エボラ出血熱の感染者が西アフリカから世界に広がりつつあるなか、日本では感染が疑われる患者が見つかっても、国内では確実な診断を行う態勢が整っていないとの指摘が出ている。
厚生労働省によると、国内でエボラ出血熱に感染した疑いがある患者が見つかった場合、千葉県の成田赤十字病院や東京都の国立国際医療研究センター病院など国が指定した全国45の医療機関が治療にあたることになっている。
その後、血液検査などを行いエボラ出血熱かどうかを確定しなくてはならないが、日本では検査施設周辺の住民から反対があるため、ウイルスかどうかの確定診断を行う施設が稼働できない状態になっている。
■ウイルスの危険度によって扱える施設が異なる
国は、世界保健機関(WHO)が定めたウイルスの危険度「バイオセーフティーレベル」(BSL)に応じて、ウイルスを扱うことができる施設を定めている。エボラウイルスのBSLは最高レベルのBSL-4で、国内では国立感染症研究所と茨城県つくば市の理化学研究所バイオリソースセンターの2カ所で取り扱うことができる。
バイオセイフティーレベル(BSL)の分類:長崎大学ホームページより
■住民の反対で稼働できないBSL-4施設
しかし、実際にBSL-4の設備は国内に存在するものの、住民の理解が得られず稼働できないのが現状だ。また、長崎大学などでもBSL-4設備の設立を検討しているが、同大学に勤務する教授らからも反対の声が出ている。というのも、設備の設置が検討されているのが居住地であり、自然災害や事件、事故で病原体が外部に漏れる可能性から、住宅地に設備を設置するのは危険だと懸念されるためだ。
国立感染症研究所も居住地に存在しており、市もBSL-4の設備を稼働させないことを継続して要請している。
■BSL-4がないと確実な診断は難しい
BSL-4施設が稼働できないと、ウイルスを抽出して検査したり培養などを行うことができない。そのため、日本では危険レベルを1段階下げたBLS-3の施設で感染を調べられるように、組み換えウイルス蛋白を用いての診断が行われる。しかし、確実な診断はBSL-4の施設で行わなくてはならず、海外へ送って調べるなどの手段をとることになり時間もかかる。
また、効果的な治療を行うための基礎的な研究も難しくなる。日本学術会議が3月に発表した提言によると、日本の研究者は海外の施設でBSL−4病原体の研究を進めてきたという。
しかし、2001年のアメリカ同時多発テロ発生以降、多くの国においては安全保障の観点から自国の研究者以外のBSL-4施設使用は原則禁止または厳しく制限されており、日本人研究者による海外施設の利用と研究が困難になりつつある状態だという。
毎日新聞は専門家の意見を次のように報じている。
日本学術会議のメンバーとして今年3月、BSL4施設の必要性を提言した江崎孝行・岐阜大教授(病原微生物学)は「今は特効薬がなく、効果があるのか分からない薬を患者に投与している。ウイルスを培養できればいきなり人体に投与しなくても薬の効果を研究できる」と施設の重要性を指摘する。
感染研ウイルス第1部の西條政幸部長も、ウイルスの感染能力の有無やウイルスがどこから来たのかを調べるには、ウイルスの培養が必要という。ただ、西條部長は「万一、エボラ出血熱が国内に入ってきても準備態勢は整えてあり、制限はあるが対応はできる」と話す。
(エボラ出血熱:国内検査に懸念…危険ウイルス扱えず - 毎日新聞より 2014/10/16 07:30)
■「立地規制を行ってきたのは国」との指摘も
BSL-4施設が稼働できないのは、住民の反対だけでなく国にも問題があるという指摘もある。
これに対して塩崎恭久厚生労働相は10月14日、閣議後の記者会見で「住民説明会を開くなり、見学会をするとか、市民セミナーをするとか努力してきた」と述べ、今後も最大限の努力をして、地元関係者の理解を得るようにしていくとの考えを示している。
【関連記事】
ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています。
ハフィントンポスト日本版はTwitterでも情報発信しています。@HuffPostJapan をフォロー