[ドバイ 25日 ロイター] - 緊迫の度合いを増すイエメン国内の武力衝突。サウジアラビアとイランを巻き込む事態となれば、世界最大の油田を抱えるアラビア半島での代理戦争に発展する恐れがある。また、中東で複数の紛争を招いているイスラム教の宗派対立がさらに激化する可能性もある。
イエメンでは、サレハ元大統領を支持する武装勢力とも連携するイスラム教シーア派系の武装組織「フーシ派」が急速に勢力を拡大。25日には空軍基地を制圧し、ハディ暫定大統領が逃れた南部アデンにも迫った。ハディ暫定大統領は、フーシ派が昨年9月に首都サヌアを掌握したのを受け、アデンに逃れていた。
一方、駐米サウジアラビア大使は25日、サウジおよび湾岸諸国が、イエメン暫定政府の要請に応え、「フーシ派」に対する空爆などの軍事作戦を開始したことを明らかにした。
戦略国際問題研究所(CSIS)の中東局長、ジョン・アルターマン氏は「イエメンの崩壊は(ペルシャ)湾岸全体を危機に陥れることになる。湾岸協力会議(GCC)とイランの関係はさらに難しくなり、さまざまな米同盟国に対するテロ攻撃も誘発する可能性がある」と述べた。
■宗派対立
イエメンでは、政治危機のあおりを受け、イスラム教の2つの異なる宗派が対立する恐れがある。北部ではシーア派系のザイド派が主流である一方、南部と東部ではスンニ派が多い。しかし、シリアやイラクと違うのは、両宗派は同じモスクで礼拝し、過去何世紀にもわたって平和的に共存してきた。
ザイド派の流れをくむ武装組織「フーシ派」も、宗派対立の考えはないと強調。イエメンの大部分を支配することは、すべてのイエメン人のための革命だと主張している。
ただ、スンニ派の組織や部族はこれを認めていない。スンニ派の過激派組織である「アルカイダ」系の戦闘員は、「フーシ派」と戦う一部の部族と協力している。また20日には、フーシ派のモスクで自爆攻撃があり、過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出している。
■シーレーン
イエメンでの戦争の脅威により、中東から欧州・アジア・米国へ石油を運ぶ重要なシーレーンの1つであるバブルマンデブ海峡の安全にも懸念が強まっている。紅海からアデン湾とアラビア海につながる同海峡が封鎖されれば、石油タンカーはスエズ運河にたどりつけなくなり、アフリカ南端ルートを通らなくてはならなくなる。エジプトは、自国の利益が脅かされる場合、傍観はできないとしている。
■アルカイダ
イエメンは、アルカイダ系で最も野心的な組織「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)の拠点でもある。同組織はこれまでにイエメン国内で爆弾攻撃を繰り返しているほか、2009年12月の米デルタ航空機爆破未遂事件や、今年1月に仏パリで発生した風刺週刊紙「シャルリエブド」本社銃撃事件でも、犯行声明を出している。
■人道危機
イエメンの政治情勢の悪化は、すでに慢性的となっている同国の貧困を一段と深刻化させるとみられる。イエメンや西側の関係筋によれば、サウジは同国に対する財政支援について、「フーシ派」に奪われるのを懸念して大部分を停止している。
国連によると、昨年時点で一時避難民の数は約10万人に上る。飢えや汚職、水やインフラなど基本的社会サービスの不足が大きな問題となっており、同国がソマリアなどから受け入れた難民約25万人は苦境に追い込まれている。
■石油輸出への影響
原油価格の下落は、イエメンの石油収入も直撃した。同国中銀によると、2014年の石油輸出額は16億7000万ドルとなり、前年の26億6000万ドルから大幅に落ち込んだ。同国の主要石油輸出ルートであるマアリブ・パイプラインからは1日7万バレル前後を送ることができる。3年前に同パイプラインに対する攻撃が始まる前は、紅海に面する輸出ターミナルまで1日約11万バレルが運ばれていた。部族対立やアルカイダ系組織の攻撃により、同国の石油・ガス輸出は阻害されている。