報道写真家セバスチャン・サルガド追った記録映画 「父は世界の希望を見いだした」

報道写真家セバスチャン・サルガドさんの半生を追った記録映画「セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター」が公開される。監督の一人で息子のジュリアーノさんがハフポスト日本版の取材に応じた。

「神の眼」を持つと言われる報道写真家セバスチャン・サルガドさん(71)の半生を追ったドキュメンタリー映画「セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター」が、8月1日から公開される。監督を務めたのは、自らも写真家で「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」などのドキュメンタリーを出がけてきた巨匠ヴィム・ヴェンダースさんと、息子で映画作家のジュリアーノ・サルガドさん(41)。父の仕事に向き合ったジュリアーノさんはハフポスト日本版の取材に応じ、「父は悲惨なものをたくさん見てみましたが、最後は世界の希望を見いだしました」と話した。

セバスチャン・サルガドさんはブラジルに生まれ、40年にわたって世界を撮り続けてきた。モノクロを基調として、社会派な視点で人々や飢餓、肉体労働者、難民・移民といったテーマに挑み、その一方で、大自然の保全や復元に尽力する環境活動にも携わってきた。2004年からは、球上の最も美しい場所を探し求めてガラパゴスやアラスカ、サハラ砂漠などで撮影をする生涯最大のプロジェクト「Genesis(ジェネシス=創世記)」を始めた。

ヴィム・ヴェンダースさんとジュリアーノさんは、サルガドさんのこの「Genesis」に同行し、共に監督を務めて映画を完成させた。映画では作品を紹介するとともに、サルガドさんにその半生と、シャッターを押した記憶を語らせ、希代の写真家の足跡を解き明かしていく。

インタビューは次の通り。

インタビューに答えるジュリアーノ・サルガドさん=東京・渋谷

――この作品が作られた経緯を教えてください。

2009年に、父から一緒に取材に行こうと誘われました。私は最初、あまり気が進みませんでした。取材はゾエ族というブラジルのアマゾン奥地の人たちを撮る旅でした。そのときは父についてのドキュメンタリーを作ろうとは思いませんでした。というのも、父との関係が微妙というか、やはり親を作品にするって難しいです。

帰って来て、私が取材で動画に収めたものがかなりあったので、短編映画を作って父に見せたらすごく感動してくれて、「ジュリアーノ、お前自身がとても出ている」と言って涙してくれました。それに私が感動して、だったら父を映画に収めてみようと思いました。

――ヴェンダースさんと手がけることになったのは、どうしてですか。

ヴェンダースさんは父の写真を見てファンになり、父に連絡しました。ある日、父が私に電話をかけてきて「今晩、ヴェンダースさんが来るんだ」と言ってきました。父の家で一緒に食事をしたんですが、そのとき、父の映画を撮るならヴェンダースさんがいいと思いました。それで、話が進みました。

――ヴェンダースさんとの仕事の割り振りはどうしましたか。また、巨匠である彼はどういう人でしたか。

私が父にインタビューするのは難しいと思ったんです。第三者であるヴェンダースさんは、私の父への敬愛の念もあったので、彼にお願いしました。撮影はとてもうまく進むし、ヴェンダースさんはとてもオープンマインドで、すばらしい人だと思ったんです。けれども編集をし始めると、全然違いましたね。1年にわたって角を突き合わせて、険悪な状態にもなって戦いました。映画に対する見解が違っていて、一時は映画はもう完成しないとまで思いました。えも言われぬ内情とか、説明不能な感受性なんかを分かち合うのは難しいですよね。

――父サルガドさんとはどんな関係だったのですか。

この映画を撮る前は、ぎくしゃくしているなと感じていたんですけれども、それがなぜなのかとか、どんな感じだとかは、あまり深く考えることはありませんでした。一緒に旅をして、父を見て思ったのは、すごく集中する人間で、すごい仕事の仕方をするということです。被写体とすぐに距離を縮めてしまう。ヴェンダースさんが父にインタビューをして、それをフィルムに収めて、また見直すというプロセスを経て、父との距離感がうまく取れるようになった気がしました。

父は、とても大きな犠牲を払ってまで人々を理解しようとして、それを他の人々に理解してほしいと願っています。様々な人たちに会って、いろいろなことに共感するということをずっと続けてきました。私は、それを理解しないといけないと思い、そうしたら父と友達になれたと感じました。

――作品で様々な場所を訪れました。どこが印象に残っていますか。

インドネシア領のニューギニア島で非常に印象深いことがありました。とても人里離れた森の奥で、水は泉の水、エネルギーは太陽だけ。現地の人の小屋に泊めてもらいました。男性は裸で管のようなものを生殖器に着けていたりして、本当に私たちの生活と違いました。

ネズミを食べるんですが、捕まえる罠を作るのを、私たちも手伝いました。だいたい完成してほっとしていると、ある男の人が、身に着けていた木片みたいなものを取り出し、それを擦り合わせて火を起こしたんです。火って、人間の原始的な知恵です。動画に収めましたが、原始的な人と、テクノロジーを身に着けた人との出会いである場面に感動しました。続きもあって、その人が火を起こすと、今度はたばこを取り出して吸い始めたんです。一つ仕事を終えたら一服するということは私たちと同じだなと思うと、互いの距離がすっ飛んでしまいました。

――日本人には作品のどんなところを見てもらいたいですか。

父はとても悲惨なものをたくさん見てみましたが、最後は調和、そして世界の希望を見いだしました。とても正直な視線を、様々なものに投げかけたと思います。非常に残酷な内戦だったり、厳しい状況の人々だったり、そういったものを写真に収めました。環境活動家として、乱伐で荒廃した土地に植林し、広大な緑の森を復活させた。小さな行為でも、1人1人が希望に向かって実践していけば、人類の大きな希望につなげることができると言いたいです。

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この作品は、2015年8月1日から「Bunkamuraル・シネマ」などで全国ロードショーされる。

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