【LGBT】同性カップルに証明書発行条例案、渋谷区長「制度に問題があれば改善するのが当然」

東京都渋谷区の桑原敏武区長は23日、東京の日本外国特派員協会で会見し「社会制度に問題があれば改善するのが当然」と、多様性を認める社会へのシフトチェンジを訴えた。
会見する桑原敏武区長
Taichiro Yoshino
会見する桑原敏武区長

東京都渋谷区が、同性カップルを結婚に相当する関係と認める証明書「パートナーシップ証明」を発行する条例案を、3月区議会に提出した。3月31日の本会議で議決される。

桑原敏武区長は3月23日、東京の日本外国特派員協会で会見し「社会制度に問題があれば改善するのが当然」と、多様性を認める社会へのシフトチェンジを訴えた。

渋谷区の条例案については、自民党の谷垣禎一幹事長が「社会の制度や秩序の根幹に触れる」と懸念を表明するなど反対意見もある。一方で渋谷区は、宮下公園の命名権を大手スポーツ用品メーカー「ナイキ」に売却して再整備を任せる計画をめぐって、反対派の路上生活者(ホームレス)らを強制退去させたことで提訴され、一審の東京地裁は渋谷区敗訴の判決を下した。桑原氏は反対派を「何かの政治運動に利用するためにやっている」と批判した。

桑原氏は、2015年4月に実施が見込まれる次期区長選には立候補しないことを表明している。主なやりとりは以下の通り。

【冒頭発言】

渋谷区の文化は他者を思いやり、尊重し、互いに助け合って生活する伝統と、多様な文化を受け入れ発展してきた歴史のある町です。とりわけ渋谷は、様々な個性を受け入れてきた寛容性の高い町です。その中で、一人一人の違いが新たな価値の創造と活力を生むことを期待し、発展してきた町です。

しかし一方では性同一性障害の方など、性的マイノリティーの問題については、特定の個人の問題として、教育、職場、家庭内の問題として取り扱われてまいりました。そのため、マイノリティーの子供達は周辺の人々や友人に温かい理解も得られず、異端視して揶揄、嫌悪の対象とされるため、あるがままに生きることに恐怖心を持っております。未来の展望も描けず自殺、自殺未遂、不登校に至る事例もあると、私たちの検討会に出た参考人のお話もあります。

性的マイノリティーの問題はいまだ医学的に解明されておらず、自己責任の問題として、孤立して絶望のままに生きています。それゆえ早い段階から教育や職場などの社会において、人間の性の多様性について肯定的な啓発が重要であると考えます。区も社会も国も、これら声をあげられない人々に温かいメッセージを発信し、性的マイノリティーの人たちの自尊感情や自己肯定感を高め、合わせて人権感覚を育む大切な機会にしなければなりません。

成人となったのちも入居や入院、住居や選挙などの生活において、さまざまな社会的差別や困難が想定されております。「パートナーシップ証明」は法律的拘束力はありませんが、発行要件、発行手続きなどを明確にし、区民や事業者の施策への協力を積極的にはたらきかけていきたいと思います。そのため、男女差別のみならず性的少数者のために相談窓口を設け、当事者の方々から悩みを受け止め、かつ専門的な事項については「渋谷区多男女平等・多様性社会推進会議」の助言を受けながら的確に進めていきたいと思います。

【質疑応答・パートナーシップ証明関連】

Q 今回の条例は成立しそうなんでしょうか。渋谷区の区議会は自民党が多数を占めています。

A 端的に言って、成立するかしないかわかりません。私を推薦した自民党が反対していることは事実です。しかし、その他の政党が支持しています。結果はまだわかりません。3月31日にはっきりすると思います。念のため申し上げると、私は仮に成立しなくても、相談窓口は必ず置きたい。パートナーシップ証明は条例が成立しないとできないが、性的障害のために苦しんでいる人がおれば、我々はその人のために努力しなければならない。さらに、我々はそういったものの推進会議を置いております。この会議の費用は予算に含まれますが、この予算に(議会が)反対する気配はない。そういう会議や審議会を置くことも可能だと考えております。

