インド北西部で毎日10万食のカレーを巡礼者や旅行者らに無料で与えるシク教総本山の「黄金寺院」を密着したドキュメンタリー「聖者たちの食卓」(原題/Himself He Cooks)が、9月27日から東京の渋谷アップリンク、新宿K's cinemaほか全国で順次公開される。
作品は、食事を待つ大勢の人々と、無償で働く300人が手仕事で調理したり後片付けをしたりする姿を描き出す。巨大鍋で作られる豆カレー、ひたすらニンニクの皮を剥き続けるターバンをかぶった男性…。異国の調理風景が、喧騒とともにスクリーンに映し出される。ナレーションもBGMもない。
監督は、自らも移動式キッチンのシェフとして腕をふるうベルギーのフィリップ・ウィチュス(48)さんとヴァレリー・ベルトーさん夫妻。ウィチュスさんは来日した際にハフィントンポスト日本版のインタビューに応じ、「同じ食べ物を分け合うことは神聖なこと」と語った。
--どうしてこの作品を作ろうと思ったのですか。
以前、インドの伝統的な音楽についてのドキュメンタリー映画を作りました。その際、黄金寺院のあるパキスタン国境の街アムリトサルに滞在したのですが、黄金寺院を訪れ、大人数の食事を作る姿にびっくりしました。キッチンは驚くほど効率がよかった。この素晴らしくて面白い場所を世界に知らせないといけない、と思いました。
--撮影期間はどのくらいだったのですか。また、苦労したことは何ですか。
撮影には1カ月かかり、その期、毎日、寺院に足を運びました。私たちが目立たなくなるように、そして寺院に来る人々に信頼してもらえるように、同じ時間に同じ場所にいるようにして、その場の一部分としてなじむようにしました。
--作品を通じて最も伝えたいことはなんですか。
インドというヨーロッパから見たら貧しい国で、そして限られた環境で、毎日10万食を振る舞うという大規模のことを成し遂げている。それはすごいと伝えたいです。
私は、人々と何かを一緒に行い、共有することが好きです。黄金寺院では人種も階級も、宗教も関係なく、みんなが同じものを食べます。そんな風に、同じ食べ物、同じ音楽などを分け合うことは神聖なことなんです。
--ウィチュスさんはご自身が料理人でもあります。作品に出てくるカレーの味はいかがでしたか。
シンプルな味付けで美味しかったです。1カ月の間、食べ続けました。チャパティー(薄焼きパン)なんかは、焼くのに薪の火とガスでは味が微妙に違いました。文明と伝統の違いということでしょうか。そういった違いを感じられたことは面白かったです。
--日本食をどう見ていますか。
日本は食べ物の選択肢が豊富です。それに日本食は手が込んでいて、見た目も美しく、健康的でもあります。特にソバやみそ汁、屋台での食事なんかが好きです。日本は店構えもすてきで、細かいところまで配慮されている。私の国ベルギーの食べ物は、揚げ物が多いです。
--日本で興味のあることはなんですか。
今朝、福島から来たという女性と朝食を一緒にしました。東日本大震災によってもたらされた原発事故には、やはり関心があります。
--日本と言えば、原発が思い浮かぶのですか。
そういうことではないです。しかし、無意識のうちに、「福島」「原発」という言葉が深く心に残っていることに時折、気づきます。ただ、どんな国でも原発事故は起こり得ることなんです。世界全体で考える必要があると思います。
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フィリップ・ウィチュス(Philippe Witjes) 1966年、ベルギーの首都ブリュッセル生まれ。映像作家兼フリーの料理人。料理評論家としても活躍中。「聖者たちの食卓」は、2012年の東京国際映画祭「ナチュラルTIFF」部門にてグランプリを受賞している。
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