2015年1月に入り、インドで日本人女性(22)が1か月近くにわたって監禁され、集団性的暴行を受けた事件が明るみになった。容疑者の男6人は、被害女性から約14万円相当の現金を奪った上で、数週間にわたり監禁し、暴行を加えていたとされる。
インドでは、首都ニューデリーで2012年12月にバスに乗った女子学生が集団レイプの末、殺害される事件が発生。これをきっかけに、同国での女性に対する暴力の問題が世界的に注目を集めている。女性への性的暴力に対する国民的な抗議行動が起き、当局にも有効な防止策を求める声が内外で高まっているが、レイプ事件は後を絶たない。
やまぬ女性への暴力。いったい背景には何があるのか。ハフポスト・インド版副編集長のリツパルナ・チャタジー氏に聞いた。
――インドでレイプ事件が頻繁に起こり続けるのは、なぜでしょうか?
インドでは、レイプは犯罪であると同時に大きな社会的問題でもあります。それは、未だに伝統的な家父長制度によって支配されている国での恥と汚名に包まれた問題であります。つまり、性的暴行を受けた女性は過激な反発と社会的村八分を恐れて、警察に報告することを依然としてちゅうちょしています。
インドのレイプ事件が突然激増したようにみえるかもしれませんが、それは必ずしも実際のレイプ事件の件数が大幅に増えたことを意味するものではありません――それは、より多くの事件が報告され、強調されるようになったからなのです。
何百万もの女性たちにとってダイレクトソース(直接の情報源)になる24時間365日メディアの登場やインターネットへのより良いアクセスで、個人の安全、ヘルプライン、啓発キャンペーンへの意識が高まり、より多くの女性が今やレイプを報告することについての権利が与えられたと感じるようになったからです。
2012年にニューデリーのバス内で若い女性が残忍な手段で集団レイプされて殺害された後、未成年者に対するレイプや殺害も含めて、メディアは性的暴力事件を強調し始めました。ソーシャルプラットフォームがこれらの物語を強調することに大きな役割を果たしてきたことで(政府に対する)圧力を加えることになり、当局が行動をとらざるを得なくなってきたのです(政府省庁がそうであるように、多くの警察官や派出所はアクティブなツイッターハンドルを有しています)。
――犯罪が多く発生している地域は、インドのどの地方ですか? 大都市か農村地域か、など地域的特徴はありますか?
インド国家犯罪記録局(NCRB)の2013年(政府により利用可能なデータの最新年)のデータによると、女性に対する犯罪率が最も高かったのはデリーだと報告されました。特に過去5年間で発生した犯罪総数と比較して、女性に対する犯罪率は2009年の9.2%から2013年には11.2%へと上昇しています。
レイプ事件数が最多だったのはインド中央部にあるマディヤ・プラデーシュ州であり、若い女性の人身売買が最多だったのは東部の西ベンガル州であると報告されました。誘拐や拉致事件、そして、持参金不払い殺人数が最多だったのは、インドで最も人口が多い「北の州」であるウッタル・プラデーシュ州であると報告されました。
マディヤ・プラデーシュ州
ウッタル・プラデーシュ州
女性に対する犯罪の70%は53大都市から報告されたもので、デリーがそのうちの21.4%を占め、最多だったことをNCRBの2013年のデータは示しています。金融センターであるムンバイ(5.5%)とインドのシリコンバレーと考えられているバンガロール(4.9%)が、それに続いています。
農村の数字は、一般的に過小報告されています。住民登録が不十分な移民人口が多い都市 ― 例えば、ニューデリー ― は、女性に対する犯罪がさらに発生しやすくなる傾向があるからです。
――インド政府は、強姦犯に対する懲役刑を20年に倍増しましたが、レイプ事件は今も起きています。さらなる厳罰は、実際には有効なのでしょうか?
ニューデリーでの集団レイプ事件後、インドは植民地法を精査し、性犯罪に関する法律の見直し作業を委託された元最高裁裁判長J.S.バーマ率いる特別委員会の勧告をすべて採用して、レイプの定義を変更、拡大することを余儀なくされました。さらに量刑を厳しくすれば一定期間、街から犯罪者を遠ざけておく効果は現れるでしょう。しかし、それは、安全性の全面見直しにはほとんど影響を与えないでしょう。また、感受性の促進、教育や啓発プログラムを通じて社会構造を変化させていくことにもほとんど影響を与えないでしょう。
検察の訴追の遅れや、被害者が脅迫や威嚇に無防備にさらされたままでの長引く裁判、警察の無関心、さらには屈辱と時代遅れの医療処置を通じた生存者へのさらなる迫害……こうしたことが犯罪者をつけあがらせ、犯罪を繰り返させているだけなのです。
2012年12月の事件後、強姦犯に対する死刑を求める声が高まっています。それは、逆に、厳罰化によって、犯罪者が身元確認を逃れるために被害者を殺害することにつながると主張する人々によって反論され、1つの論争となっています。
しかし、ストーカー行為やのぞき見の有罪化や、人に酸をかける攻撃を最高で10年の禁固刑や終身刑までの「凶悪犯罪」とするような厳しい手段は歓迎されるステップなのです。
――インド政府は、レイプ犯罪防止のための啓発活動を強化していますか?犯罪犠牲者の支援も行っていますか?
農村部では家庭内にトイレを設置することが不足しているので、女性が妙な時間帯に野原に出て行かざるを得ず、性犯罪を受けやすくしているのです。ヒンドゥー愛国主義のインド人民党に所属するナレンドラ・モディ首相は、「寺院の前にトイレ」を自身の選挙スローガンとして使用して、2019年までに20万室のトイレを作ることを約束しました。
デリー警察と内務省は最近、夜間一人で動いている女性が警察の通信指令室に救助信号を送信するスマートフォンへアクセスできるモバイルアプリ「Himmat(勇気)」を立ち上げました。ニューデリーでの集団レイプ事件後、迅速な裁判を進める裁判所が、このような事件をスピーディーに処理するために設立されました。
2013年度予算で、チダンバラム前財務大臣は、100億ルピー(190億円)のニルバヤー(Nirbhaya)特別基金を発表しました。(これは、集団レイプ事件の被害者にちなんで命名されました。レイプ被害者の名前を明かすことはインドの法律では許可されていないため、主要メディアは被害者のことをニルバヤーと呼びました。)この基金は、公共車両にCCTVsとGPSを設置することを含め、女性の安全を守るためのプロジェクトを支援するものです。
2014年初め、インドはレイプ生存者を医学的に検査するための侵襲的な「2本指テスト」や処女テストを禁止しました。映画館やラジオスポットで映画に先行して流される啓発ビデオは、女性に対する暴力犯罪に取り組むために政府により採用された多くの措置の中の1つとなっています。
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