アメリカの中間選挙が11月4日、投開票される。焦点は、下院で多数を占める野党・共和党が上院でも過半数を制するかどうかだが、ハフポストUS版が3日(現地時間)、77%の確率で共和党が過半数を獲得すると予測しているほか、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなども共和党が過半数を獲得する可能性が高いと報じている。
「CHANGE!(変革)」を掲げて当選し、2009年に大統領に就任してから6年。アメリカを率いるオバマ大統領は、正念場を迎えている。
■アメリカ中間選挙とは
アメリカ中間選挙とは、4年ごとに行われる大統領選挙の中間の年に一斉に実施される、連邦議会の議員選挙と各州の知事選挙の総称だ。下院議員(任期2年)の全員と、上院議員(任期6年)の3分の1が改選されるほか、任期が満了した州知事の選挙も同時に行われる。
今回は下院のすべての議席(435議席)と、上院100議席の3分の1にあたる36議席、それに全50州のうち36の州知事が選挙の対象となる。
現在、上院の多数派は民主党(55議席)だが、下院の多数派は共和党(233議席)が占める「ねじれ」状態となっている。そのため中間選挙では、下院は引き続き共和党が多数派を占めることが確実視されているため、上院での多数政党が民主党となるのか、それとも共和党となるのかに注目が集まる。上院の非改選議員は民主党が34議席(無所属2議席含む)なのに対し、共和党は30議席。改選36議席(補選含む)のうち、21議席を共和党が取れば、上院でも共和党が多数政党となる。
■大統領と議会の関係は?
アメリカでは野党が議会で多数政党となっても、大統領がすぐに辞めることはない。大統領は議員の中から選ばれるわけではなく、国民が直接選ぶためだ。大統領には議会を解散する権利がない代わりに、議会による大統領の不信任決議もない。
しかし、大統領が政策を実行するためには法律が必要となるため、法律をつくる議会といかに良好な関係を保てるかが、大統領による政権運営のカギとなる。日本では内閣が法案を提出できるが、アメリカで法案を提出することができるのは議員に限られている。そのため、いくら大統領が魅力的な政策を打ち出しても、大統領には法案提出権がないため自身で法律をつくることができないのだ。
さらに、法案可決のためには上下両方での可決が必要となる。ところが、個人の保険加入義務化などを盛り込んだ「オバマケア」が成立した直後の2010年の中間選挙以降、ねじれ状態となっており、予算案や法案が下院で通らず「決められない政治」が続いている。
オバマケア開始の「引き伸ばし」をめぐって2013年にデフォルト騒動が起こったり、アメリカに不法に滞在している移民に市民権を与える移民制度改革法案(夢の法律)が下院で否決されたり、ミシェル・オバマ氏の問題提起によって進められていた給食改革が、これに対するいわゆる「ピザは野菜だ法案」の下院での可決によって反対されたりしたことなどは、その象徴ともいえよう。
デフォルト騒動をめぐってオバマ政権と対峙した共和党のジョン・ベイナー下院議長
■民主党内からもそっぽを向かれるオバマ 「私はオバマじゃない」とPRする候補者も
「YES, WE CAN!(私たちはできるのだ)」と叫んでオバマを歓迎した人々も、期待したほどの仕事ができない大統領には厳しい。オバマ政権の支持率は低空飛行を続け、10月30日には42.4%と過去最低を記録した。
支持率をあげられないオバマは、民主党内でも不人気だ。改選を控えた民主党議員らが造反したことで、多数派だった上院でも銃規制法案が否決されたのは、それを象徴しているだろう。
今回の選挙戦でも、南部ケンタッキー州で立候補している民主党のアリソン・グライムズ州務長官(35)が「私はオバマじゃない」とアピールするテレビCMを作成した。クレー射撃を行う自身の姿を動画に盛り込んだうえ、オバマが進める政策に対して「銃規制にも、石炭(環境規制)にも、経済連携協定(自由貿易)にも私は反対」と述べ、大統領と距離を置いていること有権者に示す選挙活動を展開した。
■共和党が過半数を獲得したらどうなるのか?
もし上院で共和党が過半数を獲得したら、今後どのようなことが起こり得るのか。
共和党は多数政党を活かして自らの考える政策の法案を次々に可決することは、もちろん可能だ。しかし、これに対して大統領は拒否権を行使してその成立を阻むことができるため、全てが思い通りというわけにはいかない。
2016年の大統領選を見据えた実績作りを行いたいという思惑もあり、共和党も個々の政策で大統領側に歩み寄る可能性を指摘する声もある。そのなかで注目される一つが、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などの通商政策だ。
ロイターは共和党勝利なら、TPP交渉に進展がみられる可能性を指摘している。イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙は、共和党が勝利したら、アメリカが他国と結ぶ通商協定に関して大統領が議会に修正を許さず、批准に賛成か反対かだけを問える大統領貿易促進権限(TPA)をオバマに与えるだろうとの見方を報じている。
寿司屋でもTPPに関して話したという安倍首相とオバマ大統領
また、オバマは大統領令という行政命令を使って、議会の承認なしでも政策を進める考えも示している。大統領令は行政機関に対する指示であるため、一般的なことを扱うのは難しく自身の権限内でできる範囲という制限もあるが、全労働者ではなく政府機関の契約職員に限って最低賃金を引き上げるなど、少しでも状況の改善に向けて発令している。
しかし、大統領と議会との間でねじれが生じた場合、結局状況は大きくは変わらないとの悲観的な見方もある。そのため、有権者の変化への期待は2016年の大統領選にまで持ち越されるとも予測され、既にCNNなどは、ジョー・バイデン副大統領らに2016年の大統領選に出馬するのかなどを聞いたインタビューを繰り返し報じている。
アメリカ議会専門誌のザ・ヒルの記事も、「投票が終われば全ての関心は2016年の大統領選」としている。
しかし、今回の選挙結果を受けて2016年の選挙もきっと共和党が勝利するという内容ではない。1946年の中間選挙で共和党に両院を奪回された民主党のトルーマンが1948年の選挙で番狂わせの再選を成し遂げたことをあげ、2年後の大統領選への出馬が取り沙汰される民主党のヒラリー・クリントン氏にとっては民主党の選挙の敗北もギフトになり得ると、記事は指摘している。
中間選挙で精力的に応援にかけつけるヒラリー・クリントン氏
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