1966年に静岡県で起きた「袴田事件」で死刑が確定した袴田巌さん(79)が釈放されて3月27日で1年が過ぎた。この袴田事件が契機となり、冤罪と死刑が2014年の大きな話題となった。
袴田事件では一家4人が殺害された。再審開始が決定しているが、まだ始まっていない。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナル日本は4月1日、袴田事件と死刑について考えるシンポジウムを都内の参院議員会館で開き、袴田さんの姉、秀子さんが巌さんの現状について「拘禁症は、1年や2年ではちょっと直らないと思う」などと話した。巌さんは「なんかの電波が来るから、それをキャッチしないと」などと話すこともあるという。
シンポジウムには巌さんも参加する予定だったが、急きょ参加を取りやめた。アムネスティ日本事務局長の若林秀樹さんによると、当日になって、「気分的に出たくない」と言ってきたという。
シンポでの、秀子さんと若林さんとのやりとりは次の通り。
■「国家が処刑するのはもってのほかだ」
袴田秀子:袴田でございます。もう1年になります。去年の3月27日、やっと巌が私の手元に帰って来ました。1年が知らないうちに経ってしまいました。
巌の状況ですが、割合と元気にしております。それで、ニコニコ笑ったりもするようになりました。最初、出てきた時には、能面のような顔をして、うれしいのか悲しいのか、辛いのかなんだか分からなくて、本当に私も困りました。しかし、皆様のおかげで、生きて出まして、生きておりました。生きて出てきました。
ただ、生きていたというだけで、実際には、拘禁症が相当ひどいです。
巌が言うには、「国家が処刑するのはもってのほかだ」「死刑は絶対反対だ」って、それは言います。だから、相当つらい思いをしたと思います。
私も死刑制度には絶対反対です。
まだ裁判は終わっておりません。これからも、ご支援よろしくお願い申し上げます。
若林秀樹:1年経っても裁判が始まらないというのはどういうことなんでしょうね。常識的に考えても、おかしいですよね。いまだに、(裁判所、検察、弁護側による)三者協議が続いているということなんですが、袴田巌さんは、最初に見たとき、ほとんど反応がなかったんですね。浜松の駅に無表情で来たんですが、だんだんいろんな笑みが出てきた。しかし残念ながら、いまだにご自分の世界に閉じこもって、そこから出ようとしない。実は今日も、お呼びしたかったんですよ、いま一歩も部屋から出ようとしない状況なんですが、最近のその辺の状況を…。
袴田秀子:去年のうちは、ちょっと買い物なんかに行くと付いてきまして、来いと言わないのに外に出たんです。今年のお正月以来、ちょっと風邪を引きまして、インフルエンザをやりまして、それからどうも出渋りまして。「なんかの電波が来るから、それをキャッチしなけりゃいかんから家にいる」と、そう言うんですね。まあ、何の電波か分かりませんが、そこら辺は、拘禁症のためだと思います。
ニコッと笑うには笑いますが、このごろは将棋をしておりまして、将棋が大変好きで、一生懸命やっております。将棋をやるときには、まともな話をして、それで外にお花見に行こうとか何とか言うと、やっぱりおかしなことを言います。
やっぱり、精神障害と言いますか、拘禁症のため1年や2年ではちょっと直らないかと思っています。
若林秀樹:最初よくなりかけたとき、このままずっと直っていくんじゃないかなっと思ったんですけれど、少し今は、なかなか回復が進まないということですかね。いまは将棋に凝ってらっしゃって、外から来られる方を捕まえて、連戦連勝だと。
袴田秀子:ここのところ、3敗しました。それでも自分は負けを認めていないことに、ちょっとおかしなことがあります。昨日はジンギスカンがどうのこうのって言うんです。いままではジンギスカンって言葉は出なかった。松尾芭蕉だとか西郷隆盛だとかよく言っていましたが、このごろそれを言わなくなったのね。
昨日は、夕飯食べて、みんなでご飯食べまして、将棋をやった人たちもいたんです。お坊さんなんかも2人来まして、5、6人で食事しました。食事が終わって、自分の部屋に行って、私たちがこっちでくつろいでおりましたら、ツカツカって来まして、ジンギスカンがどうのって言うんです。その意味が分かりません。ああそうって、みんなで相づちをうっていました。
若林秀樹:将棋がお好きで、最近はパソコンで一人でできるような。
袴田秀子:パソコンで将棋ができるものですから、マウスを持たしてやらしたんです。そしたら、「この中に将棋が入っているのか」っていうから「入っている」って、「こうやってやるとできるよ」ってわたしやったんです。まだ慣れないもんですから、マウスがうまく使えないんですよ。それで動かなかった、機械が。そしたら、「この機械がおかしい」と、「負けそうになると動かなくなる」と、そんなことでございます。
一方、アムネスティは1日、「最新の死刑統計(2014)」を発表、このシンポでも専門家が説明をした。統計によると、2014年の死刑執行国は22カ国で、2013年と同数だった。全世界で少なくとも607人が死刑を執行されたが、前年比では約22%減少した。
日本では3人の死刑が執行された。新たな死刑判決数は2件で、2015年3月31日現在の確定死刑囚の数は、袴田巖さんを含めて130人となっている。
2014年死刑執行国(アムネスティ・インターナショナル日本の資料より)
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