世界アンチドーピング機関(WADA)の第三者委員会は11月9日、ジュネーブで開いた会見で、ロシア陸上界が組織的なドーピング違反を犯し、それを隠していたと指摘。ロシア陸連の資格を停止し、同国選手の大会出場を禁じる処分を国際陸連に勧告した。NHKニュースなどが報じた。
2014年12月、ドイツの公共放送がロシア陸上界の組織的なドーピング疑惑を報じられたことをうけて、WADAはパウンド元委員長を責任者とする第三者委員会を設置していた。
ジュネーブで記者会見するパウンド氏。世界反ドーピング機関の第三者委員会で調査責任者を務めた。
■報告書「ロシアは組織的なドーピングを把握していた」
「勝利のために手段を選ばない文化が根付いている」
こう厳しく指摘した報告書では、2012年ロンドンオリンピック女子800ートル金メダルのマリヤ・サビノワを含む5選手と4人のコーチ、1人の医師は永久資格停止処分が適当として、モスクワの検査所の認定取り消しなどを求めた。これを受けてWADAは10日、同検査所の認定を取り消した。
またロシアでは、選手がドーピングを拒否した場合には代表チームから外されて選手生命を絶たれたり、「どこの国でも似たようなことをやっている」と説得されたりした実態があり、選手がロシア国外で偽名を使って検査を逃れたこともあったという。ロシア陸連がコーチや選手に対し、「独立委の聴取を受けたり、書類にサインをしたりするな」という指示を飛ばしていたとも認定した。
調査に際し、公認機関の責任者が1417の検体を意図的に破棄するなど、独立委の調査を妨害した事実も指摘。さらに、検査機関の職員らが選手に賄賂を要求したり、受けとったりすることが常態化している報告した。
責任者のパウント氏は、「ロシアは組織的なドーピングを把握していたと思う」との見識を示した。これを受けて、国際オリンピック委員会は10日「世界のスポーツにとって衝撃的で極めて残念な内容になった」と声明を発表したが、11日の声明では、「ソチ・オリンピックのドーピング検査に違反はなかったというWADAの監視団の報告を信じている」として、異なる見解を示した。ロシアのムトコ・スポーツ相は地元メディアに「証拠に乏しい。ロシアは何をやっても悪く見られる」「委員会には誰かの出場を停止させる権限などない」などと反論した。
■旧ソ連時代から、スポーツを国力誇示に利用
旧ソ連時代から、政権は国力誇示の手段としてスポーツを重視。選手の育成は国を挙げて行われ、好成績を収めれば住居や金銭、車を好条件で購入する特権が付与されたという。
2012年、プーチン大統領の復帰以降、再びスポーツを国威発揚に積極的に利用する傾向が見られるようになったと指摘されている。プーチン氏は2014年の冬季ソチ・オリンピック、2018年のサッカー・ワールドカップを招致。ソチ・オリンピックのメダル獲得者に、メダルによって異なる金額と種類の高級乗用車を付与するなど、政府は成績優秀者を「成功者」扱いした。
■過去の組織的なドーピング
過去の組織的なドーピングを巡っては、中国で1990年前半、陸上の馬俊仁コーチが率いた女子中距離「馬軍団」が、当時の世界記録を数々打ち立てたが、2000年のシドニーオリンピック直前に、7人のうち6人の選手がドーピングの疑いにより登録を外された。
ドイツでは、旧東ドイツ時代に、オリンピックでメダル獲得するために、組織的に筋肉増強剤が使用されて社会問題となった。2013年には、ドイツの連邦スポーツ科学研究所が、旧西ドイツでも、サッカーや自転車、ホッケーなどの競技で、組織的にドーピングをしていたとする報告書を発表した。
自転車競技では、ロード・レースの最高峰「ツール・ド・フランス」で、1999年から7連覇した元ロードレーサー、アメリカのランス・アームストロング氏が2013年、「ドーピングなしで勝つのは不可能」などと語った。かつての医師やトレーナーとともに、禁止薬物を使用していたことや、多くのトップ選手がドーピング違反を認定され、大きな問題となった。
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