パキスタンの首都イスラマバードで、シャリフ首相の退陣を求める数万人のデモが続き、政治的な混乱への懸念が高まっている。デモ隊を率いる野党党首はクリケットの元スター選手で、その背後には過去に3度のクーデターを起こした軍部の存在がちらついている。
デモを主催しているのは、第2野党「正義運動(PTI)」のイムラン・カーン党首と、「革命による体制刷新」など過激な主張を繰り返すイスラム法学者タヒルウル・カドリ氏。いずれも2013年5月の総選挙で不正があったとしてシャリフ氏の退陣と再選挙を求めている。
シャリフ氏はこれを拒否している。シャリフ氏が率いる与党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)はその総選挙で過半数を得て圧勝し、パキスタン人民党(PPP)との政権交代を果たした。
カーン氏とカドリ氏は、別々にデモ隊を率いて8月14日に東部ラホールを出発して約300キロ離れたイスラマバードに到着、16日から路上で座り込みを続けている。MSN産経ニュースなどが報じた。
20日には約3万人のデモ隊が主要官庁、各国大使館などが集まる「レッド・ゾーン」と呼ばれる警備強化地区に突入し、治安当局との間で緊張が高まっている。
デモ隊は先週末に首都に集結し、シャリフ首相に対して辞任を求めている。20日未明、レッドゾーンへの侵入を阻むため周囲に配置されている貨物用コンテナの一部をクレーンで取り除き、有刺鉄線を切って地区内に入り込んだ。警官隊や軍が出動したが、流血の事態を避けるため、デモ隊の強制排除は行っていない。
(MSN産経ニュース「パキスタン野党が首都で大規模デモ 選挙やり直し訴え」より 2014/08/20 20:12)
カーン氏は、パキスタンで人気のあるクリケットの元同国代表のキャプテン。現在61歳で、若者を中心に絶大な人気を誇る。支持者には税金と公共料金の支払いをやめるよう呼びかけ、政権への揺さぶりを加速させている。
■シャリフ首相、1999年に軍事クーデターで失脚
今回のデモをめぐっては、背後に強力な力を持つ軍の関係者がいるとの臆測が出ている。カーン、カドリの両氏はいずれも軍に近いとされるほか、シャリフ氏は首相だった1999年に軍によるクーデターで失脚しており、軍とは緊張関係にあると言われるためだ。さらに、「親インド」姿勢のシャリフ氏を追い落とすためにデモを仕掛けたという見方も浮上しているという。
シャリフ氏は昨年11月、1999年の軍事クーデターで自身を首相の座から追い落としたムシャラフ元大統領を国家反逆罪で訴追すると決断。以来、軍部は不快感をにじませるようになった。かつての軍トップに対する訴追を軍の威信への挑戦とみているからだ。
呼応するようにカーン氏は今年6月、1年以上前の総選挙の不正を唐突に蒸し返し、一切の対話を拒んで首相辞任を迫り始めた。政治家以外の実務者による内閣の設置も要求。かつて軍政が多用した手法で「戒厳令を思い起こさせる」と党内からもいぶかる声が出た。「再選挙」を求めるカーン氏と「革命」を旗印にするカドリ氏という異なる主張の2人を連携させたのも、ムシャラフ軍政時代の翼賛政党の元幹部たちだ。
(朝日新聞デジタル「パキスタン首相に退陣要求デモ 首都で数万人座り込み」より 2014/08/16 20:31)
毎日新聞は、軍はクーデターなどに前向きではないといわれるとし、その理由として「北西部で武装勢力掃討作戦の真っ最中であるうえ、内政への直接介入は国際的な批判を呼ぶ可能性が高いためだ」と報じている。
一方、朝日新聞デジタルは、シャリフ氏から出動要請を受けた軍部が政権とデモ隊の双方に対話を促す異例の声明を20日に発表しており、そのため「軍部の介入に懸念が広がっている」と伝えている。
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