エボラ出血熱を防ぐのにスマホは役に立つのか

デューク大学医療センターで開かれた医療地理学の会議では、医療従事者がエボラや他の衛生上のリスクとなるような病気を追跡し、目標を定めるのに地理情報システムが活用できるいくつかの方法に注目が集まった。

エボラ危機は、病気がどのように移動し、そして、人々がどのように病気を運ぶのかという不安材料を新たにもたらしている。そして、この問題に詳しい多くの専門家は、昨今の感染拡大が、医療の地理学、つまり「医療地理学」についての私たちの考えに大きな変化をもたらすだろうと指摘している。

公衆衛生の当局者や科学者は、長らく病気を追跡するために地図を使ってきたが、今やスマートフォンの地図の利用技術と同様の地理情報システム(GIS)がさらに能力を高めている。ノースカロライナ州ダーラムのデューク大学医療センターで開かれた医療地理学の会議では、医療従事者がエボラや他の衛生上のリスクとなるような病気を追跡し、目標を定めるのに地理情報システムが活用できるいくつかの方法に注目が集まった。

「医療地理学」という用語は、地理情報システムのプロバイダーESRIの保健福祉の国際マーケティングマネージャーのビル・ダベンホール氏が考えたもので、同氏が2009年にこのテーマでTEDで講演した際に、この用語を使った。ダベンホール氏は講演で、医師は患者に対してしばしばライフスタイルや遺伝などのリスク要因については尋ねるものの、患者がどこに住み、どこで働き、あるいはどこへ移動したかといったことについては必ずしも聞かない点を指摘した。つまり、このことは汚染物質や病気を引き起こす潜在的な要因を大きく無視していることになる。裏を返せば、あなたのスマホは、あなたがどこを訪れたのかを、医師よりも知っている、とダベンホール氏は指摘している。

しかし、それは公衆衛生レベルと臨床レベルの両方で変化が始まっている、とダベンホール氏は話す。会議の一発言者として、国境なき医師団は、エボラ危機の初期の段階で、地域の高性能な地図を作製するために、ギニアに地図作成者と地理情報システム技師を派遣した。ギニアではそれまでそのような地図はなかった。現地では、道路や歴史的建造物を地図に記入、危機的状況にある人数を割り出し、病気が発生した場所同士の関連性が追跡調査された。国境なき医師団は初期分析に関する報告書を作製し、その中で、地理情報システムの技師たちが将来の現場活動で地図を活用できるよう推奨している。

ダベンホール氏は、医療地理学が医療業界における「ムーブメント」だと呼んでいる。実際に、会議では別の発言者がダベンホール氏のことを、この分野の「主任伝道者」だと呼んでいた。ダベンホール氏は地理データを病院で常用したいと考えている。例えば、ダラスのエボラ患者のトーマス・エリック・ダンカン氏が症状を訴えて最初に緊急外来に現れた際には、同氏が最近リベリアを訪れていたにも関わらず、自宅に帰されたのだ。

ダベンホール氏はハフポストUS版の取材に対し、「この技術を使って私が作りたい世界では、コンピューターに入った瞬間からあらゆる種類の警報が鳴り出すものであるかもしれません」と述べた。

地理情報システムの技術によって、人と動物と場所との間での接触についての研究が向上する可能性を指摘する別の研究者もいる。エボラは野生動物から人間に移る病気で、世界保健機構(WHO)はフルーツコウモリが西アフリカでエボラを人間に感染させた可能性のあるもののうちの一種だとしている。

デューク大学のヒューベルト-ヤーガン・グローバル保健センターの共同センター長のクリス・ウッド医師はハフポストの取材に対し、「あらゆる地域の生態系がものすごく速く変化している。日々とは言わないまでも、毎週のように絶滅種が出ている」と述べた。

そして、「私たちは森林で覆われている場所を日々失っている。人々は道路インフラを整備し、これによって人間と動物がより深く、より頻繁に接触することになっている。こういったあらゆる物事は地図にとっては重要なことになる」と話した。

会議でも発言したウッド氏は、西アフリカのかなりの数のコウモリから、エボラの陽性反応が出ていた事実を指摘、「つまり、実際は、私たちにとっては本来、驚くべきことではない事象が起きただけだった」と述べた。

ウッド氏は「個人的に本当に最も関心があるのは、このことが終息した後に私たちがどう行動するかだ。というのも、他のことはともかく、また同じような事態が起きた時に、みんなの悩みの種となるからだ。きっとそうなるだろう」と言い、「感染を早期に発見できるように、さらなる準備が必要だ」と話した。

もちろん、住所や位置情報履歴といった情報がどのように扱われるのか、プライバシー上の懸念から懐疑的な人もいる。会議で数人の出席者が指摘したように、どのように情報が収集され、利用されるのかといった基準が定められるべきだ。

しかし、ダベンホール氏は、今回のエボラ危機によって、このようなデータが医師や保健当局にとっては、より価値のあるものになるだろうと楽観的だ。「今回の危機はおそらく無駄にはならないだろう」。ダベンホール氏はこう指摘した。

この記事はハフポストUS版に掲載されたもの翻訳しました。

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