Q 条例に違反した企業はホームページで公表するという方針なので、渋谷区内のLGBT支援をする企業から「どういった体制整備をすればいいのか」と相談が来ていると聞いている。具体的には人事規定や性転換者のトイレの扱いなど。渋谷区として相談窓口とともに企業への体制整備はどうお考えか。

A 今回は渋谷区に担当課長をはじめとする組織を置こうと考えている。啓発が中心なので過料を科すことは適当ではない。公表することでプレッシャーをかけたいと考えています。この問題に理解をしない企業は社会的に制裁を受けることがあると。一方で教育職場では、先生の対応の仕方を渋谷区として指導していかなければならない。企業に対しては、専門機関があるので、お互いにどうすれば理解していただけるのか、渋谷区と社会が一体となっていくことができるのか、話し合いを、専門家を交えながらやっていきたい。企業や学校においても、性的マイノリティーのためのトイレや更衣室を準備するなどの課題を相談しながら対応していきたい。

Q 他の区とこのことについて話したことはあるか。

A 渋谷区の審議会からの答申は1月20日。自分のところの作業だけで大変だった。よその区と話すことはしていません。聞こえてきた話では、新聞記者の質問に「うちは関係ないわ」とある区が言われたと聞いておりますが、渋谷区は外国から来られた方が非常に多い区。渋谷区はよその区とは同じようには取り扱えないのかなと思っております。

Q 日本の主流の見方とはだいぶ違うようだ。なぜか。あなた自身がゲイなのか。

A まず、なぜ渋谷区がこういうことをやるか。法律があって事実があるんじゃなくて、事実があって法があるんだと思っております。性的少数者であるために差別的な扱いを受けている事実があって、法というのは、そういう人にも等しく温かい手を差し伸べることが国のやることじゃないのかと思っております。国が反対するからということは考えていない。むしろ、(国は)いずれかの時期に考えを変えなければならないと思っております。

憲法(24条)は結婚が「両性のみの合意」に基づいて成立すると言っていますが、あの憲法の時には性的マイノリティーについては憲法そのものが気づかなかった。しかし憲法は差別を肯定していたか。法の下の平等ということを謳っております。これは性的差別、あるいは人種、国籍、性的、さらには社会的身分による差別を禁止していると思っています。その社会的身分の中に性的障害は入る。憲法は正しいんだと思っているということです。

入区(転入)をすることには歓迎するという考え方に立っています。反対の動きですが、心情や信念の問題ではないんだ。事実の問題なんだと。苦しんでいる人にいつまでも、社会から目に見えないようにしておくだけでいいのか、私はそうではないと考えています。同時に、反対のための反対もあるようでして、そういうパターンの文章もきますけども、私は一つ一つ説得をしていきたいと思っております。

それから、私はゲイとかいう意識は一切ない。ただ、理解したいということだけです。

Q 渋谷区内には外国人の居住者がとても多いとおっしゃっていたが、過去に渋谷区でヘイトデモが行われている。多様性を壊すヘイトスピーチ(人種、国籍などの憎悪を煽る演説)について区長はどうお考えか。今後対処していく考えはあるか。

A もうすでにヘイトスピーチやデモは渋谷には来ておりません。私自身はそのことについてはなんら恐れることなく、きちっと警察の支援を受けながら対応していきたいと思っています。また、できるだけ理解をしていただく努力は私自身もしなければならない。これは心情や信念の問題じゃない。あるがままに己を表現できない人たちのために努力をしなければならないんじゃないかと思っております。

Q 次の選挙に立候補されない。今回の動きが後退した場合に渋谷区とはどのように関わっていかれるのか。

A 私自身は、議員から3年前にこの質問があって、一つの出された考えにけじめをつけるのが私自身の課題だと考え、条例という形で返事を返したということになります。この条例の中にもございますように、システムをつくって社会が正しく理解し、メッセージを発信していくことができると考えておりますから、きちっとこれをやっていきたい。

Q 自民党の谷垣幹事長が「国の根幹をゆるがす」と言ったが。LGBTはどれぐらい渋谷区にいるのか。同性婚ではなく養子縁組を活用するという方法もあるが。

A 谷垣さんは「社会制度や秩序の根幹に関わる」と言われたと聞いているが、社会秩序とか制度というものは人のためにあるものだと思うんです。制度のために人があるんじゃない。その社会制度に問題があれば改善するのが当然じゃないですか、こう言ってるだけなんです。(区内にLGBTがどれくらいいるかは)わからない。社会にカバーを被せられて、人の目に見えない形で進んでいる。だから知らない人が多い。我々も「そういえば、あの不登校はそうだったのかな」というぐらいの形で、本人がなかなか声をあげられない。

