ガザ侵攻をめぐり、イギリスでイスラム教徒の国務大臣が抗議の辞任(独占インタビュー)

イギリスで初のイスラム系閣僚だったバロネス・ワルシ氏が、ガザ侵攻に対してイギリスが「道徳的に弁護の余地のない」立場をとっていることを引き合いに出し、突如大臣を辞任した。
Baroness Warsi speaks during the opening session of the Annual Conservative Party Conference at the International Convention Centre, Birmingham.
Baroness Warsi speaks during the opening session of the Annual Conservative Party Conference at the International Convention Centre, Birmingham.
David Jones/PA Archive

イギリスで初のイスラム系閣僚だったバロネス・ワルシ氏が、ガザ侵攻に対してイギリスが「道徳的に弁護の余地のない」立場をとっていることを引き合いに出し、突如大臣を辞任した。

デーヴィッド・キャメロン首相に宛てた辞表で、ワルシ前国務大臣はイスラエルのハマスに対する軍事行動をイギリスが支持し、この1ヶ月で1800人以上ものパレスチナ人の死者を出したことは、「道徳的に弁護の余地がなく、イギリスの国益に反し、我が国の評判に不利益な影響を長期的に与える」と述べている。

ワルシ氏は、連立政権が2010年に成立してから初めて、「信条に基づいて」辞任した大臣となった。ガザ侵攻に対する首相の対応を労働党のエド・ミリバンド党首が批判し、エジプトの首都カイロで8月4日夕方にイスラエルとハマスが72時間の停戦で合意した後、辞任が決まった。

8月5日朝、辞任後初となるハフィントンポストUK版との独占インタビューでワルシ前大臣は、中東の問題で「公正な仲裁者」としての役割を怠ったとして連立政権を批判、イスラエルへの禁輸措置をすぐに行うよう求めた。

「イギリス政府が中東の危機を建設的に解決する役割を果たすには、公正な仲裁者という立場をとることでしかできません。現時点では、そのような立場がとれているとは思えないのです」とワルシ前大臣は述べている。

ワルシ前大臣は、保守党委員長として、また無任所大臣として、2010年5月キャメロン首相に任命され、初のムスリム系として無任所大臣として入閣した。しかし先週、外務省当局者の話としてワルシ前大臣がガザに関して「政府の方針に深刻な不安と懸念」を抱いているとChannel 4 Newsが伝えていた。

ワルシ前大臣は、辞任した理由を5日朝、ハフィントンポストUK版に語った。イスラエルとハマスが一時的に停戦したにも関わらず辞任を決意したのは、この1カ月の間に起きた戦闘で、戦争犯罪者たちの責任を問う必要があるにもかかわらず、イギリス政府がその責任追及のプロセスを支持するとは思えなかったからだと述べている。「国際刑事裁判所 (ICC) の担当大臣として過去2年半、ICCを発展させ、支援や資金提供をしてきました。にもかかわらず、我が政府がパレスチナの指導者たちにICCに出向き、訴訟手段をとらないよう継続的に圧力をかけていることは、行動が一致しないと感じたのです」

ワルシ氏は、保守党委員長を務めた後、2012年9月の内閣改造で外務省の無任所大臣に任命された。ハフィントンポストイギリス版とのインタビューで2012年11月以降、イスラエルとパレスチナの紛争に関する連立政権の姿勢と対立してきたことを明かした。「パレスチナをオブザーバー国家として承認する2012年11月の国連決議を棄権した我が国の姿勢は、我々を歴史の間違った側に位置づけました。私は当時、反対声明を出さなかったことを非常に後悔しています」

現在、ワルシ氏はガザ地区の問題に関して「より自由に意見を述べていきたい」と考えている。辞表を提出した後に最初に望んだことは、イスラエルへの兵器の禁輸措置である。「イギリス政府が兵器をイスラエルに売却することを許してきたから、この4週間だけでも何百人もの子供を含む2000人以上もの人が殺されたことにぞっとします。イスラエルへの兵器輸出は停止しなければなりません」

ワルシ氏が辞任したことで、今後はイスラエルによる空爆とガザ地区への侵攻に対して、キャメロン首相がより強硬な処置をとるよう、より一層の圧力をかけることが予想される。これまでにも、パレスチナ側で増え続ける市民の被害に対し、ウィリアム・ヘイグ前外相や下院の有力議員であるマーゴット・ジェイムス氏など、多くの保守党の主要議員が懸念を表明している。

ワルシ氏はハフィントンポストUK版のインタビューに対してこう答えている。「私はコンサバティブ・フレンド・オブ・イスラエル(保守党のイスラエル支援団体)を長きに渡り支持してきました。イスラエルが存続と安全の権利を有していることも基本的に支持しています」と話した。しかし一方で、潘基文国連事務総長が『犯罪行為』で『道徳的に憤慨させる』と断罪し、フランスの外相が『大量虐殺』と評したイスラエル軍の行為を傍観することはできなかったのです」

