映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でダニエル・デイ=ルイスがアカデミー賞を獲得した役柄は、石油で儲けられるなら何でもやるような石油王だった。しかし、そんな石油王でさえ尻ごみしそうな求人が出ている。
その油田はかつて莫大な利益を生んでいたが、戦乱に見舞われ、イスラム国と取引しようとするしっかりした顧客がいなくなったことで、現在は苦境に陥っている。そしてどうやら、熟練社員に「家族を殺すぞ」と脅しをかけて会社への忠誠を引き続き誓わせる、という従来のやり方は、さほど功を奏していないようだ。
イラク国営北部石油会社(ノース・オイル・カンパニー)は、イスラム国に1カ所、クルド人に1カ所、油田を占拠されている。同社の職員はタイムズ紙にこう述べている。「戦闘が行なわれるたびに職員が離職していく。イスラム国は当初、家族を殺すと脅して力づくで働かせていたが、今度はお金で人を釣っている」
タイムズ紙がイラクの石油業界関係者に接触して話を聞いたところ、最大で1日150万ポンド(約2億7000万円)の収益をあげる油田の管理者というポストの年俸は14万ポンド(22万5000ドル、2500万円)だという。ただし、その年俸額はここ数カ月で激減している。
「(イスラム国は、)思想的に条件を満たしている専門技術者を採用しようとしている」。タイムズ紙の取材に対し、ドバイのコンサルタント会社マナー・エネルギーのロビン・ミルズ氏はそう答えている。「(年棒14万ポンドという)報酬はそれなりにいいが、それほど高くもない。現在イラクに駐在している欧米の石油企業幹部であれば、それよりはるかに多い報酬が期待できるだろう――もちろん、もともと彼らはイスラム国のために働くつもりはないわけだが」
石油はイスラム国にとって最大の資金源だが、イスラム国から積極的に石油を買おうとする国、少なくともそう公言する国はない。
アメリカ財務省によれば、イスラム国は、価格を大幅に下げて石油を売却しているという。売却先はトルコ人などを含むさまざまな仲介人で、彼らはその後、輸送して転売を行う。
「正確な収益見込みを立てるのは難しいが、6月中旬以降、イスラム国が石油売却で手にした収入は1日あたり約100万ドル(およそ1億800万円)と見ている」。アメリカ財務省でテロ・金融犯罪への取り組みを指揮するデービッド・コーエン次官は10月24日の会見でそう語った。
「イスラム国が支配する地域で産出する石油の一部には、イラクのクルド人に売却され、その後トルコに転売されるものもあるようだ」と、コーエン次官は述べる。同次官は、(イスラム国および、米国が支援する穏健派の反体制派との二面戦争を戦う)シリア政府さえも、イスラム国からの石油購入を手配したと見られる点にも言及した。
コーエン次官は、イスラム国は、公式経済の枠組みから外れた不法なネットワークを通じて石油を輸送しているため、追跡するのは難しいと述べた。しかし、イスラム国の石油精製所をアメリカが主導して空爆を行ったことにより、イスラム国の供給網が脅かされていること、さらに、トルコ政府や、クルド人が大半を占めるイラク北部を治めるクルド自治政府は、イスラム国が売却した石油が国境を超えないよう努めている点も指摘した。
「(イスラム国が売却する)石油は、最終的には、合法的経済内で取引を行ない、合法的な金融システムを利用する人間が入手することになる。その人間は銀行口座を持っているだろうし、ビジネスは銀行から資金提供を受け、輸送車両には保険がかけられ、施設は認可を得ているだろう」
「我々は、そういった人間をアメリカの金融システムから締め出し、資産を凍結できる。それだけではなく、入金や取引の処理を行なう銀行を探すのが非常に困難になるように持っていくことができる」
この記事は最初にハフポストUK版に掲載されたものです。
[日本語版:遠藤康子、合原弘子/ガリレオ]
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