【3.11】「福島第一原発、近づくことすら怖かった。だけど...」住民が初の視察で感じたこととは?

あっけないほどきれいになっていた現場と、自動販売機やプリンタ業者も入れないという現実。身近に感じた作業員の努力。福島第一原発に初めて足を踏み入れた住民が見たものとは?

福島第一原子力発電所に地元の民間人が初めて視察に入った。福島県で起業したり、復興に携わっている15人が2月16日、現地を訪問したのだ。「報道や政治家の視察だけでは伝わっていないことがある。住民として現場を見て、それを周りに伝えたい」との思いを東京電力にぶつけ、実現した視察。日本で3番目に広い福島県の様々な地域から、年令や性別、立場が違う人々が集まった。

住民たちは福島第一原発で何を見て、何を感じたのか。視察にはハフポスト日本版も同行取。2月中旬から3月上旬にかけて、参加者に話を聞いた。(※掲載している写真のうち撮影日の記載のないものは、視察日に撮影したものです)

■「行かない」と即答した女性、「対峙したい」と視察を決めた原発避難区域の男性

メモを取る日塔マキさん

「福島第一原発に視察に行かないかと誘われたとき、最初は断ったんです。『行かないよ。来年あたり結婚して、子供産もうと思ってるんだもん』と即答しました」

そう話すのは、郡山市出身の日塔マキさん(31)。女性の目線で福島の情報を発信する団体「女子の暮らしの研究所」代表を務める。当初は視察するだけでも怖いという思いが先に立ち、「行かない」という言葉が口をついて出てしまった。めったに立ち入れる場所ではない。見てみたいとの思いもあったが、怖かった。

一方で、怖がっている自分を、批判する自分もいた。

「まだ人が住むことができない避難指示解除準備区域になっている場所に、スタディーツアーでお客さんを案内することがあります。何も考えずに怖いから行かないというのは、それらの避難指示解除準備区域で頑張っている人たちを、否定するのと同じことなんじゃないかとも思いました」

同じ福島県に住んでいると言っても、色々な考えの人がいる。参加するべきかどうかを相談する相手もいなかったと、日塔さんは話す。そこで、視察企画者に悩みを打ち明け、当日の視察ルートや現地の放射線量、そして万が一の場合の避難対策など、視察に係る情報を東電から取り寄せてもらった。事前に開催されたワークショップでも、様々な疑問をぶつけた。最後は交際相手の男性に相談。企画者の説明も受けてもらい、一緒に考えてもらった。「行ってみれば。なかなかない機会だし」と背中を押され、参加した。

入退域管理施設で出発を待つ和田智行さん

一方で、起業支援ビジネスを展開する「小高ワーカーズベース」代表の和田智行さん(38)は、二つ返事で参加を決めた。和田さんの住む南相馬市小高地区は避難指示解除準備区域。2016年4月の避難解除を目指しており、現在避難中の住民は帰還するかどうかを選択しなくてはならない。

既に帰還を決めビジネスを再開させた和田さんにとって、福島第一原発は廃炉までの30〜40年という長い期間、付き合っていく相手になる。

「これから何十年も対峙しなくてはいけないものなので、見ておきたいんです」

■あっけないほどきれいに片付いていた現場

視察した人たちがまず驚いたのは、がれきが撤去され、あっけないほどきれいになっていた福島第一原発の姿だ。日塔さんは、「テレビなどで見て自分が知っているはずの、がれきが散乱した福島第一原発と現実とは、全く異なって見えました。もとからきれいだったのではないか、そう錯覚しました」と話した。

福島第一原発の中の、かつて「桜通り」と呼ばれた場所。2015年2月26日撮影

「それでも構内に残っている倒れた鉄塔や、津波でねじれるようにへこんだタンクなどを見て、ここも地震のときは大変だったんだと思えました。あのグチャグチャの現場をここまできれいにしてくださったのかと思うと、作業員さんたちには感謝しかないです」

(上)海側にあった3つ並んだタンクは津波で位置が変わった。ねじれるようにへこんだ状態や位置は震災当時のままの状態で置かれていた。(写真は2011年3月に東電撮影)、(下)倒壊した送電線鉄塔は現在も倒れたままだ。

和田さんは、怒号が飛ぶような切羽詰まった現場を想像していた。

「もっとバタバタと作業しているのかと思いました。しかし作業員の方たちは落ち着いて淡々と作業していて、町で見るような、復興の工事現場と変わらないように見えました」

海側の物揚場。瓦礫の撤去も完了し作業しやすい空間が広がっていた。

■場所によってはマスクも無し、視察も軽装

日塔さんや和田さんが驚いたように、福島第一原発構内の一部は除染が進んでいる。1号機の原子炉建屋から直線距離で約1km離れた入帯域管理施設前では、作業員たちは防護服を着用しておらず、マスクすらしていない人もいる。

