9月12日付けで「サイエンス」誌に掲載された論文の中で、研究者らは、風力や太陽光などのグリーンエネルギーから得られる電力を利用して、これまでの30倍の速さで水素を生成できるという新技術について説明している。
だが、これまでの製造法の場合、水素は「炭素を含まないエネルギー源」を用いて生成されるわけではない。つまり、「気候変動に影響を与えない」エネルギー源というわけではないのだ。
今回の研究チームを率いたリー・クローニン教授が、グラスゴー大学のプレスリリースで指摘しているように、「世界の水素供給量の約95%は現在、化石燃料から生成されている。ご存知のように化石燃料は、環境に有害で気候変動を加速させる、有限な資源だ」。
しかし、水素は、再生可能エネルギーを将来の利用に備えて貯蔵できる可能性も秘めている。効率的な「貯蔵」ができないことは、これまで、再生可能エネルギーの普及を妨げる大きな要因になってきた。
再生可能エネルギーの生成は、太陽光や風などの自然条件に依存する。しかし、電力はいつでも安定して必要なものだ。そのため、こうしたエネルギーを蓄えておき、たとえば嵐などのときに供給するための優れた方法を見つけることが課題となってきたわけだ。余剰エネルギーを利用して水素を生成し、こうした水素を必要なときに利用することができれば、再生可能エネルギーを扱う企業にとっては画期的だ。
水素を生み出す方法のひとつは、電気を利用して水を水素と酸素に分解する電気分解だ。現在のところ、電気分解を通じて水素を生成するほぼすべての商業的手法では、安定した商用電源が必要であり、すなわち化石燃料が必要ということになる。再生可能エネルギーから水素を生成するのは簡単ではないからだ。
クローニン教授はハフポストUS版に対し、「多くの再生可能エネルギーは発電量が少なく、そのような低電力で通常の電解槽を稼働させるのは不可能だ」と説明する。
だが、クローニン教授らの研究チームは、この課題を解決する可能性がある。彼らが開発した新しいシステムを使えば、風力や太陽光などの再生可能エネルギーが供給するような低電力でも水素を生成でき、石炭や天然ガスによる商用電源が不要になるかもしれない。
これを成功させるために研究チームが用いた手法は、水(H2O)分子を部分的に分解し、水素を「液体のスポンジ」(redox mediator=酸化還元メディエーター)に閉じ込めて、酸素を気体として放出する、というものだ。水素を取り出すには、この「液体スポンジ」を触媒に通す。こうしたプロセスで、「必要に応じて水素を生成」できるようになった、とクローニン教授は説明する。
さらに、クローニン教授がハフポストUS版の取材に対して述べたところによると、電気分解では、プロセス中に水素と酸素が混ざり合うことで爆発が生じる危険性があることが問題だが、彼らが開発した方法の場合、処理を2つのステップに分割することによって、こうした爆発が防げる利点もあるという。
アメリカのエネルギー省が所管する国立再生可能エネルギー研究所の科学者、ケヴィン・ハリソン氏とフエン・ディン(Huyen Dinh)氏はハフポストUS版に対し、水素はすでにさまざまな再生可能エネルギー源から生成できるようになっているが、「大きな課題はコストだ」と説明した。電気分解によって水素を生成する際にかかるコストのほとんどは、電力会社から電力を購入するための費用なのだという。つまり、今回の新たな研究は、「手頃な価格の水素」という未来を実現しうる可能性があるのだ。
「太陽光や風力の余剰エネルギーを利用することによって、(中略)水素を大量に生成する際のコストを大幅に抑えられるかもしれない」と、ハリソン氏とディン氏は述べる。
クローニン教授はハフポストUS版に対し、「われわれは、きちんと機能する試作品を開発済みで、それをスケールアップする方法を研究中だ。また、スピンアウト企業が資金調達しうるビジネスモデルの構築も進めている」と述べた。「このイノベーションは、電解槽をより安価で、高速で、安全で、拡張可能なものにすることを約束するものだ」。
文末のスライドショーでは、アメリカの再生可能エネルギー源ランキングを紹介している。
[Katherine Boehrer(English) 日本語版:湯本牧子、合原弘子/ガリレオ]
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