「イスラム国」真の狙いは? 動画は合成・加工された疑いも【湯川遥菜さんら人質事件】

過激派組織「イスラム国」を称するグループが1月20日、日本人2人を人質に取り、身代金2億ドル(約240億円)を72時間以内に支払わなければ殺害すると警告する動画を公開した。その狙いとは?

過激派組織「イスラム国」を称するグループが1月20日、日本人2人を人質に取り、身代金2億ドル(約240億円)を72時間以内に支払わなければ殺害すると警告する動画を公開した

イスラム国が殺害を警告する様子を写した動画より。左が後藤健二さん、右が湯川遥菜さん

中東を訪問中の安倍晋三首相は17日、イスラム国対策としてイラクやレバノンなどに2億ドル(約240億円)の支援を行うとエジプトの首都カイロで発表していた。今回の動画での要求は、これと同額になる。

安倍首相は20日夜、イスラエルで会見を開き「人命を盾に取って脅迫することは許しがたいテロ行為であり、強い憤りを覚える。2人の日本人に危害を加えないよう、ただちに解放するよう強く要求する。国際社会は断固としてテロに屈せずに協力して取り組んでいく必要がある」などと語った。

また安倍首相は日本時間の20日夜から21日未明にかけて、ヨルダンのアブドラ国王、トルコのエルドアン大統領、エジプトのシシ大統領と相次いで電話で会談し、事態の解決に向けた協力を要請。その後、当初の予定を早めて帰国の途に着いた。

政府は20日午後、総理大臣官邸に官邸対策室、外務省に緊急対策本部を設置。ヨルダンの首都・アンマンにある日本大使館には現地対策本部を設置し、中山泰秀・外務副大臣を派遣して指揮にあたらせている

■動画、合成・加工した疑いも

動画を分析した日本政府関係者は20日夜、動画が合成、加工された疑いがあることを明らかにした。47NEWSなどが報じた。

映像には、オレンジ色の服に身を包んだ人質として、8月下旬にイスラム国に拘束された湯川遥菜さんと、国際ジャーナリストの後藤健二さんと見られる人物が映し出されているが、関係者によると、2人の影の映り方が不自然だという。

後藤さんとされる男性は、左半身側に影が映っているのに対し、湯川さんとされる男性は、右半身側に影があるように見えるという。

■「イスラム国」、事実上犯行を認める 

「イスラム国」の広報担当の男は21日未明、NHKの取材に答え、事実上犯行を認めたという。インターネット上のメッセージのやり取りを通じて、「経済的な戦いではなく精神的な戦いなのだ」と述べた。

広報担当の男は事実上犯行を認め、「金が必要なのではない。『イスラム国』は、この金額より高い金を1日で使っている。経済的な戦いではなく精神的な戦いなのだ」と述べて、資金の獲得だけが目的ではないと主張しました。

そのうえで「あなたたちの政府は金を払う」と繰り返し述べ、日本政府が2人の解放と引き換えに身代金を払うという見方を示しました。

「イスラム国」事実上犯行を認める NHKニュースより 2014/01/21 05:12)

男は72時間の期限があることを認めたが、「映像を出したときから72時間」と主張するにとどまり、具体的な期限は明らかにしなかった。

■「イスラム国」真の狙いは?

「イスラム国」は、指導者アブバクル・バグダディ容疑者が2014年6月、預言者ムハンマドの後継者であるカリフを名乗り、イスラム国家の樹立を宣言した。中東のシリア・イラク地域で勢力を広げており、統治は極端なイスラム法の解釈に基づき、住民に恐怖を与えて支配。電気や水道などインフラも管理し、行政機能も担っている。

政府関係者は21日未明、2014年11月に「イスラム国」側から、後藤さんの家族に約10億円の身代金を要求するメールが届いていたことを明らかにした。「イスラム国」の要求について、毎日新聞は以下のように報じている。

水面下の交渉で身代金を得るメドが立たなかったため、映像の公開に踏み切ったとの見方もある。湯川遥菜さんが拘束されたのは昨年8月。後藤健二さんも昨年11月ごろから、シリア反体制派内部で「イスラム国に捕まった」との未確認情報が出回っていた。イスラム国が人質の利用方法を検討し、日本との接触を図ったが、進展しなかった可能性もある。

国際社会のイスラム国包囲網を萎縮させる狙いも透けて見える。イスラム国が同様の手法で殺害を予告し、処刑した人質は、有志国連合を主導する米国や英国の出身者だった。非軍事分野で支援する日本を狙うことで、昨年夏から始まった対イスラム国空爆作戦に参加していない国も標的になることを誇示した格好だ。

クローズアップ2015:イスラム国、日本人殺害脅迫 「2億ドル支援」敵視 声明は支離滅裂 - 毎日新聞より 2014/01/21)

また、『イスラーム国の衝撃』などの著書を手がける東京大学先端研の池内恵准教授は、ブログ上で「テロリスト側が中東諸国への経済支援まで正当なテロの対象であると主張しているのが今回の殺害予告の特徴」とコメントした。以下にブログの一部を引用する。

*今回の殺害予告・身代金要求では、日本の中東諸国への経済援助をもって十字軍の一部でありジハードの対象であると明確に主張し、行動に移している。これは従来からも潜在的にはそのようにみなされていたと考えられるが、今回のように日本の対中東経済支援のみを特定して問題視した事例は少なかった。

*2億ドルという巨額の身代金が実際に支払われると犯人側が考えているとは思えない。日本が中東諸国に経済支援した額をもって象徴的に掲げているだけだろう。

(中略)

*テロに怯えて「政策を変更した」「政策を変更したと思われる行動を行った」「政策を変更しようと主張する勢力が社会の中に多くいたと認識された」事実があれば、次のテロを誘発する。日本は軍事的な報復を行わないことが明白な国であるため、テロリストにとっては、テロを行うことへの閾値は低いが、テロを行なって得られる軍事的効果がないためメリットも薄い国だった。つまりテロリストにとって日本は標的としてロー・リスクではあるがロー・リターンの国だった。

しかしテロリスト側が中東諸国への経済支援まで正当なテロの対象であると主張しているのが今回の殺害予告の特徴であり、重大な要素である。それが日本国民に広く受け入れられるか、日本の政策になんらかの影響を与えたとみなされた場合は、今後テロの危険性は極めて高くなる。日本をテロの対象とすることがロー・リスクであるとともに、経済的に、あるいは外交姿勢を変えさせて欧米側陣営に象徴的な足並みの乱れを生じさせる、ハイ・リターンの国であることが明白になるからだ。

「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ - 中東・イスラーム学の風姿花伝より 2014/01/20 20:55)

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