入帯域管理施設付近でバスを待つ人たち

入帯域管理施設では女性が働く姿も見られた。東京電力は2014年6月から、一部エリアに限って福島第一原発での女性の就業を許した。下の写真の奥に映る女性は「2014年の秋ぐらいから働いている」と話した。

入帯域管理施設には女性が働く姿も見られる

今回の視察はバスから降りないものだったため、視察者も軽装備だ。防護服は着ず、サージカルマスク(医療用マスク)に木綿の手袋、ビニールの靴カバーと、線量計のみ。これだけの装備で、水素爆発の起こった4号機建屋の前まで近づくことができることに、参加者からは驚きの声が上がった。

4号機建屋前付近。バス内からの視察であれば、サージカルマスク、木綿の手袋、ビニールの靴カバー、線量計だけの軽装備だ。

■ 一方で、線量の高い場所。低くても人が簡単に入れない場所

しかし、4号機の前の線量は毎時30マイクロシーベルトと、入退域管理施設前の毎時1.0マイクロシーベルトに比べると高くなっているため、バスの中であっても長居することはできない。さらには、原子炉に燃料が残っている1〜3号機の前には、この日の装備では近づくことが許されず、建屋全体を高台から遠目に見ることしかできなかった。

「きれいになったと思っても、もちろん建屋の中には入れませんでした。溶け落ちた燃料が残っていて、廃炉にはまだ何十年もかかる。片付いてきたけれど、そういう危険な場所もまだ残っている。そんな場所で働いてくださっている人もいるんだと、忘れないようにしたいです」と日塔さんは話した。

構内の高台(海抜35メートル)からみた1号機〜3号機

参加者の質問に答える小野所長(右)

福島第一原発の小野明所長(55)は、構内にも線量が低くなった場所があるといえども、まだまだ一般的な場所とは異なる環境であることを、免震重要棟にあるプリンターを例に紹介した。

「この部屋にもプリンターがたくさんありますが、故障をしてもメーカーの方が来られるわけではありません。そのため、社員がメーカーで修理方法を習い、故障したら自分たちで直せるようにしているんです」

1号機原子炉建屋から約320メートルの位置にある免震重要棟は震災前の2010年7月に福島第一原発に整備された建物で、震度7の地震にも耐えることができる。この中にある緊急対策室は外部から室内に放射性物質を持ち込むことがないように厳重に管理されており、線量も毎時0.3マイクロシーベルトとぐっと低い。現在でも24時間、常時80人程度の東電社員が詰めているが、マスクや防護服を着用する必要もなく、作業着姿でいることができる。それでも一般の民間人が簡単には出入りできる場所ではない。

免震重要棟で説明を聞く参加者

免震重要棟での事務風景。手前には大型プリンターも並ぶ。

プリンター業者が構内に入れないのと同様に、現在構内には飲料水は用意されていても自動販売機がない。現在入退域管理区域のすぐ隣に建設中の大型休憩所が2015年4月以降に完成するまでは、作業員の方が温かいご飯を食べる場所もない状態だと小野所長は話した。相馬市で復興活動を行っている視察参加者は、大型休憩所にコンビニエンスストアの入店も決まっていない状態であることに驚いていた。

(左)建設中の大型施設とその側を歩く視察者たち、(右)建設中の大型施設

■その道のプロも事故を起こす、厄介な環境

放射線物質の影響で、外での作業は防護服やろ過機能のついた付いたマスク、そして2重の手袋といった装備が必要になる。これらの装備のために、事故が起こりやすい環境になっていると視察を案内した東電社員は話す。

忘れてはいけないのは、現在福島第一原発で働く作業員のほとんどが、震災前から福島第一原発で働いていたわけではないということだ。今、福島第一原発で行われている作業は、大型休憩所や汚染水用のタンク、原子炉建屋への地下水の流入を防ぐ凍土壁などをつくる建設作業が大半を占めているが、それまで防護服を着るような現場で働いてきた経験を持つ人はほとんどいない。

マスクによって視野が狭くなってしまったり、ふわりとした防護服がものに引っかかったり、手先の動きが鈍くなったりするなど、一般の工事現場にはない困難が発生する。このちょっとした装備の違いが事故につながってしまう可能性があるという。特に福島第一原発で働くようになって、現場に慣れるまでの最初の1週間での事故が多くなっていると、東電の担当者は説明した。

