巨額の建設費用が問題となり、安倍晋三首相が計画の白紙撤回を表明した新国立競技場問題。
2020年東京オリンピックの組織委員長を務める森喜朗・元首相は7月18日に放映されたBS朝日の番組「激論!クロスファイア」に出演し、ジャーナリストの田原総一朗氏らの質問に答えた。
2520億円にふくれあがった経緯について「私も知らない」と述べる一方、2520億円という金額については、組織委員会や東京都がさらに巨額の金額を支出する計画を根拠に「オリンピックだけで言えば、遥かに安い」と、問題にはあたらないとの見解を示した。
計画の見直しは「した方がいい」と賛成した。イラク人建築家ザハ・ハディド氏による当初案を「生牡蠣」と形容し「このデザインは嫌だなとすごく思った。だって(東京に)合わないじゃない」と酷評した。
計画の白紙撤回で、2019年に開催予定のラグビー・ワールドカップに間に合わなくなるとされることについて、日本ラグビー協会の会長を6月まで務めていた森氏は「間に合わなければほかの競技場でやるしかない。ラグビーをターゲットにされるのは非常に不愉快。できないものを無い物ねだりしたってしょうがない」と同意する考えを示した。
今後の見直しから建設までの過程は、遠藤利明・オリンピック担当相を中心に調整を進めることが望ましいとした。
番組は17日、森氏が安倍首相と会談する前に収録された。主なやりとりは以下の通り。
%MTSlideshow-236SLIDEEXPAND%
――(2012年のデザイン決定)当初、総工費1300億円と想定していた。翌年13年9月に一気に3000億円と試算された。約2割規模を縮小して1625億円、ところが結局、今年また総工費が2520億円になった。どうもこの経緯がよくわからない。なんで3000億円になったのか。
森:私もわかりません。ただ、相手はゼネコンじゃないですか。その企業にとって命がけですよね。おそらく最初に高く見積もって「これだけかかる」と言ったのは業者側じゃないですか。
――1300億円というのは、勝手に決めたのか?
そんな話もしてないでしょ。僕はそんなことに関わる立場じゃないですから。
僕らは、国家的プロジェクトだから業者も無償でやってほしいぐらいの気持ちでいるんだけど。この交渉をするJSC(日本スポーツ振興センター)は文部科学省の下部機構で、こんな大きな事業をするような部署では全然ないんですよ。専門家もいません。もともと学校給食会や交通安全会とか、文部科学省の傘下の法人を行革で統合して、TOTO(サッカーくじ)を扱うようになってお金が入るようになったんですね。だけどそこの皆さんは学校の芝生や、小学校のスポーツ施設をお手伝いすることは専門をやっている。文部科学省も、スーパーゼネコン相手の工事はそうそうないんですよ。だからもともと業者と交渉していくことにかなり無理があったと思う。業者も献身的に努力されたと思うけど、そういうものにお金が膨らんだ。僕の推測ですよ。
――責任体制があいまいになっていますよね。
森:責任は文部科学省です。文部科学大臣です。最初の予算をつけたのは民主党政権の中川(正春)さん。そのあと予算化したのは平野(博文)さん。この案を採用したのは田中真紀子さんですから。直接大臣が関わったとは思いませんよ。そういう時代にスタートしたものだということは、案外知られていない。
――でも、自民党政権になってからドーンと上がっちゃった。
その前にラグビーワールドカップが決まったんですよね。メーン会場を横浜ということで招致していた。我々もいいグランドがほしいとは思っていた。一方で国立競技場の改築は、ラグビーやワールドカップのためにやっているんじゃない。国立競技場は老朽化していて、免震も耐震も行われていないから非常に危険。オリンピックがあろうとなかろうと建ててやらないかん時期がとっくに来ていた。陸上競技場としても国際規格に合わなくなった。たとえばトラックは9レーンないといけないけど8しかない。東京ではちゃんとした国際競技はできていない。これだけの大都市で公認の陸上競技場がないという実はお粗末なことです。その思いで、参考意見を言うために有識者会議があって、価格がどうだとか、どこのものを使うかという権利は誰にもない。
――具体的にどこの会社をどう使うのか、誰が決めるんですか?
