アメリカグラフィックデザイン協会(AIGA)は12月8日、2020年東京オリンピック・パラリンピックの新しいエンブレム公募に反対する公開書簡を発表した。経験、受賞歴は問わないという公募方式がデザイナーのただ働きにつながるなどと指摘。2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長に対し、再考を求めている。
■AIGAが指摘する「タダ働き」と「一般公募」の問題点とは?
AIGAは世界的に影響力のある、グラフィックデザインの業界団体。書簡では、同団体が「spec work(スペックワーク)」という言葉に強く反対しているとして、このコンペの方法を非難している。
スペックワークとは、「speculative work(投機的な仕事)」の略で、支払いが未確定な仕事という意味を持つ。デザインコンペによく使われる言葉だが、AIGAはロゴなどを製作する時点で既に労働を行っているのに、コンペ主催者側が気に入ったら報酬を払うという方式は、実質的に多くのタダ働きを生んでいると指摘している。
東京オリンピック・パラリンピックの新しいエンブレムは、採用されれば賞金100万円を手にするほか、開会式に招待される。しかし、作品の権利を無償譲渡することが条件になっており、ロイヤリティも一切発生しない。
AIGAは公開書簡でこの点について、運営組織とデザイナーの関係がフェアではないと批判。さらに、専門家に絞って公募を行わない点についても言及し、「尊敬されるべきプロのデザイナーに敬意が払われていないことや、組織委がデザインの良し悪しを判断する経験やスキルに乏しいことを示すことになる」と指摘した。
今回の公募が、経験を問わず広く一般の人から行われる点については、書体デザイナーの大曲都市さんがブログで、2つの問題を指摘していた。
第一の問題は、ベストなデザインはクライアントとデザイナーとの綿密なコミュニケーションから生まれるのですが、コンペでは基本的に疎通機会が要項のみに限られることです。あとは当てずっぽうになるので、参加者は主催者の意図に応えられているか分かりませんし、主催者も参加者の意図を汲み取れません。審査は「好み」に大きく左右されるようになり、こうなるとランダムに選ぶのとあまり変わりません。参加者からすれば、作品の質により多少は確率が上下するとはいえ、基本的に運任せです。良い作品が作られる可能性、選ばれる可能性が共に下がります。
次に、アイデアがたくさん集められるからといって、すべてがいいアイデアとは限りませんし、オリジナルであるとも限りません。参加者が意識しているか否かに関わらず、コンペは参加作品の質を下げます。期待値が低いことから、参加者は基本的にタダ働きになる前提で作業することになります。プロのデザイナーならば本来同じ作業で確実に収入を得られるため、よほどの理由がない限りコンペには参加しません(賞金が見合っているか、それ以外の価値を見出せるか)。まともに参加コストを計算できる人間ならば誰でも節約しようとします。どう労力を節約するかというと、過去の自分のアイデア、ひどい場合は他人のそれを流用(つまりパクリ)するわけです。コンペに日常的に参加している人間ほど参加コストの問題は大きいのでパクリが常態化するでしょう。そうでなくとも「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」タイプのデザイナーを長期的に増やすだけです。
(» コンペのタダ働き問題 Toshi Omagariより 2015/10/09)
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