積極的な社会活動で知られるヨルダンのラニア王妃(44)は、「イスラム国」と自らを名乗る過激派組織のダーイシュ(ISIS)は、全くイスラム的ではないと語った。
ラニア王妃は、2015年3月5日にロンドンで開かれたワールドポスト主催の会議「The WorldPost Future of Work Conference」に出席し、ハフィントンポスト編集長のアリアナ・ハフィントンのインタビューで次のように述べた。
「ISIS(Islamic State of Iraq and Syria:イラク・シリア・イスラム国)という言葉の、イスラムを意味する1つめの“I”をなくすべきです。なぜなら彼らにはイスラム的な要素がまったくないからです」。彼女のその言葉に、聴衆からは拍手が沸き起こった。
「彼らはイスラム教の信仰とはまったく無関係です。彼らが持っているのは信仰ではなく狂信です」とラニア王妃は述べる。「国際社会は、彼らの宗教的な側面に注目しないほうが良いと思います。宗教的な側面に目を向けることで、彼らに間違った正統性を与えてしまうからです」
「ダーイシュはイスラムと呼ばれることを望んでいます。イスラムと呼ばれることで彼らに対する攻撃すべてが、おのずと『イスラムに対する戦争』になるからです」とラニア王妃は語る。「西側諸国対イスラムの構図を作ることで、彼らはより多くの人を集めることができるのです」
ラニア王妃は、ダーイシュに対する戦いはイスラム教徒とアラブ諸国が先導すべきだと主張する。その方法の一つとして、オンラインとソーシャルメディアを駆使するダーイシュに対抗して、イスラム教徒とアラブ社会の若者が中心となってオンラインでコンテンツを発信し反撃することをすすめる。
「私たちは、ダーイシュにアイデンティティーを奪われるわけにも、彼らの思惑通りに汚名を着せられるわけにもいきません。私たちの思いは、私たち自身によって語られなければならないのです」
「過激派の望みは、宗教と文化を使って世界を分断することです。それは、西側諸国の多くの人々にアラブ諸国とイスラム教徒に対する固定観念を抱かせる可能性があります」と彼女は言う。「しかし実際にこの戦いは、文明社会と世界を中世に引き戻そうとする正気を失った集団との戦いです。そのことが分かれば、私たちの価値観を守るために、私たち全員が共に戦うべきであるということに気がつきます」
ラニア王妃によれば、人々がダーイシュに加わる背景には様々な理由があるという。帰属意識や冒険心、仕事を求める人もいれば、ダーイシュの宗教的な美辞麗句に引き寄せられる人もいる。ラニア王妃はそれを、ピラミッドの形で説明する。
ピラミッドの頂点にいるのは、実際にダーイシュのイデオロギーを生み出している人です。そして彼らが一番罪の重い人たちだと思います。どんな宗教にも狂信と過激思想は存在しますが、それが主流になることはありません。それがダーイシュで主流になったのは、彼らに対する支援があったからだと思います。ダーイシュに経済的支援やインフラを提供した人たちがいたことで、ダーイシュのイデオロギーが大規模に広がりました。
ピラミッドの中央部分にいるのは、政治に不正があると考える人たちです。自分たちの社会には正義が存在せず、正当な利益を享受できないと考える人々です。そして、ピラミッドの底辺にいるのは、おそらくは教育を受けられず、貧困や失業に苦しむ人たちです。彼らは社会的に最も弱い存在です。ピラミッドの頂点にいる人々は別として、こうした人々がダーイシュの主張を受け入れてしまうのは、社会的に弱い立場にいるためなのです。
ダーイシュに加わる理由が人それぞれであるため、ダーイシュとの戦いには様々なレベルで取り組まなければならない、とラニア王妃は主張する。それには軍事活動も含まれるが、それだけではない。彼女はこう説明している。「これは戦場だけで勝利が決まる戦いではありません。この戦いの中心にあるのはイデオロギーです。イデオロギーは銃弾では倒せません。より良い思想だけがイデオロギーを倒せるのです」
ラニア王妃のインタビュー全編はThe WorldPost Future of Work ConferenceのYouTubeチャンネルで観ることができる。
ラニア王妃は、1970年にクウェートでパレスチナ人医師の娘として生まれ、1991年の湾岸戦争の戦火から逃れるためにヨルダンに家族で移住した。その後カイロ・アメリカン大学で経営学を学び、卒業後はシティバンクやアップルコンピューター社に勤務したが、同僚とともに参加したパーティで当時王子だったアブドゥッラー2世と知り合い、2ヶ月後に婚約。1993年6月に結婚し、現在4人の子供がいる。自ら車のハンドルを握って子供たちの学校や仕事場に出かける行動派の王妃で、貧困地区の自立支援の作業所作りや、イスラム社会での女性の地位向上などに力を注いできた。文末スライドショーでは、彼女の経歴を写真で紹介している。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
[日本語版:遠藤康子/ガリレオ]
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