「イスラエルが繰り返し行っているガザ地区住民の虐殺を強く非難することを、イギリス政府が躊躇していることに失望しました」とワルシ氏は述べる。イギリス政府の態度は他国の政府や世界中の国際機関とは対照的だ。「国連は『道徳的に憤慨』しており、アメリカ政府は学校への砲撃を『完全に弁護の余地がない』としている。その一方、イギリス政府は腰を上げないままなのです」

ワルシ氏は、ハマスによるイスラエルの攻撃を擁護するつもりはないと明言した。「ハマスはテロリスト組織です。イスラエル市民に向けてロケットを発射していることを正当化できないですし、弁解の余地はありません。ハマスも、イスラエルとパレスチナにもたらした惨劇に対して責任を追及されるべきです」と、ハフィントンポストUK版に話した。

しかし、ワルシ氏は「イスラエルは占領する側として、イスラエル人の防衛はもちろんのこと、パレスチナ人を防衛する責任もあるのです」と付け加えた。

首相へ宛てられたワルシ氏の辞表は自身のツイッターにも掲載された。ワルシ氏は、決断は「容易ではなかった」とし、首相に対する「個人的な支持」は今も変わらずあるとした上で、「自らが下した決断や私が支持した決断に対し、自分自身で受け入れることができないといけません。政府に留まったままでは、そういったことを確信をもってできないと感じました」と述べた。

ロンドンのボリス・ジョンソン市長はラジオで、ワルシ氏がガザ問題から身を引く決意をしたことに「とても残念」だと述べ、彼女に対し「大いに尊敬していた」と語った。

バロネス・ワルシ氏の辞表の全文

キャメロン首相

この数週間、会議や議論の場で、ガザ地区での紛争とそれに対する我が国の対応に関して、私の見解を隠し立てせず正直に申し上げてきました。

中東の平和構築に関する我が国の方針、特にここ最近のガザは紛れもない危機の中にあり、我々のアプローチや発言は、道徳的に弁護の余地のないものであり、イギリスの国益に反しており、我が国の国際的、国内的な評判に不利益な影響を長期的に与えるものだ、というのが私の見解です。

とりわけ国連、国際刑事裁判所、人権における責任を任命された大臣として、我々の現在の紛争に対するアプローチは、我々の価値観、特に我が国の法の支配へのコミットメントや長年築き上げてきた国際司法への支持と相容れないものだと考えます。様々な点において、ケン・クラークやドミニック・グレイヴなどの経験と専門性を兼ね備えた同僚たちの不在が、ここ数週間でとりわけ明らかになりました。

辞任の決断は容易ではありませんでした。影の内閣での3年、内閣での4年、貴方の下で務められたことは光栄でした。貴方が首相に立候補した2005年、ブラックプールで貴方の応援演説を行い、首相としての旅路が始まったあの時、共にその場にいることができたことを嬉しく思い、旅路の最後まで共にできたなら、やりがいがあったであろうと思います。

この10年間、保守党や政府の最も優秀な人たちと仕事をする機会を頂きました。ウィリアム・ヘイグ氏は、おそらく歴代の外相の中で最も有能な人材で、様々な刺激を受けました。労働党政権がソファ・ガバメント(側近を重用する政治)で決定していた外交政策を排除し、外務省に政策決定権と威厳を取り戻しました。しかし、外務省の各大臣や年長の官僚の間ではここ最近、様々な決定方法に対して大きな懸念がありました。

エリック・ピクルス氏(コミュニティ・地方自治体大臣)は、私が行ってきたヘイトクライムの根絶、反ユダヤ主義やイスラム恐怖症への対抗、公的な場での信仰の自由についての取り組みを支援してくれました。この政界での経験は、信教の自由の問題に関して、とりわけ増え続けるキリスト教徒の迫害という危機に関して、国際的にリードしていくという新たな自信を与えてくれました。

しかしながら、内務省が当初示した、現在の紛争がもたらす副次的影響と今後ガザで危機が起こりえる可能性、そして我々の対応が事態の過激化の原因となるという見通しは、この先何年にも渡り我々に悪影響を及ぼしかねません。

ピクルス大臣とヘイグ前外相からは、情熱と理想主義を実用主義と現実主義で調和させる方法を教わりました。しかし、私がいつも言い続けたことは、政治家人生が終わった後も、自ら選んだ決定や、支持する決断を自分自身で受け入ることができないといけない、ということです。政府に留まったままでは、現時点では、そういったことを確信をもって出来ないと感じております。

こうした理由から、たいへん遺憾ですが、辞任するためにこの辞表を書いている次第です。

イギリスが今日直面する困難を乗り越えるべく党を発展させ続けていくこと、そして今日のイギリスを構成するコミュニティ全てに耳を傾け関係を保っていくことが保証される限り、保守党の党首としての貴方を、個人的にこれからも全面的に応援し続けます。

敬具

サイーダ

English by Translated by Gengo]

ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています

ハフィントンポスト日本版はTwitterでも情報発信しています

注目記事