北朝鮮「特別調査委員会」の調査は進んでいるのか

北朝鮮による拉致被害者などの再調査を含む「特別調査委員会」の第1回の報告が、当初の見通しより遅れている。「特別調査委員会」の調査は進んでいるのか。
Taichiro Yoshino

北朝鮮による拉致被害者などの再調査を含む「特別調査委員会」の第1回の報告が、当初の見通しより遅れている。「特別調査委員会」の調査は進んでいるのか。9月15日~23日の民間の墓参団への同行取材を通じておぼろげながら見えたものも含めて、整理してみた。

■「遺骨問題の調査が進展していることは言うまでもない」

北朝鮮側の「特別調査委員会」は、拉致問題だけでなく①日本人遺骨②残留日本人および日本人配偶者③拉致被害者④行方不明者、を対象にしている

9月15日から23日まで、第2次大戦中や直後に朝鮮半島北部で死亡した遺族の墓参団に同行した。そこで「特別調査委員会」の浸透度を象徴する場面に出くわした。

9月21日、多くの日本人墓地がある地方都市、咸興で、墓参団の一行は、街を貫く小高い山脈「盤龍山」の中腹にある墓地に案内された。

「ここから先は軍の検問所と軍事施設がある。絶対に撮影はしないように」。山道を登っていく途中で、同行メディアは外務省の担当者から厳しく指示された。

軍の施設内にあるというこの墓地は、前年の墓参団に参加した遺族も訪問を希望していたが、前回は立ち入りが認められなかった場所だという。

関係筋は「特別調査委員会の設置が北朝鮮国内でも報道され、担当者との交渉がスムーズに行くようになった」と背景を解説する。特別調査委員会の設置についての報道は、7月5日付の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に掲載された。「金正恩第一書記ら国のトップが指示する事業だ」と受け止められ、軍がすべてに優先する「先軍政治」を掲げる北朝鮮でも、軍が協力姿勢を示すようになったとみられる。

北朝鮮側で遺骨の調査に当たってきた外務省の担当者は16日、特別調査委員会の調査の進展具合を日本メディアに問われ、こう答えていた。「遺骨問題の調査が進展していることは言うまでもない」

■遺骨引き取りには高い壁

アメリカが朝鮮戦争(1950~53)で行方不明になった兵士の遺骨を引き取るかわりに、北朝鮮側に経費などを支払っていることから、北朝鮮が日本人の遺骨に対価を支払わせるのが目的ではないかとの見方もある。

北朝鮮に約2万1千柱が残されたままになっている日本人遺骨の問題は、2011~12年に北朝鮮側の提起で日朝間の懸案として急浮上した。当時の野田政権には「経済的に困窮する北朝鮮の骨ビジネスに乗っかるのはどうか」と慎重論もあったが、拉致問題進展の糸口になるとして、官邸を中心に水面下で対応を本格化させた。

関係者によると、現地での遺骨の収集や保管、返還など一連の事業の枠組みをひそかに検討。朝鮮戦争時に行方不明となった米兵の遺骨発掘で米国が支出する「補助費」を参考に経費を試算したところ、少なく見積もっても「年間10億~15億円」になったという。

(「Web東奥・特集/断面2014(共同通信社)」より 2014/03/19)

一方で現地を取材すると、身元確認に大きなハードルが立ちはだかっていることが分かる。

北朝鮮で1945~46年に埋葬されたとみられる日本人は約3万4千人で、うち遺骨1万3千柱が持ち帰られたとみられるが、正確な数は分からない(朝日新聞2013年8月13日付朝刊)。

2012年に北朝鮮は、平壌近郊や咸興市内の計3カ所の発掘調査を日本メディアに公開し、そこでは日本人とみられる遺骨が出土していた。しかし、北朝鮮で肉親を亡くした遺族らに話を聞くと、飢えや伝染病で多いときは一日数十人が死亡しており「大きな穴を掘って、ムシロにくるんで投げ入れるように埋葬した」「山道が怖くなって投げ捨ててきた」といった証言が相次ぐ。引き揚げから69年が経過し、街の様子も様変わりしており、正確な埋葬場所の特定も難しい。

「ご遺族の多くは、遺骨を引き取りたい意向を持っている」(北遺族連絡会の太西るみ子事務局長)というが、仮に日朝政府間で遺骨の引き取りが合意に至ったとして、身元判別のためのDNA鑑定を誰が行うのか、など、課題は多い。このため、厚生労働省が東南アジアや旧ソ連などで実施しているように「地域ごとに慰霊碑を建て、政府による慰霊巡拝の訪問を実施することが現実的ではないか」(遺族の一人)とする声もある。

1959年から赤十字が中心に進めた在日朝鮮人の帰国事業で、在日朝鮮人の夫と北朝鮮に渡った「日本人妻」も調査が進められているとの報道もある。

■「再調査に1年かかるなんてありえない」

一方で拉致被害者や特定失踪者の「再調査」についての情報は少ない。

菅義偉官房長官は9月19日、記者会見で、北朝鮮側から「調査は全体で1年程度を目標としており、現在はまだ初期段階にある。現時点でこの段階を超えた説明を行うことはできない」との連絡があったと明らかにした。このため9月29日に中国・瀋陽で日朝局長級協議を開き、日本側が調査の迅速化を要請した

一方、宋日昊(ソン・イルホ)日朝国交正常化担当大使は、9月30日にNHKとの単独インタビューで、以下のように述べ、ずれ込んだのはあくまで日本側の都合との認識を示した。

拉致被害者らの調査に関する1回目の報告が当初の予定より遅れていることについて「9月初旬でも、日本側の要求さえあれば、それまでの調査内容を報告しようというのが特別調査委員会の考えだった」と述べ、意図的に報告を遅らせているわけではないと主張しました。

一方でソン大使は「いつでも日本側がピョンヤンに来れば、継続中の調査についてその時点までの内容を報告できる」と述べ、報告は日本側の担当者が北朝鮮の首都ピョンヤンに来て、特別調査委員会から直接説明を受けるのが望ましいという考えを強調しました。

(NHKニュース『ソン大使「いつでもピョンヤンで報告できる」』より 2014/10/01 04:09)

拉致被害者の蓮池薫さんの兄で元拉致被害者家族会事務局長の蓮池透さんは10月3日、東京都内の会合で次のように述べた。

「(2014年5月の日朝合意は)あまりに大ざっぱな合意で、何を持ってお互いの合意に達するのが明確ではない。北朝鮮側が情報を小出しにして、拉致問題は最後になるのではないかと申し上げてきたが、どうもそれに近いことが起きているような気がする。外務省のやり方もビジョンがない。北朝鮮側から何も出てこないので、外務省が時間稼ぎしていて、それに北朝鮮側も乗っかっているのではないかという気がする。政府関係者に『平壌に来い』という話があるようだが、どんどん行ったらいいと私は思います。被害者の家族も一緒に行って、とことん問い詰めることがあってもいいのではないか。だいたい拉致の再調査に1年かかるなんてありえない。2002年にも調査をして、2004年にも再調査している。さらに12年経って、また1年かかるなんてありえない。日本側の見立ても甘かったのではないか」

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