“危ない”企画だった実写『ルパン三世』、興行常識を覆す大ヒットの背景
実写映画化の発表からなにかと話題を巻き起こしてきた『ルパン三世』。情報が出るたびに世の中のリアクションは大きいものの、いまひとつ映画への関心が感じられなかった同作だが(7月時点での夏休み映画期待度ランキングでは9位)、公開直前にはいつのまにか作品への興味の声が大きくなり、フタを開けてみると興行収入30億円突破確実(東宝発表)という大ヒットスタートをきった。そんな逆風からのヒットのウラにはなにがあったのか。映画ジャーナリストの大高宏雄氏氏が、チャレンジから生まれた“興行常識“を覆す成果を綴る。
◆観る意欲をわかせた 新感覚の娯楽大作のような雰囲気
『ルパン三世』が好調である。9月15日時点で、すでに興収15億円を超えた。最終的には、25億円あたりが目安となろう。スタート時は、30億円は間違いなしとされたが、2週目以降に動員が落ちた。ただアクション風大作は、邦画と洋画の別なく、2週目以降は落ちていくものだから、まあ想定内と言うべきだろう。
『ルパン三世』の製作の話は、かなり前に聞いた。ふざけるのもいい加減にしろと思った。目黒祐樹がその昔主演した実写版『ルパン三世 念力珍作戦』を思い出した。当時、バカにされたものだ。今観れば、別の感慨がわくかもしれないが、『ルパン三世』の実写版は、今さらも何もないだろうって。
だが、映画はわからない。フタを開けてみれば、ちまたの無責任な“興行常識“を裏切った。何が起こったのか。ひとつが、正月に大ヒットした『名探偵コナンVSルパン三世 THE MOVIE」(42億5000万円)の大ヒット効果だ。これは、間違いない。ルパン三世の認知が、名探偵コナンファンにまで広がったからだ。これまで、ルパン三世を知っている人たちでも、今さらながらにルパン三世に“覚醒”されたとも考えられる。公開のタイミングが良かったのだ。
宣伝も良かった。メイン広告(ポスターなど)は、小栗旬が斜めに構えた垢抜けたビジュアルで、インパクトがあった。けっこう様になっていて、カッコいいのだ。予告編も、比較的がんばっていた。テンポが良く、俳優陣の動作も、コミック、アニメのキャラクターのモノマネのような微妙な感じにならず、それが俳優の個性のようなものに結びついていた。原作が土台にあるとして、新感覚の娯楽大作になっているかのような雰囲気が、映画の様々な伝達過程からうかがえた。これが、人々の、とくに若い人たちの観る意欲をわかせたようにみえた。
◆製作陣の覚悟とチャレンジ、見応えがあった俳優陣の奮闘
中身としては、俳優陣の奮闘が一番見応えがあったと思う。小栗は、柔らかなパンチパーマ風短髪が、きれいに撫でつけられ、絞った体がアクション俳優としての俊敏な動きを体現していた。黒木メイサは、不二子タイプではないが、この人の華やかでいながら、どこか日常感覚にそぐわない風貌と立ち居振る舞いが、『ルパン三世』的な虚構世界に、ぴたりとはまっていたと言える。
演出は、登場人物のアップを多用しつつ、短いカットをつなげながら、テンポアップを図っていく手法が、この作品にふさわしかった。ただ、カットつなぎやテンポアップが全体的にどこか一本調子の趣もあり、もう少しメリハリをもった演出を施してくれたらと思ったのも事実だった。これは、観たあとの印象が、あまり深く残らないこととも関係がある気がする。
まあとにかく、この企画をよくぞ通し、製作にこぎつけ、公開にたどりつけたと思う。それほど、ある意味“危ない”企画であった。だから、大博打でもあったと思う。本作を製作した中心人物は、『太陽を盗んだ男』(1979年)などで知られる異端のプロデューサー、山本又一朗氏である。これを機に、より一層過激な企画で、映画界をかき回してほしいと切に願う。
今、目先のヒットを目指すあまり、冒険心のまるでないマーケティング手法が大手をふっている。『ルパン三世』の企画は、少なくともそれらとは一線を画す。私も自戒を込めて、無責任な一般常識に凝り固まっている場合ではないと、つくづく実感したのだった。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)
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