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「年賀状は人間関係のメンテナンスツール」ベンチャーキャピタリスト・菅原康之氏が語る"年賀状を送る楽しさ"とは

人脈の構築や維持にはメールやSNSを活用する一方で、年賀状という従来のコミュニケーションツールも欠かせないそうです。そんな菅原氏の年賀状活用術は、書くことを楽しむ「年賀状のイベント化」だそう。そのノウハウを訊きました。
ノニータ

ベンチャーキャピタリストとして、ネット広告代理店の株式会社オプトでベンチャー企業への投資を行っている菅原康之氏は、会社に所属していても起業家のように働くワークスタイルを実践しています。人脈の構築や維持にはメールやSNSを活用する一方で、年賀状という従来のコミュニケーションツールも欠かせないそうです。そんな菅原氏の年賀状活用術は、書くことを楽しむ「年賀状のイベント化」だそう。そのノウハウを訊きました。

――菅原さんはIT企業にお勤めですが、年始のあいさつはメールやSNSだけではなく、年賀状を大切にされているそうですね。なぜでしょうか。

「IT企業に勤めている人間が……」というのはおっしゃるとおりで、私はコミュニケーションをできるだけ一つのITツールに集約させようと試みています。昔はメールでしたが、今はFacebookですね。ただTPOを考えた場合、必ずしもITツールが正解とは限らない場面があると思います。コミュニケーションの大前提として「自分の都合を押し付けることは良くない」と思っています。ツールも相手が望むものでコミュニケーションをとった方が伝わりやすいんです。なので、TPOを考えた場合、ITツールだけではなく、年賀状や手紙といった紙のツールも活用してます。

――年賀状の考え方・使い方は、昔も今も変わりありませんでしょうか。

昔は「年末になったら送らなければいけないもの」として、半ば義務的に送っていたので、年賀状を作るのもやっつけ仕事でした。送る人も深くは考えずにセレクトして、「あけましておめでとう、今年もよろしく!」と書き殴って終わり、というような作り方をずっとしていました。いかにして義務的な作業を早く終わらせるかばかり考えていましたね。

考えが変わったのは、ベンチャー系の企業に転職した頃です。受け取る相手の立場になってみると「不快だろうな」と思ったんです。「この人は私のことを大事に思っていないんだな。所詮はやっつけ仕事として付き合っている人なんだな」と思われるのではないかと。たまたま、私の中で受け止め方の感受性が高まっていたのだと思うのですが、年賀状を受け取ると、やっつけで書いている姿がリアルに想像できるようになってしまって、自分も同じように思われているのでは、と。

そこで、年に一度の貴重なコミュニケーションの場を有意義にしようと考えた結果、「年賀状プロジェクト」なるものを毎年立ち上げ、年賀状を送ることを一つのイベントに見立てるようになりましたね。

――年賀状を送ること自体をイベント化するという発想は面白いですね。具体的にどのようなことをされているのですか。

それまでの反省として、年末になって慌てて書き始めるのが当たり前でしたが、それだと「宣材」になる素材も用意できていないし、誰にどうやって送ろうかと考える暇もないので、送り終わると「あの人に送るべきだった」「ありきたりなものを送ってしまった」などと反省点ばかり浮かび上がってきてたんです。だからプロジェクトは半年前からスタートしようと決めました(笑)。

半年前からスタートといっても、厳密にスケジュールを引くわけではなく、妻と一緒にその年の年賀状を考えながら、会話したり外出して写真を撮ったりして楽しむんです。ある意味この「年賀状プロジェクト」は、家庭内のコミュニケーションツールも兼ねたイベントになってるんですよ。

そのようにして作る年賀状は、毎年フォーマットをシンプルなものから遊びの要素を入れたものなど3種類ほど作って、送る人との関係性に合わせて出し分けてます。送る人に合わせたOne to Oneマーケティングみたいなものですね。

また、受け取り手の印象に残る年賀状にすることを心掛けて作ってます。例えば、Facebookに似せた年賀状を作った時には、自分が立ち上げた新規事業が成長していく過程や結婚したときのことなど、1年間の自分の取り組みが分かりやすく伝わって楽しんでもらえるように工夫しました。

