香港で2017年に行われる行政長官選挙の改革をめぐり、1997年にイギリスから返還されて以来最大規模となる民主化要求デモは、収束の見通しが立っていない。今回のデモは、8月末に中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会が次回の選挙から18歳以上の住民に選挙権を与える一方、指名委員会が候補者を選別するなど立候補の要件を制限する方針を決定し、事実上民主派の候補者が排除されることがきっかけとなった。
香港の学生らは9月22日から授業をボイコットして抗議活動を展開したが、警察は催涙スプレーなどを使って排除しようとし、74人の学生を逮捕した。民主派は28日、10月1日の国慶節(中国の建国記念日)に合わせて計画していたデモによる香港中心部の占拠を繰り上げて実施することを宣言した。現在も学生中心に大規模なデモが続いているが、10月3日にはデモ反対派数百人がデモ参加者と衝突、負傷者も出た。梁振英(リョン・チャンイン)行政長官は、6日に香港中心部の道路を開通させると述べ、デモによる占拠が続く場合は強制排除に乗り出すことを示唆した。
28日に発生した「傘の革命」と呼ばれる香港デモのこの1週間の動きを、ハフポストのマット・シーハン記者ほか、ハフポストUK版編集部によるレポートで振り返る。
■ デモ参加者が大規模に膨れ上がっても、秩序は保たれる
地元の人々が「人山人海」(中国の四字熟語)と描写しているように、何十万人ものデモ参加者たちが香港の通りに溢れ、中国の特別自治区・香港の民主的な次期行政長官選挙の実施を主張している。
9月30日夜、地元の警官隊が抗議活動の中心地から一度撤退したことで抗議者たちの群れは大規模に膨れ上がった。香港政府本部庁舎がある金鐘(アドミラルティ)付近では、デモ参加者が溢れかえったため、デモ隊のリーダーたちが新たに加わったデモ参加者に対し、市内の別の地域に移動するよう指示しなければならないほどであった。
(Photo: Matt Sheehan/The WorldPost)
抗議者たちは、2017年に開かれる香港初の直接選挙で、中国政府が事前審査を行わずに候補者たちに投票できるよう求めている。
北京の中央政府は、抗議内容は違法なものであるとの見解だ。香港の梁振英行政長官は30日の時点で、デモ隊の要求について対話を拒否していた。
(Photo: Matt Sheehan/The WorldPost)
抗議デモは大規模になったが、30日夜は警官隊との衝突はごくわずかであった。デモ参加者の有志が水や食べ物、ゴーグルなどを配布している光景も見られた。傘を振り乱す抗議者たちが、催涙ガスをまき散らす警官隊と衝突した28日の緊迫した雰囲気とは大きくかけ離れていたといえる。
(Photo: Matt Sheehan/The WorldPost)
30日には警察のバイク数台が、即席のバリケードに対して突進し、バリケードを破壊し始めた。学生たちは、自分たちの場所を守ろうと駆けつけたが、すぐに道路の反対側に一台の救急車が待機していることに気づき、封鎖解除を行う警察の手助けをした。その数分後、警察と救急車は、デモ参加者たちの口笛や声援を浴びながら通り抜けていった。
(Photo: Matt Sheehan/The WorldPost)
民主化を訴えるデモ参加者たちは、デモで起きている問題にも積極的に取り組んでいる。慢性的なトイレ不足に見舞われたデモ参加者たちは、2つのテントを設置し、それぞれに黒いゴミ袋とトイレットペーパーを置いた。
(Photo: Matt Sheehan/The WorldPost)
2014年9月30日 抗議者たちは豪雨から身を守るため傘を使用した。(ANTHONY WALLACE/AFP/Getty Images)
2014年9月30日 旺角(モンコック)に集結した人々。(XAUME OLLEROS/AFP/Getty Images)
2014年9月30日の香港におけるデモにおいて、学生たちは民主化を求めるスローガンを唱えて行進する際、ライトを点した。(Paula Bronstein/Getty Images)
■ デモ参加者も警察も疲労はピークに