直接交渉はJSCでしょうね。その上にある文部科学省。一生懸命やっておられましたけど、かなり最終的にもてあましたんじゃないかと思いますね。
――一般の国民から見ると、1300億が、なんで2500億になっちゃうのか。
当時、猪瀬(直樹・前都知事)さんを中心に、東京都とJOCがつくった案でIOCと契約した。私が組織委員長に就任してから立候補時のファイルをチェックして、東北の震災で物価も人件費も上がっているから見直した。トータルで2000億円ほど圧縮しましたよ。東京都の仕事ですけどね。いくつか中止したものもあります。IOCからの指示もあって、東京だけでなく大宮や幕張を使うことにして節約しましたが、それでも、猪瀬さんの時代に出した立候補ファイルは少なくとも今の3倍ありました。今は東京都だけで、節約しても節約しても3000億です。立候補ファイル通りにやっていたら、もっと高かったということ。
一方、私ども組織委員会は、幕張に3種目の仮設会場での競技を決めました。仮設のスタンドだけで何十億かかるんです。たとえばビーチバレーは、砂を持ってくるだけで20~30億、その回りに約1万人のスタンドを造るだけで40数億かかる。終わったらすぐ壊す。無駄だと思いませんか? そういうことを君たちメディアの皆さんはまったく見ていないんです。そういうものと運営費で、少なくともおそらく5000億は超えます。東京都で3000億、組織委員会は民間ですが、5000億~6000億。国は2520億円ですよ。おかしいと思わない?膨大って誰か言ってるけど。
――今回は国立なので、オリンピックのためにタイミング良く国の財産として残っていく…
その通り。とてもいいことです。あと50年、60年、70年、日本のスポーツの聖地として残っていくんです。
――もともと1300億がむちゃくちゃだったんですか?それが上がり下がりしている。
どういう経緯でそうなったのかは、僕も分かりません。誰が最初に言ったのかも分かりません。その数字の上がり下がりは、おそらく業者との話し合いでそうなったんじゃないですか。文部科学省は直接やりません、それだけの人がいませんから。(誰が?)それは分かりません。責任者は文部科学省ですよ。
――政権内で見直し論も沸騰している。見直しはしない方がいいんですか?
した方がいいでしょ?僕はもともとあのスタイルは嫌でしたからね。この案を見たとき「おやっ」と思ったですよ。冗談で「生牡蠣がドロッと垂れた」って言うんだけどね。キールアーチかどうかは別にして、このデザインは嫌だなとすごく思った。だって(東京に)合わないじゃない。(デザインについて)僕らは賛成という権利は何もないんです。
――工期が間に合わないという話になってますが。
だからラグビーのために急がなきゃいかんとか、ラグビーやるために森の了承がなきゃいけないとか、おもしろおかしく言われているけど、嫌ならやらなくていいんですよ。私がワールドカップを勝ち取ってきた立場ですが、このことと国立競技場を建て替えることは違うんです。国立競技場は国がやらなきゃいけない仕事。それがなかなか文部科学省も財務省も重い腰を上げない。だからバックアップしようと議員連盟ができて後押しした。オリンピックができたんで、てこになる、ありがたいと思ったんだけど、今となっては本当に迷惑もいいところですよ。
組織委員会もラグビー協会の会長も私がやっていた。オリンピックのために神宮の横にある秩父宮ラグビー場を駐車場に貸せという。貸すとラグビー場は3、4年使えない。だけど、終わったあと修復できて新しいものに造り替えてくれるなら、いいことじゃないのと、ラグビー協会の面々に納得させたんです。
――4分の3以上の1900億円の財源が未定。どうするんですか。
本当は、東京都と民間の組織委員会がこれだけのお金を出している。国はたったその半分でしょ。もっと国立競技場に国が出さなきゃいけないんですよ。
――森さんは、そこまで高いと思わないんですか。
だからね、高いと安いということは何を基準にするんですか。オリンピックだけで言えば、組織委員会より都の施設より遥かに安いですよ。ただ、長い懸案だった国立競技場を建て替えるという事業をどうするのかを考えたら、国もTOTOの金を当てにしたらいかんのじゃないですか。本当は国がここまで出したということであれば、東京都も恩恵があるわけですから、舛添さんも「それなら」ということになると思いますよ。そうしてまず公的に1500億ぐらいのものができて、それによって必要なものが出てきたら、TOTOのお金を使っていけばいい。
――下村博文・文科相が東京都に500億円の負担を求めて、舛添要一・都知事がNOと言った。
