文化審議会は7月18日、重要無形文化財保持者(人間国宝)に、色絵磁器の十四代今泉今右衛門さん(51)ら7人の認定を下村博文・文科相に答申した。陶芸家としては最年少。これにより、人間国宝は芸能の部58人、工芸技術の部59人、累計で117人となる。
十四代今泉今右衛門さんの作品「色絵薄墨墨はじき柘榴文蓋付瓶」
今泉今右衛門さんは、江戸時代に佐賀・鍋島藩の御用窯「鍋島藩窯」の御用赤絵師を代々務めていた今泉家に次男として生まれた。鍋島藩窯では、民間の窯で焼かれていた「伊万里焼(古伊万里)」とは別に、販売を目的とせず将軍への献上や幕府の要人・大名への贈答品とされた「鍋島焼」をつくることが主な目的とされていた。
今右衛門さんは武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科を卒業した後、陶芸作家・鈴木治に師事。1990年以降は、父であり人間国宝に認定された十三代今泉今右衛門のもとで家業に従事し、色鍋島を中心とする色絵磁器の陶芸技術を習得した。
販売に専念するという兄の代わりに、2002年に十四代を襲名した後は、家伝の「色鍋島」の技法を中心としながら、江戸時代から鍋島焼に用いられている「墨はじき」という技法を発展させた当代オリジナルの「雪花(せっか)墨はじき」を駆使している。
「墨はじき」ではまず墨で文様を描き、その上を染付で塗る。その後、素焼の窯で焼くと墨が飛んで白抜きの文様が現われるというもの。古伊万里はほとんどが絵の具で線描きされているのに対し、手間のかかる墨はじきを使って背景のトーンを微妙に抑えるのは、敷島焼きだけが使う特徴だ。
「目に見えるところに神経を遣うのは当然のことであるが、鍋島の世界では、このような、『墨はじき』の技法のような、目にみえない所に、神経と手間を惜しまない、何かこの感覚が鍋島の"高い品格"と"高い格調"を醸し出す要因になっているような気がする」
(今右衛門ホームページ「墨はじきについて|十四代今泉今右衛門」』より)
「墨はじき」は優しく、控えめな印象を与えるため、かつては主文様の背景に使われることが多かったが、当代は主文様にも使うようになった。
ある時、伝統技法の墨はじきで梅の花の芯を描くと、焼き上がりが雪の結晶に見えることに気づいた。以来、雪の結晶文様を追求し始める。墨で描いた結晶に白の化粧土をのせ、白だけの濃淡で文様を見せる。少し離れると見えなくなるほどの淡く微妙な世界だ。幾度もの失敗を繰り返し完成させた。「写真家泣かせなんですよ。写らないくらい。でもそういう文様のつくり方こそが色鍋島の骨頂なのです」
(エス・バイ・エル『「用と美」今泉今右衛門』より)
Bowl with snow flower patterns, 2012; porcelain with iro-e polychrome enamel painting with light sumi and sumi-hajiki; h. 5 1/10 x dia. 17 9/10 in. (13 x 45.6 cm) Flickr / Onishi Gallery
今右衛門さんの作品について、佐賀県知事の古川康氏は次のようにコメントを寄せている。
「茫洋と広がる薄墨の空に浮かび上がる墨はじきの雪の結晶は、今を照らしつつ、連綿と続く先人の積み重ねを内に包み込んでいます。空間の広がりはどこまでも続くようで、自分自身がその中へ吸い込まれていくかのような錯覚に陥ります」
また、今右衛門さんは上絵付にプラチナを施して変幻的な白金色を輝かせる「プラチナ彩」を導入するなど、色絵磁器の表現に新生面を開いた。答申では「伝統技法の上に独自の作風を確立し、現代感覚にあふれ、芸術的にも優れたもの」として高い評価を得た。
自身の作風について今右衛門さんは、「陶芸という仕事は決められた価値観を表現する仕事ではなく、その時その時の自分の思いを、固定観念にとらわれることなく表現する仕事」と述べ、「今右衛門」の各代が各々の時代に挑み、新たな展開を切り開いてきた“伝統”を引き継ぐ考えを見せている。
年を重ねることによって見えてくる世界もある。30代には30代なりの、40代には40代なりの美意識があるということである。
「人間には、ある年齢に達しないと見えてこないものがあるんです。同じものを見ても30代のときには気がつかなかったものが40代になって見えてきたり、感動できたりするんです。おそらく、いまの自分には見えていないものが、50代になったら見えてくるのかも知れません。近道も廻り道もない世界。それは人間の懐が大きくなるということとも関係してくるんでしょうね」
(今右衛門ホームページ「色鍋島今右衛門窯 緊張感のある間で描く|十四代今泉今右衛門」より 2008/04)
ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています。
ハフィントンポスト日本版はTwitterでも情報発信しています。@HuffPostJapan をフォロー