養子の問題は、答えることはできない。今の社会は性的同一性のないものについて否定的な考えをもっておりますから、そのことを前提とした養子制度は、あくまで合法的な対応を求めているんでしょうから、現実的にはなかなか難しいと思います。

Q 夫婦別姓の議論でもあったことだが、区長への反対意見に正当性があるかどうか。自分が見たくないという嫌悪感で言っているのか、社会や家庭のあり方の破壊につながるという公共的な動機から反対しているのか。そのような考えに正当性があるかどうか。

A 私自身は直接答えることができるかわかりませんが、人間社会はもともと正義とかやさしさ、思いやりという普遍的な原理によって初めて多数の人間が共存する社会を作っている。我々の普遍原理を、正義ないし思いやり、やさしさを否定すれば、共存社会を否定することになる。

【質疑応答・宮下公園の再整備関連】

Q 東京地裁は今月13日、渋谷区による野宿者(ホームレス)の直接強制排除は違法だと指摘し、渋谷区は賠償金を払えと命じる判決を言い渡しました。最近では水道の蛇口を閉めて、野宿者に水を使わせないようにもしています。これは桑原区長がおっしゃった思いやり、人権といったものに矛盾しないでしょうか。

A 渋谷区は、毎月4回、区の職員が地域を回って路上生活者に働きかけをしています。一方で生活保護、就職の働きかけもしています。職員が医師と一緒に月2回、回っております。それだけではありません。渋谷区の窓口は年末年始、24時間の窓口でそういう人たちを保護する対応もやっています。そういった中で、生活保護の申請が1件、職員が回った中ではゼロです。ではなぜ食事を出すために人が集まってくるのか。それは政治活動だと思っています。渋谷区はそこまで対応する必要はないんじゃないかと思っています。トイレや水飲み場をつくることが人を集めやすいとも言われております。地域からも「きちっとルールを守ってもらいたい」と言っております。火を使うことを禁止するなど、法令や決まりに基づいて、活動することは認めておりますから、今おっしゃったことは当たらないんじゃないかと考えています。

Q 東京地裁が3月13日の判決で、ナイキによる宮下公園の再整備計画についても疑義が投げかけられた。

A ナイキを何でこれだけ社会が否定的に評価するのかわからないが、我々は企業の方と地域貢献を機としてご協力をさせていただけるということだから、今後もその関係は維持したい。結果は、訴訟の運営の拙劣さからと私は思っております。当然のことながら控訴するという考え方です。法秩序は維持しながら、きちっと行政目的に対して解決していく努力はしないと。

Q 宮下公園にいるホームレスの方々は多様性に含まれないのでしょうか。

A 私どもの職員に聞いてもらうとわかりますが、路上生活者については責任を持って保護する、適切に指導することをやっている。あそこにはそういう人はいないんで、専門的にどこかから来る。組織を持っていらっしゃるんであって、何かの政治運動に利用するためにやっているんではないか。苦しんでいる人、助けを求めている人はやぶさかではないが、わけがわからない主義主張のために譲歩することはないとご理解いただきたい。

Q 条例を提案した区議はナイキパークを提案した区議と聞いている。この区議はほかの場所で「LGBTの活用」とおっしゃっていた。本当に人権を考えていたか疑問を覚えている。この区議が区長選に出馬したら推薦するか。

A 私は自分が目立つために条例を作ったんじゃない。あくまで渋谷の社会的状況、議員(の提案)が一つの合理性があると考えたから諮問にかけた。私はその時点でも結論は持っていなかった。色々意見を聞きながら審議会が開かれ、人権の問題じゃないかと問題提起を逆に返してもらった。そのとらえかたは正しくない。

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【最後に】

私が考えていることは、できるだけ未来に対して設計の持てる人生を実現することが何より大切だ。そのことで我々は新しい社会改革、秩序改革ができるんじゃないかと思っているだけで、一つも邪心は持っていません。

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