大臣の話の持って行き方が悪いんです。下村さんは、その前から2年半も無駄にしているんです。猪瀬さんとも交渉はしてましたよ。あれは高いとか、周辺の施設でやればいいとか。そんなことを議論しているから、文部科学大臣はずっとヒートアップしているわけですよ。舛添さんは就任したばかりですから、さて国の施設に東京都が金を入れていいのか、と考えますよね。だけど羽田滑走路だって首都高速だって国の事業だけど、大事なところには東京都のお金が入ってます。舛添さんも理屈に合えばやると思います。だけど、舛添さんから見ると「国の金額はなんでちっぽけなんだ」。もっと低姿勢で話し合いを始めないといけない。自分がヒートアップして、舛添さんも着いてくると思っているから、舛添さんはカチンとなったんですね。
――歴代オリンピックの建設費に比べて、日本は桁が違う。
これもよくメディアや評論家の先生方が使われる。ロンドンのものはそんなに本格的なものじゃなかった、終わってからサッカー場になった。シドニーも簡単なものなんです。北京なんて労働事情を考えて日本と比較できる金じゃない。比較するのはまったく間違っている。日本はこれからあと50年、立派に使える国の施設にしたいとやっている。ロンドンなんてラグビーが国技みたいなものだから、ロンドンだけでも郊外を含めて8万人の収容施設が2つある。だからそういうものはいらないんですよ。そういうことを勉強しておっしゃっていただかないと。
――朝日新聞、毎日新聞に加え、読売新聞も「無責任でおろかな決定」と批判している。
書かれた方は関係者のお話をちゃんと聞かれたのかな。日本のメディアの悪いところで、まず記者たちがわーわー騒ぐ。評論家を騒がせる。そういう伝聞で作って集めて書いているんじゃないですか。自分の目で、耳で、情報を集めて論説の方は(いるのか)。
――安藤忠雄さんも記者会見で「2520億円は知らなかった」。なんでですか。
知らないとは思いませんけどね。自分がこれで決めた、あとは知らないよ、という人なのかな。関心を持っているんじゃないんですか。もう一つ不幸なのは、槙文彦さんという立派な方が見直しを求めましたが、ある勢力が引っ張り出したんだと思います。その日本の設計者グループは、ある意味でアンチ安藤みたいなところがあるんですよ。安藤さんはそういうものと論争はしたくないし、我関せずと言う形で遠ざかっていたんだと思います。だけど、いくらぐらいになるかということを、まったく無関心だったとは思わない。
――これから安倍総理とお会いになります。見直しすると、デザインの見直し、工期を長くすることでもう少し安く出来ると。ラグビーはできなくなっちゃう。
全国のラガーマンには気の毒だと思います。しかし間に合わなければほかの競技場でやるしかないんじゃないですか。ラグビーをターゲットにされるのは非常に不愉快なんです。できないものを無い物ねだりしたってしょうがない。もともと僕らは2011年に立候補してニュージーランドに負けた。そのときから今の国立競技場を使うという想定はなかった。ラグビーの場合は日本中12カ所でやる。間に合ってくれればいいなと思ってます。最終的には遠藤大臣がそういう調整をしたらいいと思いますね。
――金額の問題より、この金額が決まるにあたって透明度がないんですよね。
そんなもんじゃないですか? 不正がなければいいんですよ。仮にテレ朝がこういうものを建てれば、いちいち業者との交渉なんて、社員にもしないでしょ? 社員にさえもできないものを、外に明らかにしないでしょ。私の経験からいっても、大臣は結果の報告を聞くだけでしょ。
――コスト意識をもって、調整していればこういうことにはならなかったんじゃないか。
下げたところもあるんじゃないですか? たとえば僕らが困ったなと思ったのは、日本にはきちっとした球技場に、たいがいグランドの回りに陸上のトラックがある。これは臨場感もないし、あまり進んだ国の施設じゃないんですね。スポーツ関係者にとって、ラグビーやサッカーにとって、国の施設だから臨場感あるものにしてほしい。しかし国の施設だから陸上トラックを造らなければいけない。そこで可動式スタンドが大変お金かかるからやめましょうということになる。開閉式の屋根もやめる。僕が心配しているのは、開会式に何百人、何千人を使うから、練習を夜中に半年ぐらいやるでしょう。必ず周辺から「うるさい」と言ってくる。だから屋根が必要。わーわー言うから外したんでしょ。下げたらそういうものでしょ。
僕と安倍さんとそういうことを決めるもんじゃないんです。安倍さんに経緯も話さないといけない。いいものをしてくださいよと。だけどそれは専門の大臣が2人いる。特に遠藤大臣がいるんだから、従来の経緯から見て遠藤がいいと思います。
ハフィントンポスト日本版はTwitterでも情報発信しています。@HuffPostJapan をフォロー