シリアの政情不安を招いた一因は、気候変動が引き起こしたかつてない規模の干ばつである。そう主張する新たな論文が、「米国科学アカデミー紀要」に3月2日付で掲載された。
シリアでは2006年後半に始まった干ばつがその後3年にわたって続き、史上最悪の干ばつを記録した。論文に携わった研究者たちは、シリアの水の安全保障と農業問題はすでに窮状に陥っていたが、干ばつが状況をさらに悪化させ、農村地区に住む150万人近くの住民を、都市に近い地域への移住へ追い込んだと見ている。
この住民の移動が人口構成の変化に拍車をかけ、その人口構成の変化が都市やその周辺地域を不安定にさせた。それに加えて、干ばつは食料価格の高騰と子どもの栄養関連の病気の増加を招いたため、混乱を大きくした。
この干ばつの原因としては、自然な天候変化も一因だと指摘されているが、研究者たちは、気候変動の影響を受けたことでシリアの干ばつが悪化したと結論付けている。地球の気候を長期的にシミュレーションする気候モデルやこれまでに観測してきた結果は「人間の活動による気候変動が、シリアの深刻な干ばつが発生した確率を高めたことを強く示唆している」と論文は述べる。研究者たちは、自然な天候変化に比べ、人間が引き起こした気候変動は深刻な干ばつが起きる確率を2倍から3倍高めている、と考えている。
研究の共著者であり、コロンビア大学のラモント・ドハティ地球観測所で地球と天候を研究するマーク・ケイン教授は「干ばつはシリア内戦の重要な要因です」とハフポストUS版に対して語った。
「ひどい干ばつが3年続きました。1年か、場合によっては2年くらいであれば、人々は生き延びることができますが、3年は無理でしょう」とケイン教授は言う。そして干ばつが多くのシリア人の暮らしを台無しにし、この地域をシリア内戦が起こる限界まで押しやったのだと指摘した。「かつては安定して機能的な農耕社会が存在していましたが、住民はみな農村を去り、都市の郊外に移り住みました。しかしそこでは、彼らにできることは何もなかったのです。しかも、政府は何の手も打ちませんでした」
論文の共著者で、ラモント・ドハティ地球観測所の気候科学者であるリチャード・シーガー氏は「干ばつが内戦を直接引き起こしたと言っているわけではありません」と述べている。「その他のさまざまな要因に干ばつが引き起こした問題が加わり、紛争の勃発を招いたのです」
それから4年経った現在、シリアではアメリカ政府の支援を受けた反政府派や、過激なイスラム組織ダーイシュ(イスラム国)などさまざまな武力勢力が崩壊した国家を支配下に治めようと戦闘を続けている。2014年12月の非政府組織「シリア人権監視団」の発表によれば、この内戦ではおよそ20万人が命を落としている。また、国連難民高等弁務官事務所は、シリア国内難民は760万人にのぼると推測している。
軍事や国家安全保障の専門家たちは、これまでも気候変動が世界各地の紛争要因となるだろうと警告してきた。しかし、そういった予測の大半は遠い未来を見すえたものであるのに対し、今回の最新研究は、少なくともシリアでは問題がすでに起こっていることを明らかにしている。
「シリアの干ばつは、気候変動が現在進行形で起こっている物事のリスクをさらに高めることを示す実例です」とケイン教授は言う。「我々が近い将来のことを考える際には、このケースを考慮に入れるべきです」
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
[日本語版:遠藤康子、合原弘子/ガリレオ]
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