安倍首相は11月18日、消費税率を8%から10%へ引き上げる時期を2015年10月とせず、18カ月間延期すると発表。政策変更を信に問うため、衆議院を解散すると表明した。
しかし、解散総選挙の実施については、批判的な声もあがっている。
■孫崎氏「開き直り解散だ」
元外務省国際情報局長で東アジア共同体研究所の孫崎享(まごさきうける)所長は、ハフポスト日本版の取材に対し、今回の選挙は「開き直り選挙だ」と述べた。
孫崎氏は17日に発表されたGDP速報値について、BBCやブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナルなどが「リセッション(景気後退)」と一斉に報じていることをあげ「こんな時に選挙はありえない」と指摘する。孫崎氏は、それでも安倍氏が選挙をするのには理由があるとして、次の2点をあげた。
「1点目は“ごまかし”。これからますます日本はひどい状況になることを見越して、悪くなる前に選挙をしておこうとするもの。2点目は野党の状況が悪いというもの。選挙をすれば勝てると踏んだ」。
孫崎氏は、国民は安倍政権の政策には反対だと思っても、他に選ぶ政党がない状況だとして、安倍首相が解散総選挙を実施すると分析する。
「16日に投開票された沖縄知事選をみても、民主党と公明党は棄権した(自主投票となった)。国民は原発や憲法に対して、自分の考えは持っている。しかし、どこに入れればいいのか。国民の声が反映されない、危機的状況だ。それを見透かしての解散。『開き直り解散』だ」。
■森田実氏「国民に理解されていない」
政治評論家の森田実氏は、「長期安定政権を望む安倍首相は、国民に信を問い、選挙で勝ってアベノミクスを推進したい考えだろう」としながらも、選挙は「国民に理解されていない」と指摘する。
安倍首相が消費税政策の変更を解散の理由にあげても、国民は消費増税やアベノミクスだけでなく、憲法改正や集団的自衛権、教育政策など、安倍政権のこれまでの政策について幅広く判断するだろうと森田氏は分析。今回の選挙についても「国民は、厳しい見方をする」と述べた。
しかし、今の自民党に変わる政党は「残念ながら無い」としており、結果、自民が勝つことが予測されるとして、今回の解散を「長期安定政権解散」だと表現した。
だだし、安倍氏が進める憲法改正などの「革命」に反対する国民の声は強まっていると森田氏は見ている。2015年は憲法改正を巡って、革命を起こしたい安倍首相に対する反発が強まるとの見通しを示した。
■宮澤保夫氏「消費税が問題ではないことを、子供たちも知っている」
教育界からは、選挙が子供たちにマイナスのイメージを与えることになるとの指摘も出ている。
全国規模で教育事業を展開する星槎グループ会長の宮澤保夫氏は、「消費税ではなく、根本の問題を解決しなければならない」と指摘する。政治家が「消費税を上げなければ、この国は今後…」とこれまで説明をしてきたことを子供たちも知っており、増税延期と選挙が行われることで、また問題が先送りされたことを印象付けることになるためだという。
家で親が「家庭にばかりツケが回される。政治家は議席を減らすといったのに、どうなったのか」と話していれば、子供は学校で先生にそれを聞き、考えるようになると宮澤氏は話す。親は忙しそうだが、税金は上がるし給料は増えていない。一方で、株価が上がったと報じられても、それが生活にどう影響するのかは見えてこない。
「選挙などでアベノミクスなどの聞こえのいい言葉が並べられても、具体的な政策は語られない。対策がないのに、景気なんか良くならないと、子供はかえって不信感を持つ。自分たちが背負うことになる将来の日本の問題が議論されず、先送りされたと感じる」と宮澤氏は批判した。
■福島からは「復興を真剣に考えているのか」の声も
原発被災者で、福島第一原発の作業員を支える活動を続けているアプリシエイトフクシマワーカーズ代表の吉川彰浩氏は、「選挙のせいで復興がまた遅れる」とため息をつく。
「福島県知事選があったばかりなのに。地元自治体の仕事は増えることになるし、住民にとっても投票方法など負担が大きい。復興が政策の一番地だと言っていたが本当なのか。復興を真剣に考えているのか」。
■小笠原氏「安倍氏のシナリオが狂ったのだろう」
明治大学国際日本学部の小笠原泰教授は「選挙は全くの無駄」と不審がる。小笠原氏は、安倍首相が消費税政策の変更を建前として長期政権を確立するために選挙を実施し、憲法改正などの議論を進めたいのだろうとしながらも「今でも議席はあるのだから、通そうと思えば法案は通せる」と指摘。そのため、「シナリオが狂ったことが解散の理由ではないか」とする考えを示した。
「GDPがマイナスに振れたことで、安倍氏のシナリオが狂ったのかもしれない。成長率は悪いかもしれないがマイナス成長までは、安倍氏は考えていなかっただろう。しかし、金融緩和して円安政策を進めても実体経済は良くならなかった。(政権を)投げたとも受け取れる」
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