[ロンドン 5日 ロイター] - 西アフリカで過去最悪の感染規模となっているエボラ出血熱。致死率は過去の感染に比べるとまだ低いものの、専門家はこのまま犠牲者が増え続ければ、最終的にそれも時間の問題だとみている。
世界保健機関(WHO)の最新データによると、西アフリカではこれまでに1603件の感染が確認され、887人が死亡。致死率は55%強となっている。
これは、「ザイール株」のエボラウイルスによる過去14回の流行の平均致死率78.5%をはるかに下回る。ザイール株とは1976年に最初に同ウイルスが見つかったザイール(現コンゴ民主共和国)にちなんで命名された。WHOによると、過去の流行では、致死率が90%に上るケースもあったという。
専門家はエボラ出血熱の流行が収束に向かうとみているが、それとともに致死率も上昇する可能性があると指摘する。
今年2月から感染状況を注視している英ランカスター大学のウイルス学者、デレク・ギャザラー氏はロイターに対し、「流行が終わりに近づくにつれ、致死率はザイール株によるエボラ流行の平均致死率80%に迫っていくことが予想される」と語った。
英レディング大学のウイルス学者、ベン・ニューマン氏によれば、エボラ出血熱はウイルス感染から死に至るまで最長1カ月程度だという。
今回、感染が最初に確認されたギニアの致死率はすでに74%に達している。感染地域の致死率としては、リベリアとシエラレオネがそれぞれ54%と約42%となっているため、低く抑えられている。
ニューマン氏は新たな感染による結果が出るまでは数週間かかるとしたうえで、「シエラレオネに感染が広がったのはごく最近であるため、現時点で致死率はギニアよりかなり低いように見える」と述べた。
治療によって致死率が低く抑えられるという望みも少なからずある。ニューマン氏によれば、感染後すぐに治療が開始できれば、生存率はかなり上がるという。
エボラ感染に見舞われた西アフリカは世界最貧困地域の1つであり、公立の病院でも基本的な医療器具さえ不足していることが多く、衛生的な環境とも言い難い。
また、隔離され孤独な状態で死に至る恐怖や完全防備な医師への疑念から、治療をまったく受けようとしない患者もいる。こうしたケースは、致死率の統計にはカウントされない。
<治療法なし>
エボラ出血熱には確立された治療法や感染を防止するワクチンは今のところ存在しない。最善の対処は、重度の脱水症状を引き起こしかねない発熱やおう吐、下痢といった症状を緩和することだ。
患者は電解質溶液の経口補水や点滴が必要な場合があるほか、重症患者には集中治療が欠かせない。
だが、感染が拡大するギニアやシエラレオネ、リベリアは最もぜい弱な医療制度を持つ国として、国連の人間開発指数の下位にランクされている。加えて、穴だらけの国境警備体制や不衛生な環境、エボラ出血熱に対する無知が感染拡大に拍車をかけている。
ナイジェリアの保健当局者は5日、最大都市ラゴスで8人がエボラ出血熱に感染した疑いがあると明らかにした。8人は、リベリアから搬送された米国籍の患者と接触していたが、この患者はラゴスの空港に到着後すぐに死亡した。また、サウジアラビアの保健省は、シエラレオネから帰国した男性に感染の疑いがあり、現在検査していると発表した。
西アフリカでエボラに感染した米国人支援者2人は治療のため帰国したが、彼らの場合、高い水準の医療が受けられることで生存の可能性は高まるとみられている。
世界銀行が2011年に68カ国を対象に実施した調査によると、ギニアでは1人当たりの病床数が最も低く、1万人に対しわずか3床となっている。
また主要都市以外のクリニックでは、ビニール手袋のような基本的な医療用具すら整っていないと専門家は指摘する。
ギニア、リベリア、シエラレオネの医療機関では、マラリアやその他の熱性疾患を日常的に治療しているが、エボラ出血熱ほど致死性の高い病気を扱う準備は整っていなかった。保健当局や医療系の非政府組織は仮設の隔離棟を急造しなければならず、地方ではそれは往々にしてテントを寄せ集めただけのものだった。
前述のウイルス学者、ニューマン氏はエボラ出血熱についての知識を広め、治療を受けるよう促す広報活動が致死率低下に役立つとする一方で、「治療の向上が生存率を高めることは間違いないが、残念ながらそれを上回る勢いで犠牲者は増えていくだろう」と述べた。
(Kate Kelland記者 翻訳:伊藤典子 編集:宮井伸明)
関連記事