「Facebook風」年賀状

受け取り手のことをちゃんと考えながら工夫して作り一言添えているので、年賀状を送る人も毎年50人くらいに絞られます。

「午年乗馬」年賀状

「ブライダル雑誌風」年賀状

――年賀状を送りたい、と思う人を絞り込むポイントは何ですか。

一言で言えば、「一生お付き合いしたいかどうか」という点になります。結婚式に招待する人を絞り込むのと一緒の感覚でリスト化しています。

もう一つのポイントは、「大切な人だけど、1年間に一度もしくは数年に一度くらいしか会えない」という点です。そのような人に対して、1年に1回年賀メールを送るだけでは関係は年々遠ざかってしまうと思いますが、手間と時間をかけて心を込めた年賀状は「あなたは私にとって大切な人」だという気持ちが伝わると思います。それは自分が年賀状を受け取る時に思うことでもあります。年賀状はやりとりをすることで関係値を急激に元に戻すことができるコミュニケーションツールだと考えています。

仮に数年に一度しか会わなくても、年賀状のやりとりを絶やさなければ、関係値が薄れることを食い止められます。そんな年賀状は「人間関係のメンテナンス」にぴったりのツールだと思うんです。

普段から会えていれば、関係値のメンテナンスはしやすいですよね。しかし、なかなか会えないと関係値はだんだんと薄れていってしまいます。そんな時は、メールを送るよりも年賀状を送った方が効果的な場合が多いですね。

――年賀状をイベント化し続けている秘訣はなんでしょうか。

仕事や趣味に通じるところがありますが、自分で納得ができるものを作り上げることは楽しいことだと思うんです。同じことをやっていても、義務感でやっていると疲れてしまいますが、好きでやっていることであれば、疲れもしないし飽きることもありません。作り上げるプロセス自体を楽しんでいるんですよね。

――実際に「年賀状プロジェクト」で作った年賀状で、どんな反響がありましたか。

うれしかったのは、「この年賀状はどこで買ったの?クオリティが高いから私も使いたい」と言われたことですね。受け取り手の印象に残る年賀状ができたという、うれしいフィードバックでした。また、先程述べたFacebook風の年賀状を送った時には、年賀状を受け取った人からFacebook上で友だち申請が来て、WEBのつながりにも発展したこともありました。

――ビジネスでお付き合いのある人への年賀状で工夫することはありますか。

私はできるだけ職場に年賀状を送らずに、個人のお宅に送るようにしています。

「会社」と一生付き合いたいわけではなく、あくまでその「人」と付き合っていきたいという文脈で考えると、送るべきは会社の住所ではなく、個人のお宅になる、というロジックです。

会社の住所に送られてくる私宛の年賀状の中にも「結婚しました」「子供が生まれました」といったプライベートな内容が来ることがありますが、オンのときにオフのものが送られてくると頭が混乱しませんか。自分のことをしっかり伝えたいツールだからこそ、しっかり見てもらえるであろうお宅に送るようにしてるんです。

――個人のお宅に年賀状を送る時に、一番のハードルになるのは、「住所を聞く」ことだと思うのですが、このとき心掛けていることはありますか。

私は住所を聞くことも関係強化の一環だと思っています。年賀状を送りたいと思う人とは、何かしら関係値はある人だと思いますので、何気ないメールやFacebookなどのオンライン上のやりとりの最後に「ちなみに……」と付け加えれば、結構教えてくれるのではないかと(笑)。

関係値ができていれば住所を尋ねられることはむしろうれしいことだと思いますので、まずは住所が聞ける間柄になれるよう普段のコミュニケーションをしっかりと行うことですかね。

年賀状の作品データはクラウドに保管し、いつでも見られるようにしているとか

――年賀状でのつながりは、ビジネス視点ではどのように役立ってますか。

私の仕事である新規事業やベンチャー投資は、社内のアセットよりも社外のアセットを活用しないとうまくいきません。なので「ビジネスが始まっても、そして終わってもあなたとの関係は続きますよ」というメッセージを伝えるために年賀状を送るケースが多いですね。年賀状をフックにして何かビジネスが生まれる、というよりは関係値の維持・強化のために使ってます。

――菅原さんはコミュニケーションツールとしての年賀状を、どのように位置づけられますか。

年賀状は突然送られてきても好意的に受け止められる特別なコミュニケーションツールだと思います。このような習慣は他にはあまり見られないと思うんです。だからこそ、この習慣を有意義に活用すべきだと思ってますし、楽しみたいとも思ってます。年賀状は関係値をつなぐメンテナンスツールでもあり、大切な人とのつながりを確認するコミュニケーションツールでもあると思います。

菅原康之(すがわら・やすし)

1979年北海道生まれ。2009年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。IT系企業にて新規事業担当(イントレプレナー)を歴任。現在、ネット広告代理店のオプトにてベンチャーキャピタリストとして従事する傍ら、新規事業担当者の勉強会「イントレプレナーの会」を主催。会社に所属しながら起業家のように働く新しい働き方を実践中。

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