[ワシントン 10日 ロイター] - オバマ米大統領はかつて、シリアの反体制派を「元医者や農民、薬剤師たち」と表現し、まともに取り合わなかった。しかし今、イスラム過激派組織「イスラム国」の打倒を目指す米国の戦略で、シリアの反体制派は1つの重要な柱となっている。
オバマ大統領は過去3年余り、穏健なシリアの反体制派と距離を置いてきた。支援を口にしたり、わずかな物的支援を行ったりはしてきたものの、ホワイトハウスはこれまで、シリアへの武器供与は内戦の火に油を注ぐだけだと公言してきた。
だが現在、オバマ大統領は、シリアとイラクにわたる地域に「カリフ国家(預言者ムハンマドの後継者が指導する国家)」樹立を宣言したイスラム国を壊滅させるため、これまでとは異なる戦略にかじを切っている。
オバマ大統領は新たな包括的戦略のなかで、イスラム国に対する空爆をシリアにも拡大するほか、シリア反体制派への軍事支援強化を打ち出した。
シリア専門家や匿名の米当局者らは、米国の政策転換の主な推進者はオバマ大統領自身だと明かす。米シンクタンクのワシントン近東政策研究所のアンドリュー・タブラー氏は「オバマ大統領が考えを変えたようだ」とし、「これまで強硬な対シリア政策に主に歯止めをかけていたのは大統領だったことがうかがえる」と述べた。
米国による支援強化の決断は、オバマ大統領がシリア政策で行き詰まっていることを露呈したと言える。ホワイトハウスは、シリアのアサド政権と手を組まずにイスラム国を打倒する方法を見いださなくてはならない。
<時すでに遅しか>
オバマ大統領と8日にホワイトハウスで会食したジェーン・ハーマン米元議員は、2年前に最高顧問たちから提案されたシリア反体制派への武器提供を拒否したことについて、大統領は今でも正しい決断だったと信じていると語った。
ハーマン元議員によると、オバマ大統領はISIL(イスラム国の別名)の台頭を世界情勢の大きな変化と捉えており、穏健なシリア反体制派の役割は、イスラム国に支配された土地を取り戻すことだと考えているという。
米国が武器や訓練を提供することで、戦況がシリア反体制派に有利に傾くかは分からない。これまで反体制派はイスラム国だけでなく、他の武装勢力やシリア政府軍に対しても劣勢に立たされている。
米当局者らは、シリア反体制派の力では、イスラム国やアルカイダ系武装組織「ヌスラ戦線」にほとんど太刀打ちできないとみている。オバマ大統領もこれを認めているが、軍事支援が強化されれば、反体制派が事実上の米国の代理となり得ることを示唆した。
<3度目の正直か>
オバマ政権はこれまでに2度、シリア反体制派への支援を表明している。だが、どちらの場合も大きな成果は得られなかった。
2013年6月にアサド政権による化学兵器使用の証拠を得たと米国政府が明らかにした後、ホワイトハウスのローズ大統領副補佐官は反体制派への支援強化を発表した。
だが、議会の反対により計画は遅れ、反体制派の兵士数百人の訓練も行われたが、イスラム国など反欧米勢力の手に渡ることを恐れて、地対空ミサイルのような最も高度な兵器の提供には至らなかった。
また今年の6月26日には、オバマ大統領が約5億ドル(約535億円)の拠出を認めるよう議会に要請したが、まだ承認されていない。議員らはホワイトハウスが資金の使途について具体的な計画を提示していないと主張している。
オバマ大統領は8月8日付のニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、アサド政権との戦いで反体制派にもっと早く武器支援をしていたら、状況は違っていたのではないかという議論に対し、それは「ファンタジー」だと一蹴した。
一方、オバマ大統領を批判する人たちは、もっと早い時期に支援していれば、反体制派がアサド政権とイスラム国を弱体化させたというのが議論の本質だと主張している。
かつてオバマ大統領のシリア担当の特別顧問を務め、現在はワシントンのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」に属するフレデリック・ホフ氏は「もし2年前に違う道を取っていたら、今よりもはるかに良い状況にいたというのは説得力がある」と語った。
(Warren Strobel記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)
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