しにもならない「イエロー・ジャーナリズム」(扇情的な報道)の典型だ。だからといって政府が取り締まる話ではなかった。放っておけば非難されるのは産経の側だったろう。しかし検察は各界の反対にもかかわらず、加藤前支局長を起訴し、政府に残されたものは政治的、外交的な負担だけだった。有罪であれ無罪であれ、自滅の道しかなかった。
(中略)大統領の名誉を守るとの大義名分で国家の品格を毀損し、嫌韓報道に熱心な日本の三流メディアを英雄にした悲劇的な事件だ。民主主義と法治という面で、韓国より一枚上と評価される日本から「韓国は民主主義国家なのか」と揶揄される状況を自嘲し、国民に羞恥心を与えた責任は政府が負わざるを得ない。
ハフィントンポスト日本版はTwitterでも情報発信しています。@HuffPostJapan をフォロー