「イスラム国」掃討で空爆拡大、アメリカの戦略とは 中東の"泥沼"に後戻り

過激派組織「イスラム国」の掃討を目的に米国主導の有志連合がイラクとシリアで行っている空爆は、米国を新たな中東戦争へと引きずり込んだ。これはまさに、オバマ米大統領が避けようとしてきた事態である。
ロイター

過激派組織「イスラム国」の掃討を目的に米国主導の有志連合がイラクとシリアで行っている空爆は、米国を新たな中東戦争へと引きずり込んだ。これはまさに、オバマ米大統領が避けようとしてきた事態である。

こうした劇的な事態のエスカレートは、戦闘が周辺諸国へと波及する可能性があり、米国の空軍力だけでは勝利できない長期戦を意味していることは疑いの余地がない。

専門家らは、シリアとイラクで一部地域を制圧したイスラム国について、封じ込めは可能かもしれないが、完全に一掃するのは困難だとみている。

米国政府が長期戦の構えであることは明らかだ。米統合参謀本部のメイビル作戦部長は23日、シリアでの空爆を「イスラム国を破滅させるための持続的で確かな作戦」の始まりにすぎないと述べた。

英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の中東専門家、ファワズ・ゲルゲス教授は「米国はもはやシリア内戦の傍観者ではいられなくなった」としたうえで、「米国の関与は向こう数年は深まっていくだろう。オバマ大統領がホワイトハウスを去った後でも」と語った。

<シリア反体制派の軍事力育成>

大量処刑や市民殺害、捕虜の頭部切断といったイスラム国の非情な手口は世界中を恐怖に陥れ、米国に軍事行動を決断させる要因となった。

ある米高官は、イスラム国の弱体化は「シリアで望まれる政治的解決に至るために必要な条件」だと指摘。「イスラム国にヨルダンと同規模の疑似国家を支配させている限り、政治的成果や戦闘の収束を見る可能性はますます低くなる」と述べた。

この米高官と同盟国の当局者らによると、軍事作戦と並行して、イスラム国の戦闘員と戦うためにシリアの穏健な反体制派を訓練し、イスラム国が撤退した後の地域に配置する計画だという。

オバマ政権は、サウジアラビアでの訓練など軍事支援に向けた資金拠出を議会から取り付けたが、外交官らはシリアのアサド政権とイスラム国の両方と戦う穏健派の反体制派が空白を埋めるようになるには時間を要するとみている。

<米国のジレンマ>

イスラム国への空爆が行われている現在、今後の焦点は地上戦へと移っているが、イラクとアフガニスタンでの経験に留意するオバマ大統領は、軍部隊の派遣はないと明言している。

米国はイラクに最大で16万人の兵士を駐留させていたが、権力争いや宗派間対立でイラク国内は分裂状態となり、安定をもたらすことはできなかった。

アフガニスタンでは、市民も犠牲になった米国による空爆や無人機攻撃が、反政府武装勢力タリバンの封じ込めに寄与したのか、それとも逆に勢いづかせたのか、論議を呼んでいる。

イスラム国は米国のジレンマを楽しんでいるようにも見える。同組織の報道官は「(米国が)立ち向かってくるなら、イスラム国はもっと強くなる。手を出さずにいるなら、成長し拡大し続ける」と挑発した。

イスラム国の戦闘員たちは、イラク北部モスルやシリア北東部ラッカなど自分たちが制圧した都市に潜り込み、周辺国への進攻もあり得るゲリラ戦に備えている。

前述のゲルゲス教授は、イスラム国が戦力を小規模な部隊に再編し、主要な都市を支配しようとするとの見方を示した。

また、アルカイダのような壮大な攻撃を行うには限界があることから、イスラム国がレバノンやトルコ、ヨルダンなどで、西側とその同盟国の急所を狙ってくると専門家らは考えている。

サウジアラビアで第一線で活躍する評論家のジャマル・カショギ氏は「(イスラム国を)攻撃したバーレーン、カタール、サウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)の5カ国はすべて標的にされるだろう」と話す。

<米国の戦略>

専門家や米当局者によると、米国の戦略はスンニ派に国家権力に参加させ、地域支配を与えることで、イスラム国と敵対するよう仕向けることだ。これは、シリアよりもイラクで明らかな戦略だ。

イラクでの目的は、国際武装組織アルカイダと対立した治安組織「覚醒評議会」をかつて形成したスンニ派部族に再び協力を求めることだ。

マリキ前政権で疎外されたスンニ派部族の多くの兵士は、イスラム国と大義名分を同じくしていた。そこで、スンニ派勢力に地域支配の権限を与えたうえで、シーア派も含む国家治安部隊の一部とするという考えだ。

イラクにいる米当局者は「国家治安部隊に入り、地域住民や家族のために立ち上がれば、給料や年金が支給され、家族のために持続的な生活や未来が保障される」と語った。

一方、シリアでは、アサド政権が西側と対立しているため、そう簡単にはいかない。

対イスラム国有志連合のメンバーで北大西洋条約機構(NATO)加盟国の当局者は、アサド政権が退陣し、新政権と主要な反体制派が協力する道が開ければ、シリアでのイスラム国掃討はもっと容易になると語る。

アサド大統領失脚後の政権移行には、穏健派の反体制派が勢いを取り戻すことが不可欠だ。ある米国務省当局者は反体制派強化の必要性を強調し、「穏健派反体制派の準備ができていないため」、米国は今はまだアサド大統領を追い落とすようなことはしないと述べた。

その一方で、アサド政権の後ろ盾であるイランと対立関係にあるサウジアラビアの緊張が緩和し、イランと米国の交渉が進展するなら、シリア政府との政治取引のお膳立てとなるだろう。

(Samia Nakhoul記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)[ベイルート 25日 ロイター]

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