テロリストの動画は流すべきか NHKとBBCの報道ガイドラインを比べると......

拡散したいテロリスト、コンテンツとして利用するメディア、見たがる利用者――。特に映像を多くの人々に発信するテレビは、どのようにテロリストの動画と接すればよいのか。NHKとBBCのガイドラインを読み比べた。
People walk past a big screen reporting that a Japanese hostage was killed by the Islamic State in Tokyo on February 1, 2015. Japan said it was 'outraged' after the Islamic State group released a video purportedly showing the beheading of Japanese hostage Kenji Goto. AFP PHOTO / Toru YAMANAKA (Photo credit should read TORU YAMANAKA/AFP/Getty Images)
People walk past a big screen reporting that a Japanese hostage was killed by the Islamic State in Tokyo on February 1, 2015. Japan said it was 'outraged' after the Islamic State group released a video purportedly showing the beheading of Japanese hostage Kenji Goto. AFP PHOTO / Toru YAMANAKA (Photo credit should read TORU YAMANAKA/AFP/Getty Images)
TORU YAMANAKA via Getty Images

日本人人質殺害事件から2週間。2月18日現在まで、過激派組織ダーイシュ(イスラム国)による各国の人質の虐殺が続く中、連日、テレビではダーイシュが制作し、インターネットに公開した動画が流れる状況が続いている。

ダーイシュは、拘束した人質を殺害する際、残酷な動画を記録し、それをソーシャルメディア上に拡散させ、恐怖を煽る。特に、ヨルダン人パイロット殺害の折に公開された動画は、長さ20分超。高度なCGを使用し、複数のカメラを使って人質の表情を捉えるなど、撮影、編集に凝った映画のような作りになっている。

テロリストの狙いは、「報道しなければならない」メディアの性質を利用し、自らのメッセージを拡散させること。一方で、メディア側もテロの映像をコンテンツとして利用し、それを利用者が目にする、という関係が出来上がっている。

Googleの検索候補を見ても、「イスラム国」との組み合わせで現れる用語には「動画」が含まれており、「見たがる」利用者が多いことも伺われる。

拡散したいテロリスト、コンテンツとして利用するメディア、見たがる利用者――。特に映像を多くの人々に発信するテレビは、どのようにテロリストの情報発信と接すればよいのか。

日本の公共放送NHKと、報道水準に定評のあるイギリス公共放送BBCの報道体制を、ガイドラインから比較してみよう。

NHKが2011年に定めたガイドラインには、戦争・テロの報道について6項目にまとめている。

戦争・テロ報道

・戦争報道にあたっては、一方に偏らない公平・公正な姿勢を保ち、視聴者に正確で客観的な情報を提供する。

・戦況をめぐる情報は、情報源によって大きく異なり、情報操作も頻繁に行われるため、情報の出所を明記して報道する。当局の監視や検閲の下で行われた取材は、その旨を明示する。また、その後の情報に基づき、報道内容を検証する。

・テロの報道にあたっては、為政者側の言い分を一方的に伝えるだけでなく、テロが生まれる背景や、テロを無くすために何が必要なのかなど、個別の事情をきめ細かく伝える。

・専門家にコメントを求める際は、人選が特定の立場に偏らないように配慮する。

戦場やテロ現場の映像については、慎重に判断して扱いを決める。遺体の映像は、人間の尊厳や遺族などの感情も尊重し極めて慎重に扱う。捕虜の映像は、人権に十分配慮し必要最小限にとどめる。

・従軍取材は、安全確保を大前提とし、取材の必要性や取材対象について慎重に検討したうえで判断する。

放送ガイドライン2011

では、BBCのガイドラインから該当部を見てみよう。

・生中継で加害者のインタビューはしない。

生中継で、あらゆる加害者による動画、音声を配信しない。

・加害者による素材を放送するときは、上級編集職または中立的な第三者、コミッションエディターに了承を得る。

・学校人質事件やハイジャックなど、繊細な扱いを必要とする事件を中継する場合は、わずかに遅らせる措置を取る。結果が予測不能な場合、特に重要である。これが守られなければ、生中継に適さない悲惨な素材を流してしまうリスクがある。

・ハイジャックや誘拐、人質、捕虜などが関わる事件については、報道そのものが事態を悪化させる可能性があるため、警察や事件に詳しい専門家の意見を聞く必要がある。情報の公開を控えるよう要請されたり、あるいは隠されることもある。それに対して、合理的な要求ならば通常は応じる。しかし、真実でないことを承知のうえで報じることは絶対にしない。

・報道規制に関する警察などからのあらゆる要求については、事前に上級編集職に照会し、エディトリアルポリシーに沿っているかどうか確認しなければならない。

BBC - Editorial Guidelines - Guidelines - Section 11: War, Terror and Emergencies - Hijacking, Kidnapping, Hostage Taking and Sieges

もっとも端的な違いは3点。

1) 明確にテロリスト側のインタビューや素材の放送を制限していること

2) NHKが「慎重に判断する」と、判断の主体が明らかになっていないのに対して、BBCは、責任者を明確にし、判断を仰ぐよう定めていることと

3) 場合ごとに細かく規定しているかどうかということ

NHKのガイドラインで戦争、テロ報道に関しては上記の6項目だけだが、BBCは引用した部分以外にも、持ち込まれた素材をどのように扱うかなど、戦争・テロ対策について細かく定めている。これは、2001年の9.11同時多発テロを受けて制作された。

すでにダーイシュは「すべての日本人を標的にする」としており、政府だけでなく、メディア側もテロリズムにどう接するべきのか。姿勢が問われている。

    ----ハフポスト日本版編集部では、「イスラム国」、ISIS、ISIL、ダーイシュなどと呼ばれている過激派組織について、
  1. 編集部が作成する記事には、当面「ダーイシュ」の表記を用います。
  2. ただし現在、「イスラム国」という用語の認知度が高いことから、当面「イスラム国」を併記します。
  3. 他社から配信された記事とブログ記事については、原文のままの表記とします。
  4. ソーシャルメディアへの投稿についても1〜3に準じます。
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