抗議活動はなおも続き、道路には数千人の抗議参加者が眠り、占拠している。
デモ参加者が機動隊と対峙する
疲れ果てた警察と抗議参加者の映像が流れ、機動隊が撤収したことが伝えられているが、抗議参加者は動くつもりはないようだ。
27日のデモ参加者と警察の激しい衝突では、警察が催涙ガスを群衆に投げつけ、防御の柵を設置した。警察の措置に対抗して、数千の抗議参加者は手製のゴーグルと即席の盾を使って自分たちを守ろうとしていた。26人が病院へ運ばれ、148人が逮捕されたと報じられている。
中国政府はデモ活動を違法であるとしている。中国政府が報道規制に乗り出しているが、通りにひと気がなくゴミが散らかった異常なシーンは香港から流出し続けている。
映像流出を食い止めるために、政府は中国本土でのインスタグラムを現在禁止している。
■ 豪雨の中でも、デモ参加者は「傘の革命」と止めようとしない
10月1日、数千人の民主化要求デモ参加者たちは、雨でずぶ濡れになりながら夜を過ごし、抗議活動を展開している。政府に対して、解散命令ではデモを阻止できないことを平和的に示し続けている。
雷、稲妻、そして大雨でも気力は削がれず、(「世界で最も態度の良いデモ参加者」と称される) 民衆として平和的に歌を歌い、「Keep it Up! (最後までやり続ける!)」とくり返し唱えることで、明るい雰囲気で窮地を乗り切った。中国政府が1日の国慶節を祝うための準備をしていたときの話である。
またしても、デモ参加者の群衆が傘の下で身を寄せ合う様子が描かれた。雨傘は「オキュパイ・セントラル・デモ」(中環を占拠せよ)活動のシンボルだ。とはいえこの日は、警察の催眠スプレーや催涙ガスではなく、豪雨から傘で身を守っている。
1日の朝、民主化運動デモの参加者は警察のバリケードの後ろで梁振英行政長官を非難し続けた。梁振英行政長官が中国国慶節の国旗掲揚式に参加したときのことだ。梁振英氏は憤慨し、デモ参加者たちとの面会を拒否した。
デモを主導する香港大学の学生たちは前もって、人々に国旗掲揚式を妨害しないようオンライン上で訴えていた。妨害行為は緊張を高め、当局の強制排除につながりかねないからだ。
その代わり、数百人のデモ参加者が梁振英氏に辞任を求めて叫んだ後、式が開始されたときには静まり返り、平和的に背を向けていた。
ロイターによると、デモ参加者の1人は「私たちは聞いてほしいのです。私たちはここで平和的に戦いたいのです。しかし私たちは攻撃的になるつもりはありません」と述べた。
一方、警察は「より強硬な手段」を行使する事態に迫られている。中国政府が香港の自由選挙を認めるまでデモ参加者が解散しない場合、それは現実となる。
AP通信によると、「私たちは武装警官を恐れてはいません。催涙ガスを恐れてはいません。催眠スプレーを恐れてはいません。 私たちは梁振英氏が辞任するまで立ち去りません。 私たちはあきらめません。私たちは最後まで耐え抜きます」と、デモ参加者の学生、レスター・シュンは叫んだ 。
中国共産党幹部は、中国本土では権力独占へのあらゆる驚異に対して強硬路線を取っているが、香港では建前上「一国二制度」を採用しており、あまり厳しく取り締まることができない。香港でひとたびそうした強権発動が起きれば、自由に行動できるメディアが必ず世界の目にさらすからだ。
イギリスのデビッド・キャメロン首相は、中国の駐英大使と香港デモについて話し合うつもりだと述べた。キャメロン首相は、香港の人々が自分たちの政治指導者を選択する正当な権利を持つことは絶対に必要なことだとしている。
「中国人が始めたことの一挙手一投足に我々が首を突っ込むつもりはない」とキャメロン首相は述べた。 一方で「私はこれを重大な問題だと考える。真の普通選挙とは、投票行為だけを意味しない。公正な選択をも意味する」と付け加えた。
また、アメリカのオバマ大統領は1日、アメリカを訪問した中国の王毅外相に対し「アメリカ政府は香港民主派デモの状況を注視しており、平和的な対応を期待する」と述べた。
香港の「一国二制度」の前提が、今まさに問われている。
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