2015年は何十万もの人々がヨーロッパに流入したことで、シリアの難民危機に注目が集まった。しかし、何年にも及ぶ悲惨な戦争のために400万人以上がシリアから逃れた一方、家を追われたほとんどのシリア人が国内に留まっている。その多くの場合、国際社会の支援や保護の手が届かないままになっている。
「シリア国内の避難民は、多くの点で難民よりも弱い立場に置かれたりしている」。ヒューマン・ライツ・ウォッチの難民権利プログラムのフェロー、ステファニー・キム・ジー氏はハフポストUS版にこう語った。
2015年10月時点で、650万人の国内避難民がまだシリアにいた。国連のデータによれば、国内避難民の数として世界最大だ。
国内避難監視センターのベテラン監視員であるギヨーム・シャロン氏は、ハフポストUS版に「人口の半分以上が国内で避難すると、1945年のヨーロッパと似た状況に匹敵するスケールということになる」と話した。
この数百万人の国内避難民は、ヨーロッパに避難したシリア人とは異なる困難に面している。安全が多少でも確保できる場所がシリアにほとんどないことが、国内に留まっている人々にとって、重大な問題だ。
キム・ジー氏は「国内にとどまるシリア人は、自宅から逃れて国内の他の場所にいるが、その理由は大量の爆弾やシリア政府による襲撃、イスラム国(IS)の支配と暴力など様々だ」と話した。
ロシアの空爆から逃れたシリア難民の住むテントは、2015年10月26日現在、シリアのラタキアにある。多くのシリア人が自国内を転々として逃げ、何とか生き延びようとしている。
シリア内戦で20万人以上が殺された。これにはシリア政府の空爆による数千人の犠牲者も含まれている。シリア政府の空爆は、しばしば無差別に民間人の居住地域が狙われている。国連のデータでは、少なくとも120万軒の家が損傷を受けるか、破壊されている。
反政府軍と政府軍の争いは延々と続いてきた。そして、ISの台頭や、10月の政権軍をはじめとする軍事勢力の増強で、情勢はさらに不安定になった。
紛争地域が推移するにつれて、シリア人は紛争の前線を避けて転々と逃げていかなくてはならない。シャロン氏は「人々が何度も大移動をしなければならないことで衝突が起こります」と話す。
多くのシリア国内避難民は紛争前から経済的に恵まれなかった人々だ。避難せざるを得なくなったことで、こうした人々の問題はさらに深刻になった。
シャロン氏は「最初に抑圧を受けた地域は、社会的に言って最も貧しい地域だと私たちは気付きました」と指摘、「紛争が本格化して手に負えなくなった時、それは、社会の中で最も弱い立場にある国内避難民が、本当に苦しんでいたということなのです」と述べた。
資金がないことも、多くの人がシリアに留まって国を一斉に離れない理由の1つだと人権問題の専門家は指摘する。シリアから逃げるには移動費用が必要だが、目的地がヨーロッパとなれば密輸業者へ支払う手数料もかかる。正規の身分証明書を持っていなかったり、失くしてしまったりした人々もいる。
キム・ジー氏は「国内避難民はたいてい、国外に逃げたくてもそれができない人々なのです」と強調、「経済的に困難で、家から避難する途中で身元を保証する書類を紛失してしまうこともあり、国外に脱出することがさらに難しくなっています」と語った。
国内避難民として国内に閉じ込められているシリア人は、国境の向こう側で避難民たちが得ている権利や保護を享受していない。避難民が多くの国で援助や避難所を与えられる一方、国内避難民は法的な権利がずっと弱い体制の中にあり、アサド政権に頼らなければならない。
キム・ジー氏は「彼らは自国の政権システムにまさに翻弄されている」と指摘した。国連人道問題調整事務所が「アクセスが困難な地域」あるいは「救援活動要員が定期的にアクセスすることができない場所」と分類する国内各所に、数百万の国内避難民は住んでいる。
国内避難民は多くの場合、国外に脱出したくても出来ない人々なのだ。
人権のエキスパートたちや監視員たちは、国内避難民がいる地域へのアクセスが困難なことで、彼らがシリアでどんな状況にいるのかを知るのが難しくなっていると強調する。古くて非常に限られた情報を元に、評価を行うことも多いという。
キム・ジー氏は「シリアの国内避難民の数がどうなっていくかは、言わば情報のブラックホールです」と言い、「私たちが見ているのは表面でしかなく、その下にあるものは、現時点では全く分からない」と説明した。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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