すれ違う作業員

東電は福島第一原発で働く作業員に対し、働き始める前に安全管理指導を行っている。元東電社員で、福島第一原発の作業員に対する支援を続けている「アプリシエイト フクシマ ワーカーズ」代表の吉川彰浩さん(34)は、安全指導を東電まかせにするばかりではなく、協力企業も巻き込んで安全管理の意識付けを徹底しないと、より大きな事故につながる可能性があると指摘した。

汚染水タンク前で作業する作業員

■1日7000人が働く現場

東電は事故が起こる要因について、作業員の増加にともない一人一人に対して管理が行き届かないことも一因だと見ている。

福島第一原発には、現在1日あたり7000人の作業員が働いている。これは1年前の約3730人と比べると、1.87倍の数だ。しかし、作業員を増やさなくてはいけない状況も目の前では発生している。作業員の増加の大きな要因は汚染水対策だ。現在、1日あたり400トンの汚染水が増加しているというが、この汚染水を貯める汚染水タンクは1基1000トンしか貯めることができず、2.5日に1基つくらないと足りない計算となる。

増え続けるタンクのために、東電は構内の森を削り敷地を増やした。1000トンの重さに耐えるように地面をコンクリートで固めたり、タンクからの汚染水漏洩を防ぐために、タンクの周りに溝を掘ったりなどの作業も必要になっている。

タンク設置のための強固な地盤をつくる工事

入退域管理施設で出発を待つ赤津慎太郎さん

いわき市で保育園を経営する赤津慎太郎さん(35)は、必要となる作業員を、今後も確保できるのかと不安を漏らす。東電だけで難しいのであれば、住民と共同で課題解決を行うべきではないかという。

「7000人と数字を言われても実感できなかったけれど、Jヴィレッジ(現在の事故対応拠点)の駐車場や、福島第一原発の構内の車両の数を見れば、本当にたくさんの人が働いているんだと実感します。今後もこれらの人材を集め続けられるのか。東電だけに任せていいのかとも思います。(私の住む)いわきのことばかりを考えていればいいというわけでないと感じました。

東電も住民も、ゴールは『福島の復興』で同じものです。全ての問題を東電だけに押し付けておくのではなく、共有できる問題であれば、一緒に解決できるよう、住民も前向きに取り組むべきではないでしょうか」

午後5時頃のJヴィレッジ駐車場。日中は車両で全て埋まる。

夕闇に包まれる頃、福島第一原発そばの国道6号には車のテールランプの列が浮かび上がる(2月28日撮影)

■「なぜこんなものをつくっちゃったんだろう」

視察者からは、エネルギーや地方経済という大きな課題の解決に国民が真剣に向き合ってこなかったことも、このような状況を作り出してしまう一因になったのではないかという声も出た。

和田さんは、原発の立地場所の海抜が低いことを自身の目で見て、怒りを覚えたという。

「福島第一原発で最も驚いたところは、建屋が低い位置に建っていたことです。それに海からも近い。こりゃ津波もかぶるよと、呆れました。もちろん、海から物資を運び入れる利便性は、理屈では理解はできます。でも、無防備すぎると思いました」

1号機〜4号機があるあたりの敷地周辺は海抜4メートル。海から2.6kmほど内陸にある和田さんが住む常磐線・小高駅周辺すら津波被害があった。福島第一原発の海との近さを目の当たりにして、驚きを隠せないようだった。

東防波堤から見た3・4号機タービン建屋(2012年1月14日 東電撮影

震災直後の5・6号機海側エリア(2011年3月 東電撮影

和田さんは悔しそうな表情で続ける。

「なぜこんなものをつくっちゃったんだろう。なんでこんな設計にしちゃったんだろうという気持ちでした。

東電任せ、国任せにしてしまった国民の側にも問題はある。なんでこの程度の安全性で大丈夫だと言ってしまったんだろう。なぜその安全神話を簡単に信じてしまったんだろう。この程度の安全で、これまでの日本経済が成り立ってきたのかと。そのうえ、まだ日本はそんなものに依存しようとしているのかと、呆れました」

■東電と住民の間の溝を、どう埋めるのか

和田さんはさらに、東電と住民の間に存在する溝を、視察でも認識したと話す。その一つが、担当者の上手すぎる説明だ。視察の間じゅう、事実の説明だけに終始した担当者に、和田さんは違和感を感じていたと話した。

「視察の担当者は、とても上手に説明されていました。現状や課題がよくまとまっていて、丁寧に説明してくれました。ですが、なぜか『どうせ仕事でやっているだけだ』と感じてしまったのです。説明の仕事というのは、事実だけを淡々と述べなければいけないのだと思うので、そうなってしまうのはわかります。わかるんですが…」

和田さんは、どう表現すればいいのかわからないというような表情を浮かべた。

説明を行う案内担当者。このほか4人の東電社員が視察に同行し、随時参加者から出る質問に答えていた。

和田さんと同様に、担当者の説明が上手すぎるために、どこか覚めた気持ちになったという意見は、他の参加者からも複数出た。自らもスタディツアーでガイドに立つことがあるという日塔さんは、説明することの“慣れ”の怖さについて話した。

「あまりに上手に喋られるので、つい、どのくらいの頻度で説明に立つのかと聞いてしまいました。今日案内してくださった方は、週に2回は自分が話す番が回ってくるのだと話されました。そりゃ、慣れますよね。上手になります。

どうしても慣れというのはあるんです。私の行くツアーでも、現地の語り手さんは最初は怒ったり、言葉に詰まったり、泣いてしまったり。ですが、回数を重ねると気持ちが整理されて、それもなくなります。情報も整理されて良いのでしょうが、感情はまた別のもの。今回のように、なかには怒りを感じる人もいると思います。難しいですね」

原発視察について講演する吉川彰浩さん(2015年2月28日撮影)

視察を企画した吉川さんは、東電と住民との間の放射性物質に対する考え方の差が、住民に何をどう伝えるのかということに現れるのではないかと分析する。

「原発で働いていた放射線従事者にとっては、今回の視察の積算線量である0.01ミリシーベルト(10マイクロシーベルト)という数値は、高いとは感じない数字です。放射線のことを勉強している人にとっては、怖い数値・怖くない放射線量というものが存在しており、この0.01ミリシーベルトという積算線量や、免震重要棟の中の毎時0.3マイクロシーベルトという数値は、怖くない数字に当たるのです。

しかし、これらの数字はたとえば福島第一原発から約20km離れたJヴィレッジのある広野町の役場のように、毎時0.145マイクロシーベルトと比べると大きい数字です。その数字の差のために怖いと感じる人も出てくるのだと思います。専門家の見方で問題がないというデータであっても、そう感じない人もいるということです。ですから、影響が少ないからと伝えないでいることが、そんなつもりはなくとも隠蔽ととられることもあると思います。東電側も誠意を持って対応されていたかもしれない。しかし、その誠意の内容が、国民の感覚とズレている場合もあるのです」

吉川さんはさらに、2号機建屋から海に流出した汚染水の問題が、視察で住民に説明されていたらどうだったかと振り返る。

「2号機建屋からの雨水の海への流出も、『港湾外でのモニタリングで海水の放射性物質濃度に目立った変動はない』となっていますが、一般の人からみると、放射性物質が流出したこと事態が問題なんです。風評被害にもつながるのですから。東電側は科学的な数字をもとにアナウンスしましたが、住民側は、出たかどうかを公表して欲しいのです。東電は、その感じ方の違いを理解していなかった。

もし理解していたら、流出の問題ももっと早くアナウンスすることができたのではないでしょうか。自分が大切に思っている友人の顔が浮かんでいたなら、『これはこういうことなんですが…』と、早い段階で説明できたのではないでしょうか。逆に、住民側としても自分がよく知っている人が頻繁に、身近な言葉で説明してくれたら、安心されるのではないでしょうか。

この感じ方の差への気付きは、お互いが交流していなければ生まれないものです。今回の視察参加者のアンケートでは、『現場は人が動かしているのだと、視察を通じて初めて実感できた』『現場で働く東電社員の方、作業員の方に感謝を覚えた』との回答を参加者全員から頂きました。たった1回の視察でも、状況を改善していくことができるのです。

今はまだ、東電と住民との間に溝がありますが、今後もっとお互いが交流して、何かあった時に相手の顔を浮かべられるような関係になれば、もっと信頼関係も生まれるのだと思います。そういう意味で、今回の視察ではお互いを理解する画期的な第1歩になったと思いますし、今後も私の団体(AFW)では、このような活動を続けていきたい」

今回の視察について小野所長は、東電だけでは見えてこない問題を、住民の目線でフィードバックしてもらえる貴重な機会だと話した。しかし、今回の視察はテスト的に実現できたものだったため、今後も同様の視察が行われるかは、まだ定かではない。1回の交流で終わるのではなく、信頼関係を築けるような交流を今後も続けられるかが課題だ。

現在の福島第一原発の状況について説明する小野明所長

日塔さんは視察を終えて、「また来たい」と話した。

「現場の方たちによって、どう変わったか知りたいって、思い続けると思います」

もし自分の子供が福島第一原発で働くと言い出したらどうするかと問うと、次のような答えが帰ってきた。

「視察前だったら、何も考えずに、すぐに泣いて止めていたと思います。ですが、もし子供がよく考えた上でその道が一番いいと言うのだったら、視察を終えた今であれば、冷静になって、共に考えることができると思います」

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