インドネシア・ジョグジャカルタでラマダン期間中の2015年7月8日、トランスジェンダーの人々にとって安全な場所である寄宿学校「アル・ファタファ」のリーダー、シントラ・ラトリは祈った。
この記事は、東南アジアでのLGBT(性的少数者)の権利に関するシリーズの第1回として、当地域でLGBTコミュニティが直面している課題を明らかにし、現地活動家の勇気溢れる活動を浮き彫りにする。
ゲイの権利に関する活動家の男性、ハルトヨは、2007年の運命の夜を鮮明すぎるほどに覚えている。インドネシア・アチェ州でボーイフレンドと家にいた時、大勢の人々がドアを破り、家を荒らし回り始めたのだ。見知らぬ人々が「私を引きずり回し、殴打し、口汚く罵ったのです」と、2013年の「429マガジン」とのインタビューでハルトヨは回想した。それから、彼らは警察を呼んだ。
「何が起こったか思い出すとき、私は強い怒りに駆られます」とハルトヨはBBCに語った。「警察官は私の頭に放尿し、私たち2人をぼこぼこに殴りつけたのです」。
ハルトヨは現在、インドネシアの首都ジャカルタに暮らす。3時間の拘留中に拷問を受け、裸にさせられ、性行為を強要されたと語った。その後、彼と彼のボーイフレンドが以後互いに性行為を行わないことを誓う「契約書」へ署名するよう恫喝されたと続けた。
「私たちは、動物のように扱われました」。ハルトヨは2009年、ジャカルタ・ポストに対してそう語った。
スマトラ島北端に位置するアチェ州は、イスラム法(シャリア)の極めて厳格な制度で知られる。470万人の人口を抱える同地は、インドネシアで同性愛を違法とする唯一の州だ。ロイター通信によると、同地ではLGBTコミュニティは人目を避けることを強いられてきた。
今年の初頭、州都バンダアチェ市の副市長は、同性愛について「根絶やしにされるべき社会病」との烙印を押した。
しかしアチェ州は、インドネシアでLGBTコミュニティにとって危険な唯一の場所ということではない。
同性愛が、厳密にはインドネシア法の下で犯罪と見なされないとはいっても、南スマトラ州など多くの州では、売春防止法(同法で「売春」は同性間の性交渉も含む、と広く定義されている)がLGBTの人々の権利を制限するために使われている。また、活動家によると、LGBTコミュニティはジャカルタのような大都市でさえも阻害されている。
「LGBTの人々は、生活のあらゆる領域で差別を受けているのです」と、インドネシア初のLGBTの権利に関する組織「ガヤ・ヌサンタラ」の創設者デデ・オエトモはハフポストに対して語る。差別は職場や学校でも起こっている。
世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアは、大部分が保守的で、社会は「異性愛規範性が非常に高いのです」 とオエトモは言う。「最大の課題は、いまだに肉親なのです」 。
アメリカの「ピュー研究所」の「ゲイ及びレズビアンに対するグローバル・アティチューズ報告書2013年版」は、インドネシア人の93%が同性愛は社会に受け入れられるべきではないと考えているとし、インドネシアはこの調査の中で最も寛容性が低い国とされている。
その1年後、インドネシアのLGBTの権利に関してランドマークとなるUSAID(アメリカ国際開発庁)とUNDP(国連開発計画)の報告書が、「LGBTの人々は多くの場合、意義ある人生を送ることを妨げられ、他の人々が当たり前だと考えている機会が与えられていない」と発表した。
「数千もの人々が自国の発展に十分に貢献する機会を妨げられ、同時に、発展による利益を享受する機会からも妨げられていることは、個人や国家にとって大損失をもたらします」と、UNDPインドネシア事務所のベアテ・トランクマン所長は語る。
活動家のマリオ・プラタマによると、トランスジェンダーの人々に対する暴力についてインドネシアは史上最悪の記録の一つを持つ。
昨年、正体不明の襲撃者の集団が、ジョグジャカルタで開かれた「トランスジェンダー追悼の日」の集会出席者を襲撃した。
当時、プラタマは現地紙ジャカルタ・ポストに対して「彼らは、集会参加者を引きずり回し、蹴り飛ばし、突き飛ばしたのです」と語った。
この襲撃は珍しいものではなかった。プラタマによると、2011年から2012年にかけてインドネシアのトランスジェンダー・コミュニティの85%が暴力を経験した。
イスラム強硬派の活動家もまた、LGBTの人々を標的にして恫喝を行う。過激派「イスラミック・ディフェンダーズ・フロント」は最も積極的な反ゲイ・イスラムグループで、インドネシアでは「FPI」として知られている。同グループのあるメンバーは2010年、BBCに対して「ゲイの人々は精神的に病んでいるのです」と語った。
「神は彼らをそのように創ったのではありません」と、そのメンバーは付け加えた。「彼らは同性の人々と共にいることを選択したのであり、私たちの宗教でそれは罪です。政府が彼らに対して何もしないというのであれば、私たちがしなければならないのです」。
活動家は、インドネシアで高まる宗教的保守主義が、LGBTの人々の権利をより一層侵害しかねないとの懸念を表明している。
数えきれない課題があるにも関わらず、インドネシアでのLGBT運動は拡大している。USAID/UNDP報告書によると、約120のLGBTの草の根組織が現在運営されており、健康問題や出版、社会的・教育的活動の組織をまず第一に行っている。
しかし、比較的活発な活動家コミュニティをよそに、実際の変化がもたらされるのは遅いと活動家は言う。
「権利ということで言うと、進展はありません」とオエトモは語った。
今年これまで、アメリカの同性婚を合法化するアメリカ最高裁の判決に続き、インドネシアが婚姻に関する平等の達成に少しでも近づいていると感じるか、との質問をハルトヨは受けた。
彼は、インドネシアはそのような目標からはるか遠いところにいると答えた。
ハルトヨは6月、ジャカルタ・ポストに対して、「私たちの国が直面している、より差し迫った問題は、セクシュアリティを強制しようとする暴力です。これこそ、私たちが今後10年闘っていかなければならないことなのです」と語った。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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