ガザの子供たちが、釜石でたこ揚げした理由  国連パレスチナ機関トップが語る

パレスチナ自治政府ガザ地区の子供が、東日本大震災で被災した岩手県釜石市を訪問。同行した国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のクレヘンビュール事務局長がインタビューに応じた。

釜石の子供たちとたこ揚げをするガザの子供たちとUNRWAのクレヘンビュール事務局長

紛争地のパレスチナ自治政府ガザ地区の子供3人が11月上旬、東日本大震災で被災した岩手県釜石市を訪れた。ガザの平和と大震災からの復興を願い、地元小学生らと一緒に「絆のたこ」を作って大空に揚げた。パレスチナ難民を支援する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=アンルワ)トップのピエール・クレヘンビュール事務局長(49)も子供たちに同行。ハフポスト日本版のインタビューに応じた。

ガザの子供たちは今回、釜石市にある仮設住宅近くの野球場で地元住民や子供ら約200人と小型のたこを組み立て、「we love Japan」などとメッセージを書き込んだ。その後、参加者全員で数十のたこを揚げた。ガザでは、大震災翌年の2012年から毎年3月に東北の復興を祈るたこ揚げ大会が開かれている。一方、2015年からは釜石でもお返しのたこ揚げ大会が始まるなど、お互いの交流が続いている。

参加したラワン・サーフィさん(13)は「(ガザと被災地の)二つの悲しみがなくなるように祈りました」。3人に津波の様子を話した岩手県陸前高田市立米崎小6年の熊谷大翔さん(12)は「いつかガザにも行ってみたい」と話した。

絆のたこ、被災地の空に ガザと岩手の子どもが交流 - 産経ニュースより 2015/ 11/03 17:53)

ガザでは、実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの対立が続き、2014年夏の衝突で双方の2200人以上が死亡した。クレヘンビュール氏は和平が進まない状況を「人間の尊厳に関わる問題」と話し、成果ある交渉が必要だと強調した。

クレヘンビュール氏はスイス出身。赤十字国際委員会(ICRC)に20年以上所属し、アフガニスタンやボスニアなど紛争地で勤務してきた。2014年5月からUNRWA事務局長。

インタビューに応じるUNRWAのクレヘンビュール事務局長

――今回、子供たちが来日した大きな目的は何ですか。

ガザの子供たちは戦禍で家を失い、危険なため野外での遊びも制限されているなど、多くの困難を抱えています。ほかの国の子供たちのようには希望を持てない状況です。交流して、地震や津波の被害を受けた子供たちと釜石の子供たちとの団結心を示したいと思いました。子供たちはこれまでも時折、(無料通話ソフト)Skypeでお互いに話をし、相互理解を深めてきました。

ガザの子供たちは今回、ガザの外に出るのさえも初めてです。電気も安定していないガザと比べ、発展した東京の街並みを見て感心したりもしたようです。

――2014年夏に大きな衝突がありました。その後のガザはどんな様子ですか。

依然として不安定です。ガザの学校は一見して他の国と変わらないようにですが、周りは高い壁に囲まれています。衝突時に南ガザの学校を訪れて子供たちと話しをしました。周辺には、壊れた家のセメントが重なっていました。昨年の衝突で住宅約1万8000戸が全壊、もしくは著しく損壊しました。しかし、人々は自由にガザから出て行くことができません。

ガザは東京23区の6割の広さに約150万人が住んでおり、人口が密集しています。さらに、人口の65%が25歳以下と若い世代が多いのですが、彼らの多くは仕事もありません。自宅の再建もできません。

人々は、すぐには状況が改善されないことを分かっています。政治的前進がなければ若者の状況はもっと悪くなるでしょう。紛争の要因には、パレスチナの若者の間で現状への不満が高まっていることがあります。沈静化のためには真の和平交渉の再開が必要なのです。

――イスラエルのネタニヤフ首相は10月下旬の演説でもパレスチナに対して攻撃的な姿勢を示しました

イスラエルの姿勢に、パレスチナの人々はみな、不安を抱いてきます。戦争では人々が殺し合い、感情的になります。世界の人々は、もっと協力してあげないといけないと思います。

人たちは輸出入ができず、物を自治区の中だけで売ることしかできなくて物資も持ち込めません。経済活動は制限され、仕事が生まれません。人々は将来を悲観しています。

「パレスチナ国家」が樹立するめどは立ちません。若者たちは、1993年の(イスラエルとの間の和平に向けて定めた)オスロ合意以降の交渉は「交渉のための交渉」に終始しており、成果をもたらしていないと諦めかけています。交渉期限を設け、イスラエルの占領や治安、ガザ地区の封鎖解除など重要な問題を議論する本物の交渉をしないといけないのです。人間の尊厳に関わる問題なのです。

――日本政府は2015年9月、1200万ドル(約14億円)のパレスチナ支援を表明しました。日本に期待することは何でしょうか。

日本に対して言いたいことは二つあります。一つ目は、中東への取り組みを一層深め、人々にパレスチナ難民にもっと注目してもらいたいということです。二つめは、これまでの支援に感謝したいということです。日本はこれまでの取り組みを誇りに思っていいと思います。教育や食糧援助に日本は力を尽くしてくれました。

日本は2016年に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を開きますが、その場でも言及してほしいと思います。

たこ揚げをする釜